Netpress 第1971号 適切に対応していますか? 従業員が副業・兼業を行ったときの実務ガイド

Point
1.以前はほとんどの会社で禁止事項だった副業・兼業が、柔軟な働き方の一環として広がりをみせています。厚生労働省からも「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が示されています。
2.ここでは、自社の従業員が副業・兼業を行った場合の税務・労務面の実務について確認します。


税理士 畠山 亮洋

1.副業の3つのケースと取り扱い

昨今、柔軟な働き方として副業・兼業が推奨されるようになっており、今後は中小企業でも広がることが予想されます。副業・兼業には数種類の組み合わせがありますが、自社の従業員が行った場合の代表的な組み合わせは次の3種類です。


1.「自社雇用」+「個人事業主」
自社で従業員として雇用されているほか、個人事業主やフリーランスとして事業をしている(「1か所から給与」を得て、「給与以外の収入」もある)
2.「自社本業」+「他社副業」
自社が本業の会社(=給与の多いほう)で、他社が副業の会社(「2か所から給与」を得ていて、自社が本業先)
3.「自社副業」+「他社本業」
自社が副業の会社で、他社が本業の会社(「2か所から給与」を得ていて、自社が副業先)

各組み合わせの所得税、住民税、労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)、年末調整、確定申告の取り扱いについてまとめると、下表のようになります。



自社雇用+個人事業主自社本業+他社副業自社副業+他社本業
所得税

源泉徴収税額表の「甲欄」で源泉徴収する

*自社に「扶養控除等(異動)申告書」が提出されている

源泉徴収税額表の「甲欄」で源泉徴収する

*自社に「扶養控除等(異動)申告書」が提出されている

源泉徴収税額表の「乙欄」で源泉徴収する

*自社には「扶養控除等(異動)申告書」が提出されていない

住民税
自社で特別徴収を行う
自社で特別徴収を行う
自社では特別徴収を行わない
労災保険
加入する
加入する
加入する
雇用保険
加入する
加入する
加入できない
社会保険
加入する
加入する
要件を満たせば加入する
年末調整
自社で行う
自社で行う
自社では行わない
確定申告
従業員が自ら行う
従業員が自ら行う
従業員が自ら行う


(1) 労災保険についての留意点

労災保険は、労災保険が適用されている会社で働いている人は全員が対象になります。そのため、「本業の会社」と「副業の会社」の両社で加入しなければなりません。したがって、自社が本業先でも副業先でも、労災保険に加入することになります。

給付額については、「本業の給与」と「副業の給与」を合算して算定された額を受給できるわけではありません。給付額は、事故が起きた会社から支払われた給与に基づいて計算されます。

なお、個人事業主は、基本的には労災保険に加入できません(特別加入すれば可能)。

(2) 雇用保険についての留意点

雇用保険は、「1週間の所定労働時間が20時間以上」で、「31日以上雇用される予定」の場合に加入します。「本業の会社」と「副業の会社」の両社ともに加入要件を満たす場合は、「本業の会社」のみで加入します。雇用保険は、複数の会社で同時に加入することはできないからです。

(3) 社会保険についての留意点

社会保険は、「1週間の労働時間が正社員の4分の3以上(30時間以上)」の場合に加入します。「本業の会社」と「副業の会社」とも加入要件を満たす場合は、両社で加入することになりますが、保険証は1社でのみ発行されます。従業員がどちらの会社の保険証を使用するかを選択し、選択した会社を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 被保険者 所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。

2.確定申告と年末調整の取り扱い

会社の年末調整では、本業の給与のみを計算しますので、本業の給与以外に収入がある場合は、年末調整をしても従業員本人が確定申告をしなければなりません。たとえば、次のようなケースです。

・アルバイトの給与収入がある

・アフィリエイトやネットオークションの収入がある

・執筆や講演の収入がある

・株やFX、仮想通貨の売買で利益が出ている

・マンションやアパートの賃貸収入がある

ただし、副収入があれば必ず確定申告が必要になるというわけではありません。給与として受け取る場合は「収入」、それ以外の場合は「所得」の合計額が、年間20万円以下なら確定申告は不要です。「収入」とは、「額面金額」のことを指します。それ以外の「所得」とは、「収入」から「経費」を差し引いた「利益」のことです。

副収入が複数ある場合は、合計した金額が年間20万円を超えているかどうかで、確定申告の要否を判断します。具体例を挙げると、次のようになります。


【アルバイトによる「収入」が年間30万円】      ⇒ 確定申告が必要

【ネットオークションによる「所得」が年間30万円】 ⇒ 確定申告が必要

【アフィリエイトによる「所得」が年間15万円】    ⇒ 確定申告は不要

【ネットオークションによる「所得」が年間10万円 + アフィリエイトによる「所得」が年間15万円】 

⇒ 確定申告が必要(合計所得が20万円超のため)


最近、よく「副業解禁」といわれますが、副業を規制する法律はなく、本来、従業員の副業は自由です。しかし、これまで日本の多くの会社は、就業規則等において副業を認めないことにしてきました。そのため、法整備が追い付いていないのが現状です。副業が広がるなか、企業には適切な対応が求められます。


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