Netpress 第2002号 保険加入の義務化など 自転車通勤の安全対策と規程を確認しておこう

Point
1.自転車による交通事故で、加害者が高額な損害賠償を命じられる事例が増加していることから、自治体が自動車損害賠償保険等への加入を義務化する動きもみられます。
2.適切なリスク管理と従業員の安全確保の観点から、自転車通勤規程の整備・見直しを図りましょう。


社会保険労務士 李 怜香

1.自転車事故をめぐる最近の状況

東京都の条例(「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」)が改正され、ことし4月より自転車損害賠償保険等への加入が義務化されました。

この義務は、自転車利用者、自転車を業務で使用する事業者と、自転車貸付業者の三者に課されるものです。それ以外の事業者にも、従業員が自転車通勤をしていれば、次の項目について努力義務が課されます。


1.自転車通勤をする従業員に対する、自転車損害賠償保険等への加入の有無の確認

2.加入の有無が確認できないときの自転車損害賠償保険等への加入に関する情報提供


東京都のほかにも、すでに保険加入を義務化している自治体がありますが、今後は義務化されているか否かに関係なく、すべての企業で対策が必要になってくると思われます。

というのは、自転車による対人事故で、高額の損害賠償が認められる事件が多発しているからです。自転車の交通事故というと、被害者になる事例がまず頭に浮かびますが、対歩行者の場合には、歩行者が死亡したり、重大な障害が残ったりするようなケースも少なくありません。

自動車保険とは異なり、自転車損害賠償保険等への加入は常識というところまで普及していないのが現状ですが、最近の高額賠償の事例を踏まえれば、保険加入は必須であるといえるでしょう。

さらに、民事での損害賠償にとどまらず、自転車による交通事故でも刑事罰を受けたり、自動車運転免許の停止処分を受けたりすることもあります。

また、従業員が休日に呼び出しを受けて出勤する際に自転車事故が発生すれば、通勤ではなく業務とみなされ、会社が使用者責任を負う危険性もあります。

2.自転車通勤規程の整備・見直し

自転車通勤については、そのリスクを考えて、一切禁止にするのも1つの方法でしょう。しかし、自転車通勤には、従業員の健康に資する、通勤に要する費用・手当を削減できる、といったメリットがあります。近年の健康志向の高まりで、会社が自転車通勤を推奨する例も多くみられます。

自転車通勤のメリットを享受しつつ、適切にリスク管理をするためには、自転車通勤規程の整備または見直しが必要です。その際に検討すべき項目や留意ポイントを確認していきましょう。

(1) 自転車通勤の対象者

従業員の申出を受けて、会社の許可制とするのがよいでしょう。

(2) 対象とする自転車

道路交通法で、前照灯、反射板、尾灯、べル、ブレーキ等の法定装備が定められています。社内規程としても、この点を明確にしておきましょう。

(3) 目的外使用の承認・公共交通機関との乗り継ぎ

買い物のための寄り道など、通勤以外の目的外使用を認める場合を明確にします。移動目的によって、事故の責任の所在や労災の取り扱いが変わってきますので、会社として対人・対物の損害賠償保険への加入も検討しましょう。あわせて、自転車と公共交通機関の併用についても規定しておく必要があります。

(4) 通勤経路・距離

極端に長い距離を自転車で通勤すると、疲労で仕事に差し支えることも考えられます。また、自転車通勤に対して手当を出す場合、あまりに距離が短いのも不適切です。

そうしたことを踏まえて、交通事情等に応じた適当な経路・距離を決めておきましょう。

(5) 安全教育・指導とルール・マナーの遵守

交通事故を防ぐために、従業員に対する安全教育は必須です。社内で講習を実施するほか、自転車安全教室等の受講を従業員に義務づけることも有効でしょう。

(6) 異なる交通手段の利用

雨の日、酷暑の日、寒冷地での道路凍結など、自転車通勤は天候等にも左右されます。その日の天候等に応じて、公共交通機関の利用や徒歩も認めることを規定しておきましょう。

(7) 事故時の対応

事故時の対応フローや緊急連絡体制、報告マニュアルの作成等について、規程に定めておくことが重要です。

(8) 自転車損害賠償保険等への加入

従業員が死傷した場合、通勤途中や業務上であれば労災(通勤災害)の対象になりますが、通勤途中の買い物や、子供の送迎等の私的行為で通勤経路を逸脱した場合は、労災からは給付されません。また、第三者を死傷させたり、第三者の物を壊したりすれば賠償責任が発生します。

そうしたリスクに備えて、必ず自転車損害賠償保険等に加入しておく必要があります。

3.自転車通勤の実務上の留意点

(1) 自転車通勤手当の支給

自転車通勤手当について、支給額を一律とする場合は、実際に要する費用を下回らないようにすることがポイントです。都市部では、公共交通機関の定期代相当を支給する方法、クルマ通勤の多い地方では、会社が通勤手当として支給するガソリン代と同等額を支給するといった方法が考えられます。

なお、駐輪場の費用、自転車損害賠償保険等の保険料、自転車のメンテナンス費用等について、会社がどの程度負担(補助)するかについても定めておきましょう。

(2) 駐輪場の確保と利用の徹底

自転車通勤をする従業員のための駐輪場所の確保又は従業員が駐輪場所を確保していることの確認は、東京都の条例で事業者の義務とされております。自転車通勤によって放置自転車を発生させないよう、駐輪場を社内に設ける、近隣の駐輪場を借り上げる等により、従業員に駐輪場の使用を義務づけるようにしましょう。

(3) 更衣室・シャワー設備などの設置

自転車通勤の難点は、ビジネススーツの着用がそぐわないこと、汗をかいてしまうことです。社内に、着替えのための更衣室やシャワー設備があると、従業員が快適に自転車通勤をすることができます。


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