Netpress 第2008号 どんな場合に認められる? 役員報酬を変更・減額する際の留意点を確認する

Point
1.新型コロナウイルス感染症にともなう一連の騒動・影響により、予想外の経営環境に陥り、役員報酬を変更せざるを得ない状況に至るケースがあります。
2.ここでは、役員報酬をやむを得ず臨時的に改定する場合のルールと、その留意点を確認します。


税理士 北川 知明


役員報酬を損金とするためには、基本的に定期同額給与または事前確定届出給与として支払う必要があります。定期同額給与とは、毎月の支給額が同額である役員報酬のことで、事前確定届出給与とは、支給額と支給時期をあらかじめ税務署へ届け出たうえで支給する役員報酬(いわゆるボーナス)のことです。

業績の低迷により臨時に役員報酬を減らしたり、逆に業績が好調なため臨時にボーナスを支給したりすると、これらの要件に該当しないため、役員報酬(の一部)が損金になりません。

今般の新型コロナ騒動により、役員報酬の減額を検討する会社も多いと思われますので、あらためて役員報酬を変更する際の留意点をみていきます。

1.定期同額給与の改定が認められる場合

定期同額給与は、原則として毎回同額を支給しなければいけませんが、次のような場合には、利益調整の意図がないものとして、支給額を改定することが認められています。

(1) 原則、その事業年度開始の日から3か月を経過する日までの改定

たとえば、3月決算の場合は、4月1日から6月30日までの間に改定することができます。もちろん、改定した後の支給額は、同額である必要があります。

(2) 役員の職制上の地位や職務内容の重大な変更等による改定

これは、「臨時改定事由による改定」といわれ、役員報酬の決定時には想定しがたい臨時的な事情が発生したことにより、経営者に利益調整等の恣意性がなく、支給額を改定せざるを得ない場合です。

(3) 経営状況の著しい悪化等による改定

これは、「業績悪化改定事由による改定」といわれます。経営状況の著しい悪化であるため、単に売上や利益が目標に届かないとか、資金繰りがタイトになりそうだからという程度では認められないと解されています。

2.業績悪化改定事由に該当するケース

業績悪化改定事由について、法人税基本通達9−2−13では、「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいう」とされています。

したがって、経営状況が著しく悪化したことなど、やむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があるかどうかが判断の基準となります。この判断にあたっては、経営状況が著しく悪化したこと自体よりも、むしろ、やむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があることが重要です。

業績悪化改定事由による改定は、具体的な基準があるわけではなく、あくまで個々のケースに応じて、やむを得ず役員報酬を減額せざるを得ない事情があるかどうかを個別に判断する必要があります。

今回の新型コロナ騒動により、定期同額給与を減額したいと考える会社も多いと思われます。業績悪化改定事由により役員報酬を減額できるか否か、以下、いくつか具体的に検討してみましょう。


ケース具体的な状況と判断・処理のポイント

【その1】

宿泊業で外国人利用者が激減した場合

インバウンド需要で売上は好調でしたが、新型コロナ騒動により売上が激減。従業員への給与の支払いも厳しくなり、やむを得ず従業員の賞与をカットしたケースです。

役員報酬決定時には、今回の騒動の発生とその影響の大きさは、当然に予見できなかった事象です(以下のケース2・3も同じ事情のため、同様の記載は省略します)。

新型コロナ騒動により売上が激減し、それにともなって従業員の賞与をカットしたのですから、原則として役員報酬を減額せざるを得ない状況にあるといえます。この場合、経営者の恣意性は考えにくい状況です。

将来の税務調査に備えて、売上が激減した試算表や例年支給していた賞与をカットするに至った経緯をまとめた資料などを作成、保存しておきましょう。

【その2】

飲食業で来客数が激減した場合

政府や地方自治体から新型コロナ感染症対策として、外出やイベントの自粛要請が出ていることもあり、騒動前と比べて売上が減少。資金繰りの悪化、自粛要請期間などを考慮すると、倒産が視野に入るケースです。

今回の騒動で、倒産が視野に入るほどに財務内容が悪化しているのであれば、原則として役員報酬を減額せざるを得ない状況にあるといえます。

将来の税務調査に備えて、売上が激減し、倒産の恐れもあることを示す試算表や自粛要請期間などを踏まえた資金繰り予定表などを作成、保存しておきましょう。

【その3】

新型コロナ騒動の収束時期次第で、業績の著しい悪化が見込まれる場合

いまは何とか大丈夫ですが、この騒動があと半年以上続くとすれば、さすがに業績が著しく悪化すると見込まれるケースです。

この場合、業績の著しい悪化が単に「見込まれる」というだけでは、役員報酬を減額せざるを得ない状況とはいえません。業績が著しく悪化する前でも、客観的な資料に基づく将来的な予測をもとに、役員報酬を減額せざるを得ない状況であることを説明できるか否かがポイントになります。たとえば、今回の騒動前後の売上の比較、今後の状況に関する政府の公式発表などから、今後、半年以上は状況が改善するとは考えられず、役員報酬を減額しなければ経営状況が著しく悪化することは明らかなので、役員報酬を減額せざるを得ない状況にある、という主張です。

将来の税務調査に備えて、業績が悪化することを示す試算表や役員報酬減額後の経営改善計画書などを作成、保存しておきましょう。


3.事前確定届出給与を変更する場合

事前確定届出給与とは、あらかじめ決めた時期に、確定した額の役員報酬を支給する旨を、事前に税務署へ届け出て支給するものです。業績悪化改定事由や臨時改定事由に該当すれば、事前確定届出給与も当初の予定とは異なり、事業年度の途中で変更することが認められています。その認められる条件は、前述の業績悪化改定事由や臨時改定事由による改定とほぼ同じです。

ただし、その変更にやむを得ない事情があるかどうかは、個々の状況に応じて、個別に判断されます。安易に変更すると、税務調査の際に否認されるリスクがあるため注意が必要です。


以上、定期同額給与と事前確定届出給与の改定についてみてきましたが、今回の新型コロナ騒動がさらに長引く場合、次の定期同額給与と事前確定届出給与の設定に際しては、より慎重な検討が必要となるでしょう。



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