Netpress 第1950号 トラブルに巻き込まれないために 「退職代行サービス」に会社はどう対処すべきか

Point
1.最近、「退職代行サービス」が話題になっていますが、非常に新しいサービスであることから、企業側として取るべき対応、取ってはいけない対応などがクリアになっていません。
2.ここでは、弁護士資格を有しない退職代行サービス業者の利用を前提として、関連し得る法規範を踏まえつつ、同サービスへの対処のしかたについて解説します。


弁護士 梅澤 康二


退職代行サービスは、従業員側の退職処理を代行する民間サービスです。現在は、直接的な法規制が未整備でサービスの定義すら明確ではなく、サービスの運用に係る適正・不適正の基準もとくに存在しません。

そこで、会社として、退職代行サービスにどう対処すればよいか考えてみたいと思います。

1. 退職代行サービスに関連する法規範

(1) 「退職」の法的意味

退職代行サービスについて考える前に、まずは「退職」の定義を確認しておきましょう。

会社と従業員との雇用契約(労働契約)により、会社は従業員に対して業務上の指示・命令が可能となり、従業員は労働の対価として賃金を請求できます。「退職」とは、法律的には、この契約関係の終了・消滅を意味します。すなわち、退職により従業員は会社職員の地位を失い、会社は従業員への指示・命令の法的根拠を失います。

(2) 退職の種類と退職代行サービスの正当性

「退職」には、大きく分けて「解雇」「任意退職」「合意退職」の3種類があります。

退職代行サービスの利用がもっぱら問題になるのは、このうち「任意退職」と「合意退職」の場面と思われます。

任意退職については、民法で規定されている「期間の定めのない雇用の解約の申し入れ」と「やむを得ない事由による雇用の解除」が問題となります。

一方、合意退職については、とくに法規範はありません。会社と従業員が退職条件について合意すれば、いつでも、どのような理由でも退職の効力が生じます。もっとも、退職代行サービスとの関係では、弁護士法に規定された「非弁護士の法律事務の取り扱い等の禁止」を無視できません。弁護士法では、弁護士以外の者(法人を含みます)が、有償で他人の法律事件の仲介・あっせん等を行うことはできないとされているからです。

退職代行サービスの利用については、当該サービスが「合意退職」「任意退職」の何を実現しようとしているのかにより、検討するべき法規範が異なります。したがって、退職代行サービス業者から連絡を受けた場合、当該業者がどのような趣旨で連絡をしてきているのか、その正当性について確認するべきでしょう。

2.退職代行サービスへの実務対応

退職代行サービスへの実務対応は、当該従業員との関係、退職に至る経緯等、個別事情により異なりますが、次頁では、すべてのケースに共通する望ましい対応、望ましくない対応を解説します。

(1) 望ましい対応

①本人の意思を確認する
退職は、雇用契約の終了という重要な効力を生じさせる行為です。退職代行サービス業者から連絡や通知があったら、それが本当に従業員本人の意思に基づくものかどうかを、次のような方法で確認する必要があります。

・会社所定の意思確認書を届出のある本人住所地に送付し、所定事項(退職の意向の有無、退職日等)を追記させ、返送させる

・会社から届出のある本人連絡先(電話番号、メール等)に連絡し、退職代行サービス業者からの通知内容が本人の意思に基づくものかを確認する


このとき、退職代行サービス業者から「当社が窓口となるので本人に連絡しないで欲しい」旨を求められるかもしれませんが、会社としては「事実確認が必要である」旨を説明し、本人と直接連絡を取るようにします。

ただし、これらの対応をしても本人の意思確認ができない場合には、退職代行サービス業者を通じて意思確認書等を取得することを検討せざるを得ないでしょう。


②退職代行サービスの範囲を確認する

上記の本人の意思確認にあたり、退職代行サービス業者による事務取扱範囲も明確にしてもらうべきでしょう。というのも、弁護士法との関係で、退職代行サービス業者は、本人意思を機械的に伝達し、本人手足として事務処理をする限度でしか、サービスを提供できないと考えられているためです。

この範囲を超えたサービス提供がなされた場合、後日、本人から「そのような依頼はしていない」と処理の効力を否定されるなど、トラブルになる可能性があります。そのため、本人の意思確認にあたり、退職代行サービス業者を通じて実現する処理内容(離職票、社会保険、退職金の処理など)を明確にしてもらいましょう。


③退職について書面で最終確認する

後々のトラブルを防ぐため、退職処理の内容(退職日、退職理由、その他の退職条件)を明確にする書面を作成しましょう。とくに離職票の退職理由は、これを自己都合退職とするか会社都合退職とするかで雇用保険給付の内容が変わります。そのため、退職の事務処理は退職代行サービスを利用するとしても、最終的に確定した事務処理については書面化して、本人の署名・押印を取得しておくほうが無難と思われます。

(2) 望ましくない対応

①退職代行サービスを理由に門前払いする

従業員が退職代行サービスを利用すること自体は、法律上、禁止されていません。そのため、会社が「退職代行サービスからの連絡は一切受け付けない」という態度で臨むことは難しいと考えます。業者の連絡を無視することなく、まずは従業員本人の意思確認を行うようにしましょう。


②本人に対して脅迫・強要的な言辞を行う

従業員が退職代行サービスを利用することを不快に感じたとしても、「退職をするなら会社に生じた損害・費用を補償しろ」「退職したければ、即時出社して退職理由を説明しろ」といった脅迫的・強要的なコミュニケーションを取ることは厳に慎みましょう。一時の感情に任せて行動すると、後々、違法な権利侵害行為があったとして損害賠償請求を受けたり、不穏当な言動が外部に発信され、会社の評判が毀損されたりする可能性もあります。


③会社のルールにこだわりすぎない

多くの会社は、退職届の提出など一定の退職手続きを定めていますが、法律的には「所定の手続きを取らなければ退職を認めない」という対応はできません。業者に会社のルールを説明し、所定の手続きを取るよう求めることは大切ですが、「手続きをしない限り退職処理は進めない」といった強行姿勢を貫くことは控えましょう。


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