マネプラ・オピニオン  コロナ禍が迫る構造改革(高橋 進)

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



ニューノーマルといわれるように、コロナ禍が私たちの日常を大きく変えてしまった。しかし、足元で起きている変化や危機の多くは、実はコロナ以前からあったもので、それがコロナ禍によって表面化、加速したに過ぎない。


例えば、感染拡大防止のためのソーシャルディスタンスの要請によって世界でデジタル化の流れが加速している。先進国の所得格差・貧困がコロナ禍によってさらに拡大している。コロナの発生によって米中摩擦、世界の分断傾向が激化している。コロナ禍で改めて人と自然との向き合い方が問われ、グリーン化の流れが加速している等々。


人類はパンデミックを何度か経験しているが、こうした外在的危機が引き金となって様々な内在的危機が起き、あるいは加速した。話は逆で、コロナ禍や気候変動といった危機は、人類社会の内在的危機が引き寄せたものかもしれない。


コロナ禍によって日本の内在的危機も加速している。日本経済、企業経営の制度疲労による成長力の低下、企業活力の低下が指摘されて久しい。グローバル競争やデジタル化の波にもついていけず、日本経済の敗色は濃くなっていた。コロナ下でも日本経済の回復力は他の先進国に比べて弱く、日本経済の構造転換の遅れを反映しているといわざるを得ない。


行政の制度疲労も深刻である。行政手続きのオンライン化が遅れていて特別定額給付金の支給に手間取る、オンライン教育が進まない等、行政のデジタル化の遅れが表面化した。他国に比べコロナの重症患者の数が少ないにもかかわらず、医療行政が後手後手に回っていることも、行政の危機対応力が落ちていることの証左ではないか。


菅政権になって、デジタル庁の設置、デジタル規制改革など、曲がりなりにも行政改革の芽出しは行われつつある。では、日本企業はどうか。このまま、ゆでガエルよろしく茹で上がってしまうのか、それとも危機に目覚め、ジャンプ一番、ぬるま湯から飛び出すのか。いまこそ、企業の自己変革力が問われている。


◎「SMBCマネジメント+」2021年5月号掲載記事

プロフィール

株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメリタス 高橋 進

(たかはし・すすむ)1953年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。ロンドン駐在などを経て、株式会社日本総合研究所に転じ、調査部長等を経て2011年6月より理事長。18年4月にチェアマン・エメリタス(名誉理事長)に就任し、現在に至る。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(05年~07年)、内閣府経済財政諮問会議 民間議員(13年~19年)、内閣府規制改革推進会議 委員兼議長代理(19 年~)等、公職を多数歴任。

受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート