Netpress 第1988号 どんなとき、いくらもらえる? 意外と知られていない「休業手当」の基礎知識

Point
1.会社都合で労働者が就業できない場合、会社は平均賃金の6割以上の休業手当の支払いが必要です。
2.休業手当をめぐる誤解やトラブルも少なくないことから、改めて基本的な事項を確認しておきましょう。


特定社会保険労務士 専田 晋一


労働者が労働日に就業しない(できない)場合について考えるとき、その原因は大きく2つに分けられます。「労働者の私的な都合により就業できない」ケースと、「会社の都合により就業できない」ケースです。

前者は、「労働者が風邪をひいて仕事を休んだ」というように労働者自身の都合により休業するもの、後者は、設備の故障や原材料の欠乏など経営上の都合によって労働者の就業が不能となり休業するものです。

労働者自身の都合による休業については、「ノーワーク・ノーペイ」の考え方に従い、会社は賃金を支払う必要がありません。これに対して、労働者に責任のない会社の都合による休業については、労働者の休業期間の生活保障として、労働基準法により「休業手当」の支払いが義務づけられています。

1.支払うべき場合とその対象

労働基準法26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中、当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当(休業手当)を支払わなければならない」と定めており、違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられます。

この休業手当は、労働者の最低限度の生活保障を目的とした制度です。どのような状況が「使用者の責に帰すべき事由」に当たるのかという点について、実務上は、会社側に起因する経営、管理上の障害を広く含むものとされています。具体的には、「資材・原材料の欠乏」「資金難」「機械・生産設備の故障」「生産調整のための一時帰休」など、経営上の都合や障害が該当します。

これとは逆に、使用者の責に帰すべき事由に当たらないケースとしては、天災事変(地震、洪水、火災など)による休業があります。天災事変による休業は、「不可抗力」によるものとして、使用者の責に帰すべき事由には該当しないのが原則です。

この「不可抗力」については、次の2つの要件を満たす必要があります。


1.その休業に至る原因が、事業の外部より発生したものであること(休業の原因の一端が会社にないこと)

2.使用者が通常の経営者として最大の注意を尽くしても、なお避けることのできないものであること


具体的には、地震等の天災事変により、事業所の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させなくてはならないような場合には、上記の2要件が満たされていると考えられます。原則として、使用者の責に帰すべき事由には該当せず、休業手当の支払いも必要ありません。

しかし、事業所の施設・設備が直接的な被害を受けていない場合は、使用者の責に帰すべき事由に該当し、休業手当の支払いが必要となります。

ただし、取引先や通信・交通網が天災による被害を受け、原材料の仕入れや製品の納入等が不可能となって労働者を休業させたような場合は、事業の特性や災害による影響、休業回避のために講じた具体的な努力等(取引先の依存の程度、輸送経路の状況などについて他の代替手段を取り得たかどうかの可能性、災害発生からの期間など)を総合的に勘案して判断されます。

なお、大型台風などの異常気象時に行われる公共交通機関の計画運休を受けた操業不能は、基本的に使用者の責に帰すべき事由には当たらないと考えられます。

2.休業手当の計算方法

休業手当の額は、休業1日につき、平均賃金の100分の60以上となります。この平均賃金は、給与の日割り額とは異なります。たとえば、日給1万円の労働者の休業手当が6,000円となるわけではありません。

労働基準法上の平均賃金の具体的な計算方法は、次のとおりです。そして、これらの方法により算出された額の60%以上の額を休業手当として支払う必要があります。

(1) 原則の算定方法

平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総暦日数で除した金額となります。賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から3か月遡ります。




(2) 最低保障額

賃金の一部または全部が、日給制、時給制、出来高払制などの場合、算定期間の3か月中に欠勤が多いと平均賃金も低額となってしまうことから、最低保障額の算定方法が定められています。

最低保障額は、算定事由発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の実労働日数で除した金額の60%となります。




この最低保障額が、原則の算定方法による平均賃金を上回る場合は、最低保障額が平均賃金となります。

平均賃金は、年次有給休暇取得時の給与を平均賃金で支払う場合や、解雇予告手当、懲戒処分として減給の制裁を行う場合などにも関係してきますので、正しく理解しておく必要があります。

3.休業手当と休業補償の違い

実務上、休業手当と混同しやすいものとして、「休業補償」があります。

労働基準法76条は、「業務上の負傷または傷病による療養のために労働者が働けなくなった期間について、平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない」としています。

通常、休業補償は、労働者災害補償保険法(労災保険法)の規定に基づいて、労働基準監督署に請求することで給付を受けることができます。

労働者が「働けない」ことで受けられる給付という意味では、休業手当も休業補償も同じですが、給付の理由や手続は異なりますので、注意が必要です。



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