Netpress 第2041号 税務署の目が光る! 中小企業で問題になりやすい役員の借入・貸付

Point
1.中小企業では、役員が会社に資金を貸し付けたり、役員が会社から借り入れたりすることがあります。
2.こうした取引は、後々、税務調査等で問題になることも多いことから、税務上のポイントを確認します。


小谷野税理士法人 税理士・公認会計士 長谷川 徳男


株主と経営者(役員)が同族関係者で占められる中小企業の場合、会社のお金と役員のお金とが混同されやすく、明確な契約がないまま金銭の貸借が行われ、長期間放置されるケースも見受けられます。

以下、会社と役員間の金銭の貸借について、税務上押さえておくべきポイントをみていきます。

1.会社が役員から借入を行う場合

(1) 利息の取り扱い

会社が役員へ利息を支払う場合には、役員が受け取った利息は、役員個人の雑所得とされます。この場合、その役員が給与所得者で、仮に利息の金額が年間20万円以下であっても、確定申告が必要とされます。一方、支払う会社側では、支払利息として損金算入が認められます。

なお、会社から役員へ支払われる利息が、適正な金額よりも高額である場合には、その超過する部分については、役員給与とみなされることがあります。

支払う会社側では、その支払いが毎月同額であれば、役員給与として損金算入が認められ得るものの、臨時支払いである場合には、損金算入が認められないことになります。

さらに、定期同額であっても、本来の報酬と合わせて不相当な金額とされる場合には、損金算入が認められないため注意が必要です。この場合に、利息が適正な金額であるか否かは、後述する会社が役員へ貸付を行う場合とは異なり、税法上明確に規定されていませんが、基本的にこれと同様に考えるべきものと思われます。

(2) 無利息である場合

役員が会社から利息を受け取らない場合には、原則として、役員個人に利息収入が認定されて課税されることはありません。一方、会社側では、利息負担が軽減される部分について、収益として認定されたとしても、同額の支払利息が計上されることで所得は発生せず、課税上の問題は生じません。

以上は原則の取り扱いですが、課税上弊害があるとして、役員に利息の認定課税が行われたケースがありますので注意が必要です。

(3) 相続税上の問題点

役員が会社に対して貸付をしたまま亡くなった場合には、当該貸付金は役員の相続財産に含まれ、課税対象とされます。貸付金元本の相続税評価については、「その返済されるべき金額」とされたうえで、民事再生法などによる手続の開始が決定した場合のほか、その回収が不可能または著しく困難であると見込まれるときは、それらの金額は元本の価額に算入しないとされています。

他方、相続税対策として、生前に、貸付金を会社に対して現物出資するデット・エクイティ・スワップ(DES)が行われることがあります。これは、貸付金が株式に転換されることで、相続税評価額が圧縮できる場合があることを利用した節税対策です。

しかし、会社側で債務免除益が認定され、思わぬ課税が生じる場合もありますので、実行には慎重な検討が必要です。


(4) 税務署の見方

役員からの借入額が年々増加するような会社では、役員報酬額とのバランスから、会社が収益の一部を適正に経理処理していない、役員が他者から贈与を受けている等、取引実態の有無や、その資金の出所に疑念を持たれる場合があります。


■金銭貸借の利息の基本的な取り扱い


2.会社が役員へ貸付を行う場合

(1) 利息の取り扱い

会社が役員に対して貸付を行う場合には、適正な利息を徴収することが必要です。会社は、常に経済合理的に行動することが想定されるためです。

無利息または適正な利息よりも低率である場合には、会社においては、適正な利息収入があったとみなされる一方、役員側では、差額について給与として課税されるのが原則です。

適正な利息との差額が役員給与とされる場合には、会社側では、その利息額が毎月おおむね同額であれば、定期同額給与として損金算入することができます。ただし、本来の報酬と合わせて不相当な金額とされる場合には、損金算入が認められないことになります。

(2) 無利息であっても課税されない場合

無利息や適正な利息よりも低率である場合、債務者である役員個人について所得税が課されるのが原則ですが、次の場合には課税が免除されます。


① 災害や病気などで臨時的に多額の生活資金が必要となり、合理的と認められる金額や返済期間で貸し付ける場合

② 差額分の利息の金額が年5,000円以下である場合


また、法人税の取り扱いにおいても、無利息または適正な利息よりも低率である場合の差額について、所得税が課されず、給与として経理しなかったものは、給与として処理しなくてもよいとされています。

(3) 相続税上の問題点

会社から借り入れたまま役員の相続が発生した場合には、役員の相続税の計算上、当該借入は債務として相続財産から控除することができます。しかし、金銭消費貸借契約の実態(金利や返済期限、返済スケジュールなど)が不明確である場合には、債務控除が認められないことも考えられるため注意が必要です。

(4) 税務署の見方

役員への貸付金が返済されず、長期間放置されている場合には、その役員に対する給与とみなされて課税されることがあります。金銭消費貸借契約書を作成して、金利や返済期限、返済スケジュールなどを明確にしておくことが望まれます。また、取締役会や株主総会など然るべき機関決定を受けたうえでの貸付であることを証するために、議事録を残しておくべきでしょう。


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