Netpress 第2373号 先回りして対策を! 人手不足を予防する「人材年表」の活用法

Point
1.生産年齢人口の大幅な減少が待ち受けるなか、企業の人手不足への対応の重要性は高まるばかりです。
2.「人材年表」とは、企業の従業員を年齢、性別、役職、保有スキル等で整理し、一覧できるようにしたものです。
3.「人材年表」を作成・活用することで、中小企業が先回りして人手不足を予防し、さらなる成長を可能とするための方法を紹介します。


社会保険労務士法人シグナル代表
特定社会保険労務士
有馬 美帆


1.人材年表に欠かせない3つのポイント

人材年表は、各企業の事情に応じてエクセルなどを利用して柔軟に作成します。ポイントは、人材年表が人材の「見える化」と「先回り」を目的としたものであるため、「視点」「視野」「視座」の3つを意識することです。


(1)「視点」で見つめる人材年表

「視点」とは、従業員個々の基本属性で、年齢・性別・部署・役職・職務・資格・技能・状態などが主なものになります。まずは、部署と年齢に視点を置いた基本的な表を作成してみるとよいでしょう。


下の例では、性別と役職、保有資格などが記載されていますが、さらに担当業務なども工夫次第で記載することが可能です。


■人材年表の例(202X年X月時点)



「視点」の段階では、作成時の現状を素直に反映することを心掛けてください。現状というのは「働き方」だけでなく、産休・育休、さらには休職などの「働けない状態」をも含めた概念です。これにより人材活用の可能性の幅がはっきりと「見える化」されます。


(2)「視野」で見つめる人材年表

ここで「視野」とは、3年先、5年先といった「将来」を指します。「人は必ず歳をとる」ことは確実ですから、人材不足への対応は従業員の加齢を考慮に入れる必要があります。人材年表が年齢を軸に作成されているのも、その現れです。


たとえば、5年先の人材年表を作成してみましょう。人事異動や中途採用、退職などが生じ得るので、それが自社の5年先の姿そのものではありませんが、多くのことが浮かび上がってくるはずです。従業員に結婚・妊娠・出産といったライフイベントが生じる可能性がありますし、特に中高年の従業員は家族の介護といった問題に直面するかもしれません。重要ポジションにいる従業員の退職リスクなどもシミュレーションすることが可能でしょう。


人材年表は、将来の人事異動や中途採用を「先回り」して構想するためのツールです。中長期の経営計画を立てる際には、ぜひ人材年表の「3年先版」「5年先版」、さらには「10年先版」を作成して活用してください。


そして、それらを次に説明する「視座」で見つめることで、人材年表はさらに効果を発揮します。


(3) 「視座」で見つめる人材年表

「視座」とは、人材を見る立場を意味します。同じ人材であっても、視座が変わると違った見え方になります。


「育てるべき人材」「不足する人材」「リーダーシップのある人材」「マネジメント層に登用する人材」というさまざまな「視座」から人材年表を見つめることが、企業の人材マネジメントに奥行きと広がりをもたせることになります。

2.「タレントマネジメント」の土台としての人材年表

「視座」という考え方は、近年注目を浴びつつある「タレントマネジメント」にもつながるものがあります。その定義はいろいろですが、ここでは「企業が成長し続けるために、1人ひとりのタレント(従業員)とその能力に注目し、採用や育成、異動などを通じて、もっとも活躍できるポジションに配置すること」という定義を前提に説明します。


人材年表は、このタレントマネジメントの土台としての役割を果たすことができます。「視点」「視野」「視座」で人材年表を見つめたときに、自社にとって不足する人材が浮かび上がってきます。


特に、重要ポジション(キーポジション)に関する人材は、「優秀」でなければ経営にマイナスの影響が大きく出てしまいます。それを避けるために優秀な人材を外部から獲得することが必要になる場合も当然あるでしょう。しかし、それだけでなく、「タレント」のもう1つの意味である「優秀な人材となり得る能力の持ち主」にもぜひ着目してほしいのです。


人材年表もタレントマネジメントも、「見える化」のレベルにとどまってしまっては不十分です。まず、企業にとっての重要ポジションとその職務内容を明確化したうえで、自社の「優秀な人材となり得る能力の持ち主」を選別し、育成計画や配置計画を綿密に練り上げて実行に移すことが必要です。


いわゆる「タレントマネジメントシステム」が開発され普及しつつありますが、システムの導入や運用には大きな費用がかかるうえに、たとえシステムがあったとしても「視座」のない人材マネジメントでは効果を発揮しません。まずは人材年表を基本に据えてから、必要に応じてシステムの導入を検討したほうが、システムを効果的に活用できるでしょう。

3.日本型雇用の転換に対応し、人的資本経営に活かす

人材年表を作成したとしても、「○○さんは5年後ぐらいに課長にしないと…」程度の使い方では、正直なところ意味がありません。従業員が「優秀な人材となり得る能力の持ち主」なのかという選抜の「視座」で見つめて「タレント」を特定し、育成するためにこそ、人材年表を活用してほしいのです。


従業員に一種の格差をつけることを懸念される向きもあるかもしれません。しかし、日本型雇用の転換点にあるいま、それは避けられない流れでもあります。今後の人事労務管理は、「優秀な人材となり得る能力の持ち主」を早期に選抜し、優先的な育成や登用を行うことが必須となるでしょう。


その一方で、人材年表は「タレント」のためだけの存在でもありません。人は静的・固定的な存在ではなく、家庭や健康の事情にパフォーマンスを左右される動的・流動的な存在です。だからこそ、従業員一人ひとりの変化を先回りしてケアしていかなければ、そのパフォーマンスを最大限に発揮してもらうことはできません。


これらの考え方は、「人的資本経営」(人材を資本として考え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値を向上させる経営)の考え方にもフィットします。人的資本の情報開示に関する国際的ガイドラインであるISO30414には、「リーダーシップポジションの後継者準備率」といった「タレント」に関する項目もあれば、「組織メンバーの多様性」や「離職率」など全従業員に関わる項目もあります。人材年表を自社の人的資本の把握の基本に据えることも十分に可能です。


人的資本経営は、経営戦略に人材戦略を位置づけるものです。人材戦略を実現するためには、まず人手不足を先回りして予防する必要があります。その際に、自社の人材年表を作成し、「視点」「視野」「視座」の観点から見つめることは大きな力になるでしょう。



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