Netpress 第2362号 歓送迎会シーズンは特に要注意 上司による飲酒の勧めが違法なハラスメントに?

Point
1.歓送迎会、業務終了後の反省会など、飲酒を伴う場での言動が違法なハラスメントになることがあります。
2.「飲めない」と言う部下に対して、上司が飲酒を強く促したことを違法とした事例(参考判例/東京高裁2013年2月27日判決、[原審]東京地裁2012年3月9日判決)から、会社として求められる対応を確認します。


弁護士 佐藤 みのり


1.問題となった事案の概要

Aさんは、ホテルを運営しているX社に入社し、営業部において、直属の上司であるB次長とともに、海外富裕層の顧客を獲得するための業務に携わっていました。


X社は、Aさんら新入社員の歓迎会を開催し、その際のAさんは少量のビールを飲み、少し顔を赤くしながら楽しそうに話すなど、他の社員と打ち解けた様子でした。そのため、営業部の本部長は、Aさんがお酒を飲むことができない体質であるとは認識していませんでした。


X社は、海外から大勢やって来る宿泊客に対する英文のパンフレットを作成し、宿泊客の部屋に設置することに。そのため、まずAさんをホテルに出張させ、その後、Aさんの同僚のCさん、上司のB次長を現場に向かわせる計画が立てられました。


ところが、Aさんがホテルに到着すると、発送依頼の手違いにより英文のパンフレットが届いていないことが判明。Aさんは、ホテルの従業員と協力することで、なんとか事なきを得て、その後、Cさん、B次長と合流しました。


その夜、パンフレットの手違いの反省会を兼ねて、Aさん、Cさん、B次長が居酒屋に集まり、最初に生ビールで乾杯。その後、B次長はアルコールを注文しましたが、Cさんは風邪気味であったためソフトドリンクを、Aさんはウーロン茶を注文しました。


しばらくして、B次長はAさんにビールを勧めました。Aさんは、グラスを手でふさぎながら「飲めないんです。飲むと吐きますので、今日は勘弁してください」などと言って断りました。しかしB次長は、「少しぐらいなら大丈夫だろう」「お前、酒飲めるんだろう。そんなに大きな体をしているんだから飲め」「俺の酒は飲めないのか」などと語気を荒げ、執拗にビールを飲むことを要求し、Aさんが少し口を付けると、再びビールを注ぎました。


パンフレットの件で負い目を感じていたAさんは、その要求を断り切れず、B次長からの飲酒の誘いに応じていましたが、気分が悪くなりトイレへ駆け込んで嘔吐しました。


トイレから戻り、AさんがB次長に「すみません。次長、戻してしまいました」と言ったところ、B次長は「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い、さらにAさんのコップにビールを注ぎました。


結局、Aさんは閉店までB次長の飲酒に付き合い、その後、B次長の部屋でも飲酒を勧められたAさんは酔いつぶれて、B次長の部屋で眠り込んでしまったのです。


翌日、Cさんが運転する車で空港に向かう道中、B次長は「レンタカーはお前の名義で借りているのだから、運転を代わってやれ」と、Aさんに言いました。


昨夜の飲酒で体調が悪かったAさんは、「昨日の酒が残っていますので、運転はできません」と言いましたが、B次長は「もう少しで着くから大丈夫だ」などと言い、Aさんにレンタカーを運転させました。


この後、Aさんはもともとの健康状態がよくなかったこともあって体調不良に陥り、X社を退職しました。退職後、AさんはB次長からハラスメントを受けたとして、X社、同社社長、B次長を相手取り、訴訟を提起したのです。

2.裁判所の判断

裁判所は、「Aさんが少量の酒を飲んだだけでも嘔吐しており、B次長はAさんがアルコールに弱いことに容易に気付いたはずである」としました。


そのうえで、それにもかかわらず、Aさんの体調の悪化を気に掛けることもなく、再びAさんのコップに酒を注ぐなどしたことは、「単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為法上も違法」と判断し、その後にB次長の部屋で飲酒を勧めたことも含め、違法(なパワハラ)と認めています。


さらに飲酒の翌日、酒のせいで体調を崩していたAさんに対し、上司の立場で運転を強要したことは、たとえわずかな時間であっても極めて危険であり、違法なパワハラであることは明らかとしています。


そして、B次長の行為は、本来の勤務時間外における行為であるとはいえ、いずれもX社の業務に関連してなされたものであることは明らかであるとして、X社も使用者責任を負うとしました。


本件では、他にもB次長のパワハラ行為が認められており、慰謝料150万円の支払いが命じられています。


なお、Aさんは「パワハラ行為により精神疾患等に罹患した」と主張していましたが、パワハラ行為の前後で処方を受けている薬に変化がないことや、他の理由により適応不全を起こした可能性もあることなどを踏まえ、パワハラと精神疾患等の発症との因果関係は否定されました。

3.事例から得られる教訓

アルコールハラスメント(アルハラ)とは、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為、人権侵害のことであり、次のようなものを含みます。


① 飲酒を強要すること
② 飲めない人に対する配慮を欠くこと
③ 一気飲みをさせること
④ 意図的に酔いつぶれるよう仕向けること
⑤ 酔ったうえで迷惑行為をすること


裁判上は、不法行為に当たるか否かが問題となり、事例によっては「パワハラ」の一種と捉えられることもあります。


飲酒を伴う場では、気が緩みがちで、場を盛り上げるための集団でのはやしたてや罰ゲームなどが行われることも多く、ハラスメントが起こりやすい要素がそろっています。


そのうえ、アルコールは体質や摂取量によっては、健康ばかりか生命を脅かすこともあり、ひとたびハラスメントが起こると非常に危険です。


アルハラを未然に防止するため、企業としては、日頃から社員の意識を高めておくことが大切になります。ハラスメント研修のなかでアルハラの事例を紹介したり、飲み会が増えるシーズンに合わせて事例検討会を行ったりするなど工夫しましょう。また、飲み会の席で不快な思いをした社員が、気軽に相談できる体制を整えることも有効です。


お酒が入ることで、本音が言いやすくなったり、楽しい雰囲気が生まれたりすることもあります。正しい飲み方を推奨し、親睦を深められるようにしましょう。



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