Netpress 第1874号 対面・電話・メールまで 「カスタマーハラスメント対策」はこう進める!
1.顧客(消費者)からの人格を否定する暴言や、しつこく同じ内容を繰り返すクレーム、威嚇、長時間の拘束などが、単なるクレームではなく、「ハラスメント」の領域として問題化しています。
2.こうした悪質クレームへの対応を「現場任せ」「個人任せ」にせず、会社として対応することが大切です。
現代社会においては、少し待たされることすらも許容できないほど「我慢のできない人」が増えています。サービスを受ける側が顧客満足(CS=Customer Satisfaction)を追求すればするほど、さらに便利な世の中になればなるほど、「満足」のハードルは高くなり、不満を感じる人が増え、些細なことで怒りを爆発させる「モンスタークレーマー」が増加するという図式があるのです。
クレームとは、本来、お客様から頂戴する「ご意見・ご指導・ご要望」ですが、消費者による自己中心的で理不尽な要求は、「悪質クレーム」としてこれまでもしばしばマスコミで取り上げられています。
実際、理不尽なクレームに対応する現場の担当者の苦労と疲弊は、想像を絶するものがあります。相手からの過剰な要求は、もはや「お客様の声」として対応できるレベルではなくなっているといえるでしょう。
1.クレームを超えた「カスタマーハラスメント」
人格を否定する暴言や、しつこく同じ内容を繰り返すクレーム、威嚇、長時間の拘束などが、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントと同様に、「ハラスメント」の領域として問題化しています。これが、「カスタマーハラスメント」(以下、「カスハラ」といいます)と呼ばれるものです。
企業にとって、「カスハラ」はもはや看過できない重要なテーマです。「カスハラ」が労働者一人ひとりに強いストレスを与え、時に精神疾患をさえ招く元凶となるからです。「カスハラ」への対応によって従業員が疲弊すれば、一般のお客様に対するサービスの低下にもつながりかねません。
また、悪質なクレームによって多大なストレスを受ける職場では離職率が高まったり、人材が確保できなかったりすることも懸念されます。流通・サービス業に限らず、クレーム対応で陣頭指揮をとっていたキーパーソンが辞めると、ほかのメンバーも追随して退職することは珍しくないからです。
いま企業に求められているのは、クレーム対応を「現場任せ」「個人任せ」にしないことです。
2.会社としての取り組みが求められる
厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」が昨年3月に公表した報告書において、初めてクレームに言及しました。
具体的には、「事業主が労働者の安全に配慮するために対応が求められる点においては、顧客や取引先からの著しい迷惑行為は職場のパワーハラスメントと類似性がある」として、「事業主に対応を求めるのみならず、周知・啓発を行うことで、社会全体で機運を醸成していくことが必要」「『カスタマーハラスメント』や『クレーマーハラスメント』など、特定の名前やその内容を浸透させることが有効」などの意見が盛り込まれたのです。
そもそも、この検討会は「働き方改革」の一環として設置されたものです。その中で、顧客からの悪質クレームについて議論されるほど、クレームが社会問題化しているというわけです。
ただ、法規制や制度、あるいは啓発活動だけで、目の前の悪質クレームを排除することはできません。従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしたり、長時間労働につながったり、その結果、人材の流出を引き起こしたりする悪質クレームに対しては、一刻も早く実効性のある方策を打ち立てなければなりません。
悪質クレームに向き合う人たちの「声なき悲鳴」に気づくことができなければ、経営そのものが大きなダメージを受けます。クレーム担当者個人が対応の「スキル」を磨くとともに、会社として(組織として)の「仕組み」を作っていくことが急務といえます。
3.クレーム撃退の3ステップ
クレーム対応で最も重要なのは、「平常心を保つこと」です。真面目な人ほどクレーム対応で苦慮し、疲弊してしまう傾向があります。相手のペースに巻き込まれて、自分のなすべき対応が何なのかを見失ってしまうからです。
そのうえで、クレームを解決するチャンスは「3度」あります。次のように、クレーム対応を3つのステップに分けることで、クレーマーへの対応の仕方を変えるのです。
●ステップ1・・・「謝って済む問題」に持ち込む
クレームを訴えられた初期の段階では、ひたすら目線を下げてお詫びし、何よりも相手の興奮をクールダウンさせることを優先します。この段階では、お客様の要求が正当であることも多いですから、相手の話をしっかりと聞く姿勢を貫くようにします。
ここが、クレーム解決の最初のチャンスです。できる限り「謝って済む問題」に持ち込むことが、クレームを長期化させない最大のポイントです。間違っても、この段階で反論してはいけません。
●ステップ2・・・妥協点を見つける
怒鳴ったり、文句を並べ立てたりするクレーマーを前にハラハラ・ドキドキしつつも、相手の動機や目的を見極める段階です。ステップ1で「謝って済む問題」に持ち込めなくても、うまくお客様の言い分を聞き、妥協点を見つけることができれば、クレーム解決の2回目のチャンスが訪れます。
●ステップ3・・・要求を断ち切る
誠意をもって説明・お詫びをしても聞き入れてもらえないばかりか、相手の主張の背後に金品や特別待遇の要求が見え隠れする段階です。こうなれば、もう危険ラインを超えたと判断し、「お客様扱い」をやめて、「悪質クレーマー」としての対応に切り替えます。ここが、「顧客満足」から「危機管理」に大きくモードチェンジする段階です。
この段階では、もうクレーマーの要求に応じることはなく、相手が諦めて退却するのを待つことになります。クレーム解決の最後のタイミングです。
ここまで、「カスハラ」やクレーム対応について解説しましたが、より詳しくお知りになりたい方は、拙著『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』(ダイヤモンド社、本体1,500円+税)を参照してください。
個別状況にしか対応できない対症療法的な対策ではなく、20年の現場経験で培ったスキルを総動員して、どんな業種にも、どんな種類のクレームにも通用する「実務対応のノウハウ」「原理原則」を、豊富な事例も交えながら余すところなく紹介しています。
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