Netpress 第2057号 従業員と役員との違いなどに注意! 退職金を損金算入するタイミングを確認する

Point
1.一般従業員や役員が退職した際には、会社の規定に則って退職金が支払われるのが一般的です。
2.その経理処理については、一般従業員と役員とで取り扱いが異なることに注意する必要があります。


税理士 林 義章


一般従業員に対する退職金は、企業が定めた退職金規定により支給します。一方、役員に対する退職慰労金については、株主総会の決議などの手続を経て支給の有無を決定することになります。このため、税務上、退職金を損金算入するタイミングや会計処理の取り扱いが異なっています。

1.一般従業員の退職金処理

(1) 損金算入するタイミング

会社が一般従業員に対して退職金を支給するための制度としては、次の2つのものがあります。


●「退職一時金制度」

●「企業年金制度」(確定給付企業年金、確定拠出年金、中小企業退職金共済など)


退職一時金制度と企業年金制度では、会社が費用を支出するタイミングが異なることから、損金算入のタイミングも異なることになります。


① 退職一時金制度の場合

一般従業員の退職金について法人税法上、特有の定めはありませんので、債務の確定時に損金算入します。

たとえば、3月決算の会社が2020年3月31日に退職した従業員Aに対し、退職金の支給日である2020年4月25日に、退職金規定に基づいて算定した退職金を支給したとしましょう。

この場合、従業員Aに対する退職金については、2020年3月31日において未払いではあるものの、その時点で債務が確定しているものとして、2020年3月期において損金算入することができます。


② 企業年金制度の場合

企業年金制度に加入している場合、会社がその企業年金制度に係る掛金等として支出した金額は、その支出した日の属する事業年度において損金算入します。

なお、これらの掛金等について現実に納付または払込みをしない場合には、未払金として損金算入することができない点に留意が必要です(法人税基本通達9−3−1)。

企業年金制度に加入している場合、従業員への企業年金または退職一時金の支給については、会社がそれまでに支出した掛金等を原資として、企業年金制度における外部の委託機関で行うことになりますので、従業員が退職した時点での会社側の税務処理は特にありません。


(2) 経理処理

退職金規定により将来の退職金の支出が見込まれ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、企業会計上、将来発生する退職金のうち、当期の負担に属する金額を当期の費用として引当金に繰り入れ、その引当金の残高を貸借対照表の負債の部に記載します。この引当金を「退職給付引当金」といいます。

退職給付引当金の見積もりについては、「退職給付に関する会計基準」と「退職給付に関する会計基準の適用指針」で、その会計処理の方法が定められています。

従業員数300人未満の企業や、会計監査を受けていない企業の場合には、退職給付債務を「自己都合要支給額」(期末において全従業員が自己都合で退職したと仮定した場合に支給しなければならない退職金の総額)とする簡便的な計算により退職給付引当金を設定することができます。

退職一時金制度や確定給付企業年金制度を採用せず、確定拠出年金や中小企業退職金共済などのように企業の負担が掛金拠出時のみの場合には、退職給付引当金の設定は行わず、掛金の拠出時に支出した金額を退職給付費用として計上します。

2.役員退職慰労金の処理

(1) 損金算入するタイミング

退職した役員に支給する退職慰労金は、株主総会の決議等(社員総会などでの決議や、委任を受けた取締役会の決議を含みます)によりその支給額が確定します。そのため、原則として、株主総会の決議等によりその支給額が具体的に確定した日の属する事業年度において損金算入することになります。

ただし、会社が役員への退職慰労金をその支給日に損金経理した場合には、その支給日の属する事業年度において損金算入することも認められています。

(2) 経理処理

会社が役員に支給する退職慰労金については、臨時的な費用であることから、損益計算書上、特別損失として経理処理を行うことになります。

ただし、将来において役員に退職金を支給することが見込まれ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、役員退職慰労引当金を設定し、将来発生する役員退職慰労金のうち、当期に属する部分の金額を営業費用として計上します。

監査上は、支給に関する内規に基づき支給見込額が合理的に算出されるなど一定の場合には、役員退職慰労引当金を設定しなければならないとされています。

3.経理処理の選択と留意点

会社の退職金の経理処理は、会社の規模、会計監査の有無などによって異なります。

法人税の確定申告のためだけに経理を行っている場合には、上記の方法によらず、損金算入のタイミングで退職金として費用計上を行っていることもあるでしょう。

しかし、会計監査を受けており原則的な会計基準に基づく経理処理を行っている会社や、「中小企業の会計に関する指針」または「中小企業の会計に関する基本要領」に基づいて経理処理を行っている会社の場合、法人税法上の損金算入のタイミングと、経理処理上の費用計上のタイミングに差異が生じることから、法人税の確定申告上、別表四(所得の金額の計算に関する明細書)により申告調整を行う必要があります。


以上、見てきたとおり、退職金については、一般従業員と役員では損金算入のタイミングや経理処理が異なっています。また、経理処理上の費用計上のタイミングと、税務上の損金算入のタイミングにも違いがあることから、法人税確定申告への影響がある点にも十分に留意する必要があります。


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