Netpress 第2356号 火に油を注いでいないか? あらぬ誤解を防ぎ信頼関係を強める「謝罪」のコツ

Point
1.謝罪によって信頼を回復できる場合もあれば、いっそう禍根を深めてしまうこともあるなど、謝罪の成否がその後の関係に大きな影響を及ぼします。
2.ここでは、謝罪の成否を分ける要因を踏まえて、どのように謝罪を行えばよいのかをみていきます。


名古屋大学教授
川合 伸幸


企業や著名人が記者会見を開いて謝罪することがありますが、その謝罪によって事態が収束することは稀です。そうした謝罪を批判することは簡単ですが、どこに問題があったかを明確に説明できる人は、それほど多くないでしょう。


以下では、信頼関係を強固にする、効果的な謝り方のポイントを説明します。

1.謝罪が逆効果になる理由

謝罪は事態を収めるために行われますが、「本当に悪いと思って謝罪しているようには見えない」と感じられることが少なくありません。それどころか、その謝罪によって強い反発を招くことすらあります。


スタンフォード大学の研究によれば、次の4つの要素のいずれかが含まれていると、謝罪は逆効果になります。


① 正当化
② 逆切れ
③ 弁解
④ 矮小化


①の正当化は、「わざとではない」「知らなかった」などのように、自身の行動や発言にはそうするだけの理由があったとすることです。②の逆切れは、自らは被害者であるとして他者を非難することです。そして④の矮小化は、問題や状況を小さく見せようとすることです。


多くの「失敗した謝罪会見」には、この4つの要素のいずれかが含まれています。逆にいえば、これらの要素を含まないように配慮して謝れば、謝罪が逆効果になることはないでしょう。


とはいえ、これら4つの要素を含まなければ、そのまま問題なく謝罪が受け入れられる、というわけでもありません。自身の行いを詫びるだけでは、誠意が伝わる謝罪にはならないのです。

2.意を尽くした謝罪とは

では、いったいどのように謝罪すればよいのかというと、少なくとも次の3つの要素を含む謝罪が効果的です。


① 後悔
② 責任
③ 補償


①の後悔は、「こんなことになって申し訳なく思います」という自責の念を示すことです。しかし、「そんなつもりではなかった」と続けて正当化を図っては、元も子もありません。


②の責任は、「私の不注意のせいです」と、自身に責任があることをはっきり認めることです。


そして、謝罪を受ける側がもっとも重視しているにもかかわらず、多くの謝罪に欠けているのが③の補償です。ここでいう補償とは、何も金銭的なものに限りません。


たとえば、打合せに遅刻した場合は「要点をまとめて話し、時間内に終わらせます」というように、具体的な解決策を示すのも補償のひとつです。可能であれば、今後の仕事で埋合せをすることを提案するのもよいでしょう。


大事なのは、相手の立場に立って、どのような補償がなされれば相手の気が済むのかを考えて実践することです。


これらに加えて、「説明」が含まれていると、謝罪はさらに受け入れられやすくなります。この場合の説明とは、そのような事態に至った理由を伝えることです。弁解と似ていますが、自分の立場から話をしないように気をつけることで、弁解にはなりません。


たとえば、「電車が遅れていました。大変申し訳ありません」と「遅れて大変申し訳ありません。電車が遅れていました」は、同じことを述べていますが、前者は、受け取り方によっては電車の遅延のせいで遅れたという弁解に聞こえます。


それに対して後者は、まず遅れたことを先に謝罪し、それから電車の遅延という事情の説明をしています。これだけでも、相手方の受ける印象は大きく変わるでしょう。



3.謝罪で信頼を回復するには

米国の研究によると、人間関係がギクシャクしたときに、謝罪してほしいと思う人はほとんどいないそうです。実際には、自分のために時間や労力を費やしてほしいと多くの人が考えています。


関係を修復するうえでもっとも大切なのは、そもそも人間関係において、いさかいがあるのは当たり前だと理解することです。言い争いを避けるのではなく、しっかり対処するほうが建設的な関係を再構築できます。


そのために重要な5か条が、米国の研究によって次のように示されています。


1.安易に謝って問題を収めようとしない

2.自分が正しいという思い込みを捨てる

3.相手の立場に立って考える

4.相手の感情を攻撃と捉えない

5.態度を変える意志があることを示す 


これらの根底にあるのは、「相手が自分に何を求めているのか」を丁寧に考えることです。


簡単な謝罪でその場を収めようとするのではなく、関係がギクシャクしたことを機会に、相手が自分に求めていることをよく考え、場合によっては何度も補償や改善の意志を示す必要があります。



誠意が伝わる謝罪をするためには、まず自身に非があることを認めなければなりません。ところが、誰しも「自分をよく見せたい」気持ちがあるので、正当化や弁解、事態の矮小化を含む謝罪をしてしまうのです。


ここまで説明してきた適切や謝り方をすれば、謝罪が逆効果になることはありません。謝罪の機会を、これまで以上に相手方と良好な関係を築く好機にすることができるでしょう。



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