Netpress 第2366号 中小企業が取得したい 採用・定着のために有効な各種の認定制度

Point
1.国などが設けている「認定制度」の認定取得は、求職者が就職先を選ぶ際の安心材料となり、従業員満足度や企業価値の向上にもつながります。
2.ここでは、採用・定着のために有効な認定制度の概要と、取得・活用の留意点を紹介します。


あおい社会保険労務士法人特定社会保険労務士
キャリアコンサルタント
金久保 眞理


現在、日本では「世界に類を見ない急激な少子高齢化」が進みつつあります。必要な労働力を確保することは、今後ますます難しくなっていくでしょう。そのような環境において、希少性の高い若年層人材の採用・定着のために、働きやすい労働環境であることを示す指標として期待できるのが、国などが設けている「認定制度」です。


認定を目指すにあたっては、若年層の就業意識や時代の変化、自社の置かれた状況を認識し、自社が目指す姿を描くことが第一歩となります。現況を踏まえて自社が目指す姿をイメージすると、どのような認定制度が有効で、どのように取り組みを進めていけばよいかが見えてくるでしょう。


そこで、以下では主な認定制度の概要と留意点などを紹介します。

1.採用・定着のために有効な認定制度

各認定制度の認定までのプロセスは、おおむね次のように進められます。


① 自社の課題や労働者のニーズの把握
② 行動計画の策定
③ 労働者への周知
④ 行政への届出
⑤ 行動計画の実施
⑥ 計画期間終了後、認定申請
⑦ 認定後、マークの付与


(1)くるみん認定制度 〜 子育てサポート

この制度は、「次世代育成支援対策推進法」に基づくものです。「一般事業主行動計画」の策定・届出を行ったうえで、目標を達成し、一定の基準を満たした場合に、「子育てに理解があり、性別を問わず、子育て中の従業員に対して高い水準の子育て支援を行っている企業」として厚生労働大臣が認定します。


くるみん認定には、「トライくるみん」と「くるみん」、そして前者のどちらかを取得したうえで、より高い水準の認定基準を満たした場合に認定される「プラチナくるみん」の3種があります。


さらにそれぞれ、不妊治療と仕事との両立がしやすい職場環境の整備に取り組む企業に対して、「トライくるみんプラス」「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」といったプラス認定制度もあります。


(2)えるぼし認定制度 〜 女性活躍推進

この制度は、「女性活躍推進法」に基づくものです。「一般事業主行動計画」の策定・届出を行ったうえで、女性の活躍を推進している企業を厚生労働大臣が認定します。


えるぼし認定は、評価基準を満たす項目数に応じて3段階あり、さらに厳しい基準を満たした場合は「プラチナえるぼし認定」を取得することができます。長期的なキャリアを考える女性にとって、長く働ける労働環境や、女性社員が多く活躍できる企業は魅力的に感じられるでしょう。


(3)ユースエール認定制度 〜 若者の採用・育成

この制度は、「若者雇用促進法」に基づくものです。若者の採用・育成に積極的で、「人材育成方針」と「教育訓練計画」を策定し、若者の雇用管理の状況等が優良な中小企業(常用労働者300人以下)を厚生労働大臣が認定します。


認定にあたっては、正社員の離職率・残業時間数・有給休暇取得率・育児休業取得状況等の認定基準を満たす必要があるほか、解雇・退職勧奨・新卒採用内定取消しを行っていないことなどが求められます。


(4)DX認定制度

この制度は、「情報処理促進法」に基づくものです。「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応し、DX推進の準備が整っていると認められた企業を経済産業省が認定します。


認定により、DX投資促進税制の優遇措置を受けることや、社内の「DX戦略の推進」「顧客に対するイメージ向上」「人材確保に向けた企業イメージ向上」等を図ることができます。


(5)健康経営優良法人認定制度

この制度は、地域の健康課題に即した取り組みや、日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している企業を認定・顕彰するものです。認定は日本健康会議が行います。


健康経営優良法人は、大規模法人部門と中小規模法人部門のそれぞれで認定されます。認定されることで、求職者、関係企業、金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的な評価を受けられるほか、健康経営優良法人のロゴマークの使用が可能となります。

2.認定を受けるメリットと留意点

各種認定制度の認定を受けるメリットとしては、まず次のものが挙げられます。


・企業としての信用力、ブランド力の向上
・若年層へ安心感を与え、採用にも好影響


認定取得は、子育てや若年層・女性の就業に対して、あるいは従業員の健康管理に対して理解が深い証明となるため、そのメリットは社内・社外を問わず大きいでしょう。


そのほか、自社の商品、広告などに認定(ロゴ)マークを表示できることなどもありますが、認定制度に取り組む最大のメリットは、そのプロセスから生まれる「組織風土」の醸成にあると思われます。


認定を目指すにあたっては、自社の未来を考え、課題を把握し、認定制度が目指す理念と自社の方向性を社内に対して明確に発信する、というプロセスが必要になります。


当然、時間も労力もかかりますから、各種認定制度に取り組む際には、認定それ自体を「目的」としないようにすることや、特定の部署だけでなく全社員で取り組むことが留意点として挙げられます。


理念や課題が全社員の共通認識となり、1人ひとりの行動が変わっていく過程で醸成された「組織風土」こそが、継続的な若年層の採用・定着、未来の成長へとつながる好循環への土壌となります。


昨今、人材の概念は、「人的資源=企業経営におけるコスト」から、「人的資本=投資して成長を促す」に変わりつつあります。認定制度による取り組みを通して、組織風土を改善し、人材の価値を最大限に引き出すことで、採用・定着だけにとどまらず、中長期的な企業価値の向上を目指していきましょう。



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