Netpress 第2067号 コロナ禍で増えている! 「希望退職」募集時のトラブルを防ぐために
1.新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化し、希望退職者を募る企業が増えています。
2.希望退職者を募る際の手続・留意点と、トラブルを回避するためのポイントについて解説します。
希望退職制度とは、企業が希望退職条件を提示して退職を希望する従業員を募り、それに従業員が応募して退職する制度のことです。新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化した企業を中心に、不採算事業の縮小・撤退や店舗の閉鎖等に伴い、希望退職の募集を行う企業が増えています。
1.希望退職制度の基本的な手続
(1) 現状と今後の分析
各業務分野における人員配置、現在の会社の業績と財務状況、今後の業績見通しなど、企業が置かれている現状を冷静に分析します。
これらにより、募集するべき退職者数や退職条件等を決定・策定することができます。
(2) 条件(募集要項)策定
(1)で分析した現状と今後の業績見通しをもとに、以下のような希望退職の条件を具体的に策定し、募集要項に記載します。
条件 | 内容・留意点 |
---|---|
募集人数 | 事前に分析した結果、余剰人員の数を踏まえて、募集人数を決定します。 |
対象者 | 一定の年齢以上(中高年層)に限定したり、不採算事業に従事する従業員に限定したりすることが一般的です。 |
募集期間 | いつまでに応募すればよいかを決めます。募集人数に達した場合は、期間中であっても募集を打ち切ることがあることも明記します。 |
退職予定日 | 対象者にとっては重大な決断となるので、退職予定日までに十分な期間をとります(退職予定日は、募集締切から少なくとも3か月以上先に設定することが望ましい)。 |
優遇措置 | 退職金支給率の割増、退職金額の上乗せなどを決定します。財務状況等を考慮しながら、どの程度の優遇が可能か吟味を重ねることが重要です。 |
希望退職への応募を会社が拒否する条件 | 会社が必要とする人材の引き留めに必須です。「会社は応募者の希望退職の申し出を承諾しないことができる。その場合、優遇措置は適用しない」旨を明記します。 |
守秘義務に違反した場合 | 機密情報の漏洩や希望退職の実施後に懲戒事由が発覚した場合、退職金の特別加算部分を返還しなければならないことを記載するのが一般的です。 |
そのほか、再就職先のあっせん・特別有給休暇の付与等の方策があれば、募集要項に記載します。
(3) 希望退職の募集
希望退職の条件が固まったら、いよいよ募集です。企業に労働組合が組織されている場合は、事前に労働組合と協議して了承を取り付ける必要があります。
従業員への周知方法としては、説明会の実施、社内イントラネットでの告示、社内メールによる通知等が考えられます。この際、希望退職の募集について従業員とのトラブルを極力招かないようにするためにも、従業員から意見・質問等が寄せられた場合は、誠実に対応するように心掛ける必要があります。
2.募集する際の実務上の留意点
(1) 執拗な退職勧奨を避ける
希望退職に応募しない従業員に対して、執拗に応募を要請することはやめましょう。そもそも希望退職制度にそぐわない行為でもありますし、損害賠償責任を負う可能性もあります。
(2) 退職後の守秘義務に留意する
希望退職制度によって退職する従業員のなかには、持ち合わせているスキルや知識等だけでなく、重要な企業秘密を知り得ている人がいるかもしれません。
このような従業員が競合他社に転職した場合、それら企業秘密が漏洩することにより、自社の競争優位性を保つことが困難になるケースもあります。
対策として、従業員の退職時に「秘密保持誓約書」など、在職時に知り得た企業秘密は退職後も漏洩しないという旨の書面を取り交わしたほうがよいでしょう。
(3) 退職時の証明書を交付する
労働基準法22条の規定により、退職する従業員から、以下の事項に関する証明書の請求があったときは、会社は遅滞なく交付しなければなりません。
・使用期間
・業務の種類
・その事業における地位
・賃金
・退職の事由
なお、これらの証明書について、会社は退職する従業員が請求しない事項について記入することは禁止されていますので、注意が必要です。
(4) 条件どおりに実施する
希望退職は、当初の条件どおりに実施する必要があります。希望退職の条件や募集の経緯などについて、企業側に違法性があると認められると、そもそも希望退職自体が従業員の自由意思に基づかないものとして無効になる可能性があります。
3.希望退職の実施後を見据えて
希望退職を募集する場合は、目的・応募条件をはっきりさせてから運用することが大切です。これらが曖昧なまま希望退職を実施しても、十分な効果を上げることは難しいでしょう。
希望退職を募集するに至った状況は、企業にとって本意ではないはずです。会社に残った従業員としても、将来への不安が増している状況と思われます。また、人員削減によって一時的に人手不足に陥ることもあり、従業員のより一層の踏ん張りも求められるでしょう。したがって、希望退職の募集が終わったら、在籍している従業員に対して、経営陣が明確な将来のビジョンを示すことが大切です。
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