Netpress 第1888号 大切な手当だからこそ知っておきたい 通勤手当の非課税範囲と取り扱いを再確認する

Point
1.役員・従業員(パート・アルバイトを含みます)に支給される通勤手当の取り扱いは、所得税を計算する場合と社会保険料・労働保険料を計算する場合とで異なります。
2.10月からの消費税率アップの影響も含めて、通勤手当の範囲と取り扱いについてポイントを確認します。


公認会計士・税理士 佐々田 智子


1. 所得税計算上の非課税範囲

よく「交通費は1か月当たり15万円までが非課税」といわれますが、具体的には利用する交通手段によって非課税限度額は違ってきます。

(1) 電車やバスなどの公共交通機関の場合(通勤定期券の現物支給を含む)

所得税の計算上、非課税の通勤手当と認められる金額は、明らかに遠回りではない合理的な経路で通勤した場合の額です。タクシーや新幹線を利用した場合にも、それが「経済的かつもっとも合理的な経路による通勤」に該当するのであれば、通勤手当に含まれます。

ただし、たとえば新幹線通勤でグリーン席を利用した場合には、グリーン料金は非課税の通勤手当から除かれます。また、明らかな迂回ルートを使うなど、「経済的でもっとも合理的な経路での通勤」に必要な額と認められない部分は、合理的経路による金額との差額が給与として課税対象になります。

なお、合理的な経路で通勤した場合であっても、非課税となるのは1か月当たり15万円が限度です。

(2) マイカー(自動車)・バイク・自転車の場合


通勤手当として扱うための要件は(1)と変わりませんが、右表のとおり、片道の移動距離に応じて非課税限度額が定められています。

なお、有料道路を使用する必要がある場合は、通行料金を加えた金額が通勤手当となります。この場合の非課税額も合計で15万円までです。


■マイカー等を使用した場合の非課税範囲


(3)  (1)と(2)を併用する場合

(1)の電車やバスなどの公共交通機関と、(2)のマイカー等の交通用具を併用して通勤する場合は、その合計で15万円までが非課税限度額です。

2.社会保険料・労働保険料の計算上の取り扱い

社会保険料や労働保険料を計算する場合には、通勤手当を給与に含めて計算します。

つまり、所得税の非課税範囲に相当しても、社会保険料の標準報酬月額や労働保険料の賃金総額には、支給額の全額が含まれることになります。

3.通勤手当に係る消費税の取り扱いの注意点

通勤手当の非課税枠の上限の判断には、消費税を含めた金額を使います。
たとえば、1か月当たり15万5,000円の通勤手当を支給する場合、消費税を考慮せずに15万円を超える5,000円の部分に所得税が課税されることになります。
通勤手当を支払う側の会社の会計処理は、通勤のために通常必要とする範囲内のものである限り、所得税法上非課税か課税かにかかわらず、その全額が課税仕入になります。つまり、通勤手当が15万円を超える場合であっても、全額が課税仕入となるわけです。
ただし、「通勤のために通常必要な金額」を超える金額については、そもそも通勤手当ではなく給与として扱われますので、消費税不課税取引として処理しなければなりません。前述の新幹線通勤者がグリーン車を利用しているようなケースは、グリーン料金部分は消費税不課税取引となります。
なお、今年10月1日から、消費税率が8%から10%に引き上げられることになっています。定期券の有効期間が10月をまたぐ場合、10月1日以降の乗車運賃であっても、9月30日までに支払ったものに係る消費税は、一律8%の税率で計算することとされています。
経過措置が適用される取引は、必ず8%の税率で仕入税額控除を行うこととされており、新税率によって仕入税額控除を行うことはできません。

4.通勤定期代を支給する際の留意点

通勤定期券を会社で一括購入して現物支給する場合や、通勤定期代を一括支給する場合には、3か月定期、6か月定期など、複数月分を一時に支給するケースが多いでしょう。そのため、月をまたいだ処理に伴う計算の問題が生じます。
以下では、定期券または定期代を支給した場合に注意すべきポイントについて、所得税と社会保険料・労働保険料の計算と、支給する会社の会計処理に分けて説明します。

(1) 所得税の計算

前述したように、通勤定期を現物支給したり、通勤定期代を一括支給したりした場合にも、非課税限度額の計算は1か月当たりの金額で行います。
たとえば、6か月定期券代として18万円を支給した場合には、「18万円÷6か月=3万円≦15万円」となり、全額が非課税となります。
ところで、仮に6か月定期券が96万円、すなわち1か月当たり16万円(=96万円÷6か月)となり、非課税限度枠の15万円を超える場合には、源泉所得税の計算はどのようになるのでしょうか。
源泉徴収は定期券(または定期代)を支給した月に行いますから、下記のように、定期代のうち非課税限度額を超える額を計算し、この金額を支給した月の給与に加算して源泉徴収税額を算定します。


(16万円-15万円)×6か月=6万円 → 給与に加算して源泉徴収税額を算定


(2) 社会保険料・労働保険料の計算

社会保険料の計算では、たとえば6か月定期券を支給した場合、6分の1の金額を標準報酬月額に加えます。つまり、1か月当たりの金額に引き直して標準報酬月額を算定するということです。労働保険料の賃金総額の計算についても、同じく1か月当たりの金額を各月の賃金に含めます。

また、6か月定期券の購入代金を一括支給する場合の計算方法も同じです。

(3) 支給する会社側の会計処理

通勤定期券に係る消費税は、原則として全額を支出した課税期間の課税仕入に含めます。

定期券の有効期間が決算期をまたぐ場合でも、期間が1年以内である限り、法人税法上、支払った期に全額を損金処理することができます。



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