Netpress 第2355号 記載事項や交付時期など 返品・値引きにまつわるインボイスの取り扱い

Point
1.インボイス制度の導入により、商品の返品や値引きなどがあった場合には、取引先に対して「適格返還請求書」の交付が必要となりました。
2.適格返還請求書の記載事項や交付のタイミング、交付が免除になるケースなどについて解説します。


廣田隼一税理士事務所
税理士 廣田 隼一


1.「適格返還請求書」とは

インボイス制度において適格請求書を交付した後に、返品や値引きなどにより売上代金の返金や売掛金の減額が生じ、消費税額等に変動があった場合は、どのようにすればよいのでしょうか。


適格請求書発行事業者には、課税事業者に返品や値引きなどの消費税法に規定される売上げに係る対価の返還等を行う場合に、「適格返還請求書」を交付する義務が課されています。


この適格返還請求書の交付によって、買手は返品や値引きなどにより減額された消費税額等の正確な情報を得ることができ、適正な消費税の計算をすることが可能となります。


また、適格請求書発行事業者は適格返還請求書の交付に代えて、適格返還請求書に係る電磁的記録を提供することができます。


なお、適格返還請求書の写しや電磁的記録については、交付した日または提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間、納税地またはその取引に係る事務所、事業所等の所在地に保存しなければなりません。

2.返品・値引き時の実務

(1)適格返還請求書の発行

返品・値引きが生じた際には、適格請求書発行事業者である売手は適格返還請求書を発行します。


適格返還請求書に記載すべき事項は、次のとおりです。



適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号

売上げに係る対価の返還等を行う年月日およびその売上げに係る対価の返還等の基となった課税資産の譲渡等を行った年月日(○月〜△月分といった記載も可)

売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容(売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容および軽減対象資産の譲渡等である旨)

売上げに係る対価の返還等の税抜価額または税込価額を税率ごとに区分して合計した金額

売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等または適用税率


(2)適格返還請求書の交付が免除される場合

適格請求書発行事業者には適格返還請求書を交付する義務が課されていますが、適格請求書の交付義務が免除される場合と同様に、次の場合には適格返還請求書の交付義務が免除されます。



3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)による旅客の運送

出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売で、出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うもの

生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売で、無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うもの

3万円未満の自動販売機および自動サービス機により行われる商品の販売等

郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービスで、郵便ポストに差し出されたもの


また、売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務が免除されます。


売上げに係る対価の返還等とは、事業者の行った課税資産の譲渡等について、返品を受けまたは値引き、割戻しをしたことにより、売上金額の全部もしくは一部を返還またはその売上げに係る売掛金等の債権の全部もしくは一部を減額することをいいます。例として、値引き、返品による売掛金の減額や、販売促進目的で商品の販売数量や販売高等に応じて取引先に支払う販売奨励金等が挙げられます。

3.実務上の留意点

(1)売手負担の振込手数料相当額について

売手からの代金の請求について、買手が振込手数料相当額を請求金額から差し引いて支払い、その手数料相当額を売手が負担するという商慣行があります。


この場合、売手において振込手数料相当額を支払手数料として費用処理、あるいは売上値引きとして売上げの減算処理をすることが一般的ですが、それぞれ消費税の取り扱いが異なりますので注意が必要です。


売手が振込手数料相当額を売上値引きとして処理する場合には、売上げに係る対価の返還等を行っていることとなりますので、原則として、売手は買手に対して適格返還請求書を交付する必要があります。


しかし、通常、振込手数料相当額は1万円未満となりますので、適格返還請求書の交付は不要ということになります。


一方、売手が負担する振込手数料相当額を支払手数料(課税仕入れ)として処理する場合、適格返還請求書の交付は不要ですが、仕入税額控除を行うために、原則として買手や金融機関からの支払手数料に係る適格請求書等の保存が必要です。


このように、売手が負担する振込手数料相当額については、売上値引き(売上げに係る対価の返還等)処理とするか、支払手数料(課税仕入れ)処理とするかで、事務負担が異なる可能性があります。


(2)販売奨励金等について

商品などの販売にあたり、販売促進目的で商品の販売数量や販売高等に応じて取引先に支払う販売奨励金等は、売上げに係る対価の返還等に該当します。そのため、企業がこのような販売奨励金等を支払う場合は、原則として、適格返還請求書を交付する必要があります。


ただし、商品の買手が売手に対して、適格返還請求書の記載事項を満たす販売奨励金請求書等を交付する場合は、売上げに係る対価の返還等の情報が記載された書類が売手と買手の間で共有されるため、売手が改めて適格返還請求書を交付する必要はありません。


なお、取引先に支払われる販売奨励金等は、その目的や性質により消費税の取り扱いが異なります。それに応じて適格請求書等の対応関係も異なってきますので、注意して判断しましょう



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