Netpress 第2021号 あらためて確認しておきたい 助成金・補助金を受給した際の経理処理
1.新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例として、政府は雇用調整助成金や持続化給付金などの助成金・補助金・給付金(以下、「補助金等」といいます)の支給を拡大しています。
2.ここでは、企業が補助金等を受給した際の基本的な経理処理について解説します。
「雇用調整助成金」や「IT導入補助金」「持続化給付金」などを受給した(する)法人が増えています。こうした補助金等の制度の名称・枠組みは異なっても、「返済不要の制度である」「法人税法上、原則として課税所得となる(根拠法令等に別段の定めがない場合)」「消費税は課税対象外(不課税)」という点はすべて共通しており、会計処理上、区別する必要はありません。
ただし、補助金等には、経費の負担軽減を目的としたものと、設備購入資金の補助等を目的としたものの2種類があり、後者の場合には圧縮記帳(詳しくは後述)が選択できる点で違いがあります。
1.助成金等の交付を受けた場合の仕訳
(1) 基本の仕訳
補助金等は、原則として、交付が決定した時点で「補助金(等)受贈益」に計上します(右仕訳参照)。
決定した時点とは、交付決定通知に日付が記載されていればその日、記載がなければ通知書を受け取った日です。金額が確定していない場合は、見積額により計上します。
なお、右仕訳の「具体例2」のように、設備購入に対する補助金等を受け取った場合には、圧縮記帳を選択することが認められています。
・「具体例1」・・・持続化給付金200万円を受給する場合
【補助金の交付が決定した時点】
(借)未収入金 200万円 / (貸)補助金(等)受贈益 200万円
・「具体例2」・・・テレワーク導入のためのソフトウエア購入費用300万円に対して、IT導入補助金200万円を受給する場合
【補助金の交付が決定した時点】
(借)未収入金 200万円 / (貸)補助金(等)受贈益 200万円
【固定資産を購入した時点】
通常どおり、固定資産を取得価額で計上する。
(借)ソフトウエア 300万円 / (貸)現金預金など 300万円
(2) 圧縮記帳を行う場合の仕訳
圧縮記帳は、国または地方公共団体等の補助金等を利用して購入した資産(改良など資本的支出を含みます)の取得価額から、補助金等の額を減額(圧縮)して、圧縮損を計上する会計処理です。
圧縮記帳を行わない場合、補助金等を受給した年度には、その額だけ課税所得が増加し、結果として納税額が増えて、せっかくの受給の効果が薄れる恐れがあります。
圧縮記帳を行うことにより、補助金(等)受贈益と見合いの圧縮損を計上し、受贈益に課税される税金を(減価償却を介して)将来に繰り延べることができます。
圧縮記帳の処理方法には、「直接控除方式」と「積立金方式」の2種類があります。
前頁仕訳の「具体例2」を例にとると、それぞれ右仕訳のような処理を行います。補助金の交付決定日と固定資産の取得日は、同一事業年度であることを前提としています。
直接控除方式・積立金方式のどちらを採用しても、各事業年度の課税所得は同額になりますが、積立金方式は資産を取得価額で認識できる点で、総額主義の原則にかなった処理といえます。また、圧縮積立金は任意積立金ですが、積立・取崩しにあたり株主総会決議は必要ありません。
なお、圧縮記帳が行える補助金等は、「国又は地方公共団体の補助金又は給付金その他政令で定めるこれらに準ずるもの」に限られます。
これら以外の補助金等は、制度の運営機関や専門家に確認したうえで、処理を決定する必要があります。
(1) 直接控除方式
【補助金の交付が決定した時点】
(借)未収入金 200万円 / (貸)補助金(等)受贈益 200万円
【固定資産を購入した時点】
固定資産計上と同時に補助金と同額の固定資産圧縮損を計上する。
(借)ソフトウエア 300万円 / (貸)現金預金など 300万円
固定資産圧縮損 200万円 / ソフトウエア 200万円
【減価償却費の計上】
(借)減価償却費 20万円 ※ / (貸)ソフトウエア 20万円
※ (300万円-200万円)×0.2(償却率)=20万円
(2) 積立金方式
【補助金の交付が決定した時点】
(借)未収入金 200万円 / (貸)補助金(等)受贈益 200万円
【固定資産を購入した時点】
(借)ソフトウエア 300万円 / (貸)現金預金など 300万円
繰越利益剰余金 200万円 / 圧縮積立金 200万円
【減価償却費の計上と圧縮積立金取崩し】
(借)減価償却費 60万円 ※1 / (貸)ソフトウエア 60万円
圧縮積立金 40万円 ※2 / 繰越利益剰余金 40万円
※1 300万円×0.2(償却率)=60万円
※2 200万円×0.2(償却率)=40万円(減価償却超過額と等しい)
(税効果会計を適用する場合は、別途、繰延税金負債に係る仕訳が必要)
2.その他の留意点
(1) 取得と交付が事業年度をまたぐ場合
固定資産購入のための補助金等を受給するケースで、取得(購入)と交付の時期が決算期をまたぐ場合があります。詳細な説明は割愛しますが、このような場合も、基本的には圧縮記帳の対象になります。
(2) 消費税の仕入控除税額分の返還
補助金等の受贈益は消費税不課税取引ですが、一方、補助金等の交付を受けて行う支出には課税取引も含まれています。そのため、消費税申告上、仕入税額控除をした場合、消費税相当額は実質的に負担していないにもかかわらず、補助金等をその額の分も受け取っていることになります。
したがって、確定申告によって消費税の仕入控除税額が確定したら、補助金等の運営機関にその額を報告し、補助金等に係る仕入控除税額を返還する必要がありますので、留意が必要です。
(3) 特別償却・税額控除の適用可否の確認
テレワーク導入に伴う固定資産取得のほか、設備投資に対する補助金等を受け取った場合には、「中小企業投資促進税制」「中小企業経営強化税制」など、特別償却や税額控除を認める税制優遇措置が併用できる可能性があります。これらの制度の適用可否も確認するとよいでしょう。
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