Netpress 第1670号 長所・短所を勘案し、適切な資本政策を立てる 減資のメリット・デメリット

Point
1.減資には有償減資と無償減資があります。減資により資本金を1億円以下にすることによって、要件を満たせば、税金負担の軽減が可能になります。
2.一方で、会社法上の諸手続の事務負担、場合によっては、会社の信用力が低下するおそれや経営理念との整合性の懸念がありますので、慎重な検討が必要です。


公認会計士 金本敏男事務所
公認会計士・税理士 金本 敏男

1.減資の態様と手続き

減資とは、資本金の額を減少させることをいいます。株主に対して金銭等を交付する「有償減資」(実質的減資)と金銭等を交付しない「無償減資」(形式的減資)がありますが、減資の多くは、減資のメリットを活用することを目的とした無償減資となっています。

また減資は、原則として株主総会の特別決議が必要ですが、減少する資本金の額がその定時株主総会の日の欠損金の額を超えない場合は、会社財産の流出がないため、その決議要件は普通決議で足ります。また、株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力発生日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らない場合は、取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合は、取締役の決定)で足ります。

なお、会社法では、減資から株式消却が切り離されたため、減資に際して株式数を減少させるためには、株式併合の決議を行うか、または自己株式の取得決議を行って、取得した自己株式を消却する必要があります。

また、減資は会社債権者の利害に大きな影響を与える可能性があるため、有償無償に関係なく、減資公告等の債権者保護手続きが必要になります。

2.減資のメリット・デメリット


区分内容
メリット①税金負担の軽減資本金1億円以下の中小法人については、減資後の資本金に応じて段階的に設けられた中小法人向けの税制を適用することができます(3.中小法人向けの税制 参照)。
②欠損金の補填資本金の減少額で繰越利益剰余金のマイナス部分を補填することができます。
デメリット事務負担の増加および信用力の低下株主総会の決議及び登記が必要であることから、事務負担が生じます。また、場合によっては、会社の信用力が低下するおそれがあるため、慎重に判断する必要があります。


なお、無償減資(欠損金の補填は除く)を行うことにより、資本金を資本準備金または、その他資本剰余金に振り替えることになり、純資産の部の内訳は変わりますが、純資産の部の金額は増減せず変わりません。また、資本金から「その他資本剰余金」へ振り替えた分は配当財源になり得ます。

3.中小法人向けの主要な税制

資本金が1億円以下の場合 (注1)


税目制税中小法人向けの内容
法人税
① 法人税の軽減税率
本則税率19%(所得800万円以下)
② 貸倒引当金
限度額の範囲内で損金算入可能
③ 欠損金関係
全額繰越控除、繰戻し還付
④ 留保金課税
不適用
地方税
① 外形標準課税
不適用
② 法人税割の超過税率
不適用
租税特別措置法(注2)
① 研究開発税制
上乗せ措置
② 所得拡大促進税制
上乗せ措置
③ 交際費等の損金不算入
定額控除制度の適用
④ 法人税の軽減税率
特例税率15%(所得800万円以下)
⑤ 中小企業投資促進税制
特別償却または税額控除(税額控除の対象法人は資本金3,000万円以下に限定されています。)
⑥ 商業・サービス業・農林水産業活性化税制
特別償却または税額控除(税額控除の対象法人は資本金3,000万円以下に限定されています。)
⑦ 少額減価償却資産の特例
30万円未満の損金算入(従業員数1,000人以下の法人に限定されており、年300万円を限度としています。)


(注1) 法人税および租税特別措置による中小法人向けの税制の対象法人については、資本金5億円以上の法人(以下「大法人」といいます)の100%子法人等、および完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人を除きます。

(注2) 平成29(2017)年度税制改正により、減資により資本金が1億円以下となっても、前3事業年度の平均所得金額が年15億円を超える場合には、大企業並みの多額の所得があるものとされ、中小企業向けの税制のうち租税特別措置の適用ができなくなります。この改正は、平成31(2019)年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。


なお、法人住民税の均等割については、各事業年度末における資本金等の額(注3)や従業員数によって税額が異なります。例えば、資本金等の額が1,000万円以下の場合、1,000万円超~1億円以下の場合、1億円超~10億円以下の場合では、それぞれ税額が異なります。


(注3) 平成27年税制改正により、均等割の基準となる「資本金等の額」は、「資本金等の額」と「資本金+資本準備金」とのいずれか大きい金額となっております。また、「資本金等の額」に無償増減資等の金額を加減算する措置が講じられており、平成13年4月1日以後の無償減資による欠損填補(平成18年5月1日以後については、減資後1年以内に欠損金の填補に充てた金額に限る)により、法人住民税の均等割額が減少する可能性があります。



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