Netpress 第2062号 これだけは知っておきたい! 「空き家問題」についての相談事例と対策・留意点
1.“空き家問題”に国として対応すべく、平成26年に略式代執行等について規定した「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、「空家法」といいます)が成立、平成27年5月に全面施行されました。
2.空き家の適切な管理は所有者の義務になります。空き家を放置していると、各種法令による責任が発生し、問題が起これば損害を賠償する責任を負います。
<相談事例>
Aさんの所有する土地の隣地には、10年ほど前から空き家となっているBさんの名義の戸建て住宅が存在しています。
昨年の台風で、空き家の一部が破損し、Aさんの所有地に、隣地の空き家から瓦礫が飛んできました。Aさんはやむを得ず、自身の費用で当該瓦礫を処理しました。
Aさんとしては、撤去費用についてはBさんに請求したいと考えています。また、今後ますます劣化していく空き家に不安を抱き、空き家を撤去してもらいたいと考えています。
このような事例について、Aさん個人として、また本件空き家が存在する自治体は、法令上、Bさんに対してどのような手段を取り得るのでしょうか?
<回答>
空き家は個人の財産であり、万が一、所有する空き家が原因で周辺住民など第三者に被害を与えた場合は、その所有者(相続人を含みます)や占有者等が責任を負うことが法により定められており(民法第717条)、損害賠償などの管理責任を問われることがあります。
この管理責任は、相続放棄した場合でも次の相続人が決まるまでは、管理義務を免れません(民法第940条)。
Aさんとしては、まずは隣地の所有者を探し、瓦礫の撤去費用を請求することが可能です。
自治体に対しては、危険な状態にある空き家が存在することを通報、相談してください。通報された自治体は各種調査のうえ、一定の基準を満たす場合には空家法上の「特定空家等」に指定することができます。
特定空家等に指定されると、空き家の所有者又は管理者に対して勧告に留まらず、命令が出され、状況によっては過料の処分や行政代執行が行われる場合もあります。
本件事例でも、空き家の所有者が適切な対応を取らない場合には、自治体が所有者に代わって空き家を撤去することが可能となっています。
<事例の詳細解説>
(1) はじめに
本件の相談事例のように、適切な管理が行われていない空き家は、その地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていると考えられます。
以前は、従来の法令や各自治体が独自の条例を制定して対処してきましたが、国として対処すべく「空家法」が制定されるに至りました。
空家法上の「特定空家等」と認定されることによって、自治体が所有者等へ改善を求める助言や指導、勧告、命令等の措置を行うことが可能となりました。
また、所有者やその相続人の調査をすることが以前と比べて容易となり、必要に応じて敷地内の調査をすることも可能となりました。
(2) 特定空家等について
空家法に基づき、自治体の職員や委任を受けた土地家屋調査士などによる調査が行われ、対象となる住宅が以下のような状態にあると判断された場合、特定空家等に指定することができます。
・倒壊など著しく保安上危険となる恐れがあること
・著しく衛生上有害となる恐れがあること
・適切な管理がされていないことによって著しく景観を損なっていること
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切であること
(3) 特定空家等に指定された場合について
空き家の所有者又は管理者に対して勧告に留まらず、命令が出され、状況によっては過料の処分や行政代執行が行われる場合もあります。
また、建物が建っている土地の固定資産税における評価額減に関する特例(固定資産税等の住宅用地特例)が解除される場合があります。
(4) 特例措置の利用
一方で、空き家についての税に関する特例措置があり、空き家を相続または遺贈によって取得した人が、売却するときに一定要件を満たせば、売却益に対する譲渡所得の金額から最高3,000万円を特別控除することが可能となっています。
(5) 最後に
空家法の施行後も毎年空き家は増え続け、社会問題であり続けています。また、相続登記の義務化など空き家に対する法整備も継続的に協議されています。
空き家を所有している、または相続で所有することになる人は、景観を損ね近隣住民の迷惑にならないように空き家を管理する必要があります。そして、自身で解決できない場合には、自治体や専門家を頼って適切な対応をするようにしましょう。
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