Netpress 第2376号 交渉の可否など 退職代行を使われた場合の企業の対処法は?

Point
1.退職代行では、退職代行業者の運営主体によって提供できるサービスが異なります。
2.一般企業が運営する退職代行業者への対応では、弁護士法72条に違反する行為には加担できない旨を伝えましょう。
3.それでも交渉を求められる場合には、相手のペースに乗せられて違法行為に加担することがないように、いったん電話を切りましょう。


小林・福井法律事務所
弁護士 小林 元治
弁護士 梅田 弘文


1.退職代行の概要

退職代行とは、退職したいと考えている従業員本人に代わって雇用先に対して退職を申し出るというサービスです。


近年、退職代行業者の急増に伴い、規模を問わずさまざまな業種の企業において、退職代行業者から連絡を受ける事例が生じています。

2.退職代行業者の運営主体に合わせた対処法

退職代行業者から連絡を受けた場合、まずは、退職代行業者の運営主体を確認しましょう。なぜなら、運営主体によって提供できるサービスの内容が異なるからです。


(1)弁護士

弁護士は、依頼者の代わりに交渉することが可能です(弁護士法3条1項)。連絡に応じて、退職についての交渉を行ってください。


なお、従業員本人から依頼を受けていることを確認するためには、委任状を示すように求めましょう。本当に弁護士であるかの確認としては、日本弁護士連合会のホームページから弁護士の登録情報を検索する方法があります(https://member.nichibenren.or.jp/general_search)。


(2)労働組合

労働組合は、組合員の代わりに交渉することが可能です。従業員が組合に加入したことが疑わしい場合、加入していることの証明を求めましょう。


(3)一般企業

一般企業が運営する退職代行業者から連絡があった場合、弁護士法72条に違反する行為に加担することがないように、注意して対応する必要があります。


弁護士法72条は、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で業として、法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止しています。


なお、弁護士法77条3号は、弁護士法72条に違反した場合の罰則を定めています。


一般企業が運営する退職代行業者は、弁護士資格のない者が、報酬を受け取って業務として、労働契約の終了という法律上の効果を発生・変動させる事項の処理を行っています。したがって、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で業として、法律事務を取り扱っていることは明らかです。


弁護士法72条の「法律事件」とは、「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件」をいうものとされます。


近時の判例では、弁護士資格のない者が、ビルの所有者から委託を受けて、ビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除したうえで、ビルの部屋を明け渡させた事案があります。最高裁は、当該事案における具体的な事情を指摘したうえで、「立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」であって「法律事件」に当たるとしました(最高裁第一小法廷決定平成22年7月20日)。


退職の場合では、退職時期、有給休暇の消化、未払賃金(特に時間外手当)、業務の引き継ぎ、競業避止や機密保持の誓約、貸与品の返却といった事項について交渉が必要になることがあります。


たとえば、退職可能な時期は以下のとおりです。


労働者の申し出による退職

(ア)無期雇用の場合


→ 申入れから2週間で退職できる(民法627条1項)

(イ)有期雇用の場合


→ 契約期間中は退職できない

※ただし、有期雇用・無期雇用を問わず「やむを得ない事由」があれば、即時に退職できる(民法628条)
使用者と労働者の合意による退職

→ 両当事者の合意によって、いつでも退職できる


一部の退職代行業者は、「即日退職可能」といった広告を出しているようですが、即時に退職するためには交渉して使用者と合意に至る必要があります。


また、有給休暇や賃金に関して当事者間で認識が異なっており、争いに至ることはよくあります。現時点では争いが顕在化していなくても、後に紛争に至るような事項もあります(時間外手当の支払いや在職中のハラスメントに関する事項など)。


したがって、労働者の退職は、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」であって、「法律事件」に該当すると思われます。


労働者からの退職の申し出自体を放置することはできませんが、一般企業が運営する退職代行業者の質が担保されているわけではありません。一般企業が運営する退職代行業者から電話や文書(電子メール、SNSを含む)で退職の意思表示を受けた場合、相手の運営主体と用件を確認したら、弁護士法72条に違反する行為には加担できないので、労働者本人から連絡するよう伝えましょう。


それでも、相手が交渉を求めるようであれば、電話の場合、いったん電話を切りましょう。そのまま電話で話をしているうちに、交渉に応じてしまうかもしれません。電話を切った後で、弁護士や法務担当者に相談してください。

3.事前準備の重要性

退職代行業者を利用する従業員は退職についてあらかじめ社内で相談しておらず、代行業者から突然連絡が来るという事例が多い状況です。


退職代行業者への対応策は、事前に総務部門などを中心に検討しておくことが大切です。



本記事を執筆した小林・福井法律事務所のウェブサイトはこちら

https://www.kobafuku-law.jp/



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