Netpress 第1852号 社内の情報共有にも使える 「資金繰り表」のしくみと有効活用法

Point
1.いくらモノが売れても、資金繰りがショートすれば会社は潰れてしまいます。資金繰り表を作成する目的は、会社の将来の入出金を把握して、資金ショートを起こさないようにすることにあります。
2.営業部門の担当者に資金繰りの重要性を理解してもらうためにも資金繰り表が役に立ちます。


公認会計士 安藤 智洋


1.資金繰り表のしくみとチェックポイント

資金繰り表とは、現金と預金によるすべての入出金の金額、日付、摘要を記載・集計し、お金の動きがわかるようにした表のことです。資金繰り表は、次頁に示した例のように月次で作成されることが多いですが、資金繰りが厳しい場合には日次で作成する必要があります。いずれの場合であっても、資金繰り表を見るうえで押さえておくべきポイントは共通です。以下、特に重要な4点について説明します(次頁の表を参照)。

(1) 残高(次月繰越)

最重要の項目は、どんな種類の資金繰り表にも必ず記載されている「残高(次月繰越)」です。残高は、その月や日の時点で手元にあるお金の在り高を意味します。

いつの時点においても、資金繰り表の残高がマイナスになることは絶対に許されません。マイナスになるということは、その時点で資金ショート(手元に現金や預金がなくて支払いができない状態)を起こしていることを意味するからです。資金ショートを起こすと、支払先からの信用を失いますし、最悪の場合は倒産に至ります。

また、残高がマイナスにはならずとも、ゼロに近づくときがあれば危険信号と認識しておく必要があります。

(2) 経常収支

経常収支とは、販売や仕入、給料の支払いといった会社の通常の事業活動による収入と支出のことです。経常収支は個々の動きよりも、その合計を見ることが重要です。一時的に経常収支がマイナス(つまり、収入よりも支出が多い状態)になっていても、年間を通じての経常収支がプラスであれば問題ありません。

一方、年間を通じてマイナスとなる場合には注意が必要です。経常収支がマイナスということは、その会社の事業を行うことでお金を失っていることを意味します。これでは何のための事業かわかりません。

(3) 設備収支

事業に必要となる固定資産(器具備品や機械等)を購入するための支出や売却による収入は、設備収支と呼ばれます。設備収支は経常収支とは異なり、一般的にはマイナスとなります。固定資産は、購入する機会は多くとも、不要になって売却することは少ないからです。設備収支のマイナスは、固定資産を用いて商品を販売したりサービスを提供したりすることによって得られる売上で回収します。

(4) 財務収支

財務収支とは、銀行等からの借入れによる収入やその返済による支出のことです。経常収支と設備収支の合計がマイナスとなる場合には、借入れをすることで、財務収支をプラスにして資金ショートを防ぎます。

財務収支は、経常収支と設備収支との関係で、プラスにもマイナスにもなります。一般的には、積極的に投資をして事業を拡大しているときには、設備収支のマイナスを補うために財務収支がプラスになり、設備投資が終わると、その借入金を返済していくので財務収支はマイナスになります。

2.情報共有のための資金繰り表の活用


資金繰り表は、経理・財務部門内でのみ使用されることが多いですが、社内での情報共有や意識共有にも活用することができます。

(1) 売掛金の回収に対する意識付け

売掛金とは、商品を販売したものの代金の回収が未了となっている金額のことです。

売掛金回収の重要性については、経理部と営業部で意識を共有しておかないと、社内でのコミュニケーションギャップが生じてしまいます。

営業担当者の場合、売上を上げることに対する意識は高くても、売掛金をきちんと回収することの重要性まで意識できている人は多くありません。そのため、販売だけを行い、いつまでも回収がなされないというケースもあります。

そこで、資金繰り表によって、売掛金を早期に回収することの重要性について説明します。営業担当者の意識付けなので、細かい事項については金額を集約し、経常収支のみを月次で作成したものがあれば十分です。全社分を示さず、部門を限定することも考えられます。


(2) 売掛金回収率のアップ

得意先ごとに回収予定日を記載した資金繰り表を作成し、社内で共有することで、いつまでにどの売掛金を回収しなければならないのかが明確になります。

その入金がなぜ重要なのかもあわせて説明できるため、売掛金を回収する動機も高まります。具体的には、営業担当者が得意先に連絡を入れるタイミングが早くなったり、こまめな対応を行うようになったりすることが期待されます。

予定日を過ぎて入金がなければ、営業担当者は早めに先方に連絡して、早期回収に努めることが重要です。


■月次資金繰り表の例


(3) 売掛金回収期日の短縮の交渉

回収期日の長い得意先を抽出し、期日を短縮してもらう交渉を行うことで資金繰りを改善することができます。この交渉は営業担当者が中心となって進めますが、得意先に自社の状況を知ってもらうために資金繰り表が役に立ちます。この場合の資金繰り表は、月次資金繰り表の要約版で十分です。また、期日の短縮によって、どの程度資金繰りが改善する見込みなのかもあわせて示せると説得力が増します。

とはいえ、自社の都合だけで回収期日を短縮することは通常できません。早期入金に協力してもらえた場合には販売額を割引するなど、得意先にとっても有利となる条件を用意することが必要です。



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