Netpress 第1908号 最近、かなり増えている! 自己都合退職時のトラブルを回避するには

Point
1.これまで「退職時のトラブル」といえば、だいたいが「自己都合のはずが解雇になっていた」「会社から突然クビを宣告された」など、その多くは「解雇」に関するものでした。
2.ところが、最近は自己都合退職にまつわるトラブルが増えています。その内容と対処策をみていきます。


特定社会保険労務士 五井 淳子


1.自己都合退職時のトラブルが増加

民法では、期間の定めのない労働契約は、「いつでも(労働契約の)解約の申し入れをすることができる」とされていますので、当該退職の申し出時期は、社員自身が自由に決めることができます。

しかし、業務の引き継ぎや顧客対応など実務上の必要性から、就業規則等で「退職の申し出は、退職日の1〜2か月前までにすること」などと定めているのが一般的でしょう。

近年、社員から退職の申し出があった場合に、さまざまな手段で退職を阻止しようとする会社が多く存在し、問題になっています。具体的には、下表のような事例がみられます。


1.退職を認めない

・社員が退職の申し出をしようとしても、多忙を理由に話を聞こうとしない

・退職届の受け取りを拒否するなど、退職そのものを認めない

・人員配置基準のある看護師などの職種では、退職日以降のシフトに勝手に組み入れ、「あなたが辞めたら人員基準違反になる」などとして、勤務の継続を強要する

2.給与を支払わない

・退職日まで勤務したのに給与の支払いを渋る、実際に支払いをしない

・「退職するなら給与はいらない」旨の誓約書にサインを強要する

3.休暇を与えない

・退職にあたり、残っている年次有給休暇を取得させない

・退職日までの間、労働基準法で定められている法定休日すら与えない

4.その他

・離職票を交付しない、交付しても「懲戒解雇」など事実と異なる退職理由を記載する

・「退職したら、それによって被った損害を請求する」などと脅し、退職を思いとどまらせようとする


ほかにもいろいろありますが、こうした退職トラブルは、ここ数年、かなり増えている印象があります。その原因として考えられるのは、「人手不足」です。日本が少子高齢化といわれるようになって久しいですが、景気の拡大やサービスの多様化により、働き手を求める企業が増えているにもかかわらず、その働き手となる、特に若い世代の人口が減少していることは、少ないパイを大勢で奪い合うことにほかなりません。
また、最近では、インターネットの普及により、労働条件や就労環境などを容易に検索・比較できるようになりました。コンプライアンスの遵守やブラック企業への警戒感といった労働者意識の高まりも相まって、よりよい条件の一部の会社に応募が集中し、「それ以外」の会社には人が集まりづらくなっています。
こうした現状では、会社が「いまいる社員に辞められては困る=退職させない」という考えに陥っても、不思議ではありませんが、そうした考えに基づく安易な対応がトラブルを招くことになります。

2.退職時の労使トラブルを防ぐには

では、どうしたらトラブルを防ぐことができるのでしょうか。正社員(無期雇用社員)は、いつでも退職の申し出をすることができ、原則として申し出から2週間を経過すれば、会社の許可がなくても辞めることができます。その原則を理解したうえで、会社がなすべきことをきちんとやっていくことが重要です。
以下、労使トラブルを防ぐための具対策をみていきましょう。

(1) 退職の時期や引き継ぎ等について、よく確認する

退職の申し出があった場合には、まず面談を行い、その理由を確認しましょう。なぜ退職したいのか、業務の改善や配置換えなどで対応できないのかなど、十分にヒアリングをします。
そのうえで、引き継ぎや顧客対応など、具体的な退職のスケジュールを決めていきましょう。

(2) 年次有給休暇は退職するまで取得可能であることを確認する

年次有給休暇は、基本的には社員が取りたいときに取得することが可能で、その理由を問われることはありません。これは、退職する社員についても同じです。
労働基準法の改正により、ことし4月から、年次有給休暇を10日以上付与されている社員には、年5日以上を取得させなければなりません。「辞めるなら年次有給休暇は取らせない」などと言ってしまうと、この改正規定に抵触する可能性もありますので、注意しましょう。

(3) 離職票を交付する

離職票は、本人が不要といわない限り、会社が作成・交付する義務があります。59歳以上の社員については、必ず交付しなければなりません。退職者が何度催促しても交付されない場合、会社を管轄するハローワークから「早く交付するように」との連絡が来る場合もあります。
離職票を交付する場合でも、その内容をきちんと本人に確認しましょう。「自己都合による退職」であるにもかかわらず、「懲戒解雇」などとしてしまうと、さらなるトラブルに発展するおそれもありますので、注意が必要です。

(4) 退職者を出さない労働環境を整える

一番大切なのは、なぜ退職に至ったのか、また、なぜ辞められたら困るのか、その原因を追及し、労働環境を整備することです。当たり前のことですが、これができていない会社が非常に多いのが現実です。
1人の社員に負担がかかりすぎていないか、残業が多すぎないかなど、まずは日ごろの業務を見直すことから始めましょう。その際に大切なのは、「人手不足だから仕方がない」「残業するのは当たり前」などと、思考停止に陥らないことです。経営層や管理職クラスだけではなく、現場の社員からもしっかりとヒアリングを行って、現実的な業務改善を実現しなければなりません。
なお、ヒアリングだけして、その後、何のアクションも起こさないという対応は厳禁です。社員の期待を裏切り、モチベーションを下げることになって、いま以上に退職者が増えかねません。

◇    ◇    ◇

最近、「退職代行」という仕事が話題になっています。ある日突然、「御社の○○さんが退職したいと言っています」と、「退職代行会社」を名乗る業者から連絡が来るのです。退職代行の業務は、弁護士以外の者が提供する場合、業務範囲によっては弁護士法違反の非弁行為(弁護士以外の者が、報酬を得る目的で弁護士業務を行うこと)に当たるとの指摘もあります。このようなサービスを利用することの是非はありますが、「会社に直接言ったら、辞めさせてもらえない」と思い悩む社員の心情も理解する必要があります。
退職を申し出た社員に対する不適切な対応は、「ブラック企業だ」との評判にもつながり、人材確保をより難しくします。このことを自覚し、会社としてなすべきことをきちんと行うことが重要です。


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