Netpress 第2375号 求められる姿勢・行動は? 取締役の善管注意義務とコーポレートガバナンス、コンプライアンス

Point
1.取締役は、会社に対して善管注意義務を負っており、これに違反して会社に損害を与えた場合、その損害を賠償する義務があります。
2.取締役の善管注意義務に関する判例においては、「経営判断の原則」という考え方を用いて、適切な事実認識のプロセスと合理的な判断を経た経営判断については取締役の損害賠償責任を問わないという判断がされることがあります。
3.もっとも、このことは、コーポレートガバナンスやコンプライアンスが問題になる場面における取締役の責務が重くないことを意味しません。取締役には、株主その他のステークホルダーのために、中長期的な企業価値の維持・向上に資する積極的な役割を果たすことが期待されています。


梅田総合法律事務所
弁護士 沢田 篤志


1.取締役の善管注意義務と経営判断の原則

取締役は、会社に対して、法律上、善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)と忠実義務(以下、まとめて「善管注意義務」といいます)を負っており、これに違反して会社に損害を与えた場合、会社に対して損害を賠償する義務があります。


よく知られるように、株主代表訴訟等で取締役が善管注意義務違反により高額な損害賠償を命じられた多くの判決が存在します。


ただ、本来、企業の経営はリスクを伴うものです。取締役の業務執行には、不確実な状況下で判断をせざるを得ない場面がしばしばあります。リスクを伴う経営判断の場面において、取締役による合理的かつ迅速・果断な業務執行が行われることは、会社にとって重要です。


仮に会社の損失について取締役個人が事後的に結果責任としての賠償義務を負わされるとなると、取締役の経営判断が萎縮し、本来とるべきリスクもとらなくなり、会社にマイナスの効果が生じることになりかねません。


このような考え方を背景に、多くの判例で、「経営判断の原則」という判断枠組みが採用されています。


これは、おおむね、善管注意義務違反の有無について、次の①②の2つの観点に照らして取締役に不注意がなかった場合には、取締役に損害賠償責任を負わせないという考え方です。


①事実認識の過程
行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか
②意思決定の過程・内容
行為当時の状況と取締役に要求される能力水準に照らして不合理な判断がなされなかったか

2.経営判断にあたっての実務上のポイント

取締役がリスクを伴う経営判断をするにあたっては、「経営判断の原則」の考え方を参考に、①事実認識の過程と②意思決定の過程・内容とを区別し、それぞれに問題がないか確認することが有用です。


これにより、合理的な判断が行いやすくなるとともに、善管注意義務違反のリスクを抑えることが可能になります。


①事実認識の過程のポイント

情報収集・調査・検討のプロセスの重視、客観的な判断材料(資料、数字)の確保、必要に応じて外部専門家の意見を取得すること等が重要です。


②意思決定の過程・内容のポイント

事実に基づいて企業経営者として合理的な判断をすること、会議で十分な議論をすること、会議のメンバーにあらかじめ資料を提供し、当該資料を保存しておくこと等が重要です。

3.経営判断の原則に関する近年の判例

(1)最高裁平成22年7月15日判決

事業再編のために他社株式を買い取る際の取締役による株式の価格の決定の是非が問われた株主代表訴訟の事例です。


裁判所は、非上場株式の評価額には相当の幅があること、事業再編の効果による企業価値の増加も期待できたこと、経営会議における検討や弁護士の意見の聴取が行われたこと等の事情を指摘したうえで、「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」と判断しました。


(2)大阪地裁令和4年5月20日判決

会社が取締役の決裁を経て不動産を購入して代金を支払ったが、実際には売主が真の所有者から当該不動産を買い受けておらず、詐欺グループ(いわゆる地面師)による巨額の被害に遭った事件について、取締役の責任が問われた株主代表訴訟の事例です。


裁判所は、「判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、判断の推論過程、内容が著しく不合理なものでない限り、取締役は善管注意義務違反による責任を負わない」と判断しました。


もっとも、この判決とは別に、この事件に関する外部専門家による検証報告は、会社の構造的な問題として、縦割り意識の強さ、牽制機能の弱さ、リスク意識の低さを挙げ、経営に関わる問題点を厳しく指摘しています。

4.コーポレートガバナンス、コンプライアンスとの関係

コーポレートガバナンスとは、株主とステークホルダー(従業員、取引先、地域社会等を含みます)のための企業統治の仕組みです。


取締役は、株主によって選任され、会社のために「パフォーマンス(攻め:企業価値の向上)」と「コンプライアンス(守り:企業価値の維持)」の両方の実現を目指す責務を負っています。ここでいう企業価値は、短期的な利益ではなく、中長期的な利益にかなうものである必要があります。


コンプライアンスとは、企業不祥事のリスク管理の取り組みです。


重大な企業不祥事が発生すると、企業はレピュテーション・リスクその他の悪影響を受け、場合によっては企業の存続が脅かされることもあります。企業は、法令遵守はもちろん、視野を広く保ち、社会規範の遵守や社会から企業への信頼・期待に真摯に応えることまで意識してリスク管理を行う必要があります。


企業不祥事のリスク管理を迫られる場面における取締役の行動は、善管注意義務その他の法的義務を怠らないことだけでは不十分です。コーポレートガバナンスやコンプライアンスが問題になる場面では、取締役には、株主その他のステークホルダーのために、より積極的な取り組みを行う姿勢や行動が期待されています



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