Netpress 第2354号 社員が意見を言いやすい社内風土を育む 不祥事や隠ぺいを引き起こす組織にならないためには?

Point
1.社員が率直に意見を言える環境は、新しいアイデアや多様な意見を促進し、企業の価値創造に寄与します。
2.心理的に安全ではない環境が、企業の不正や不祥事を引き起こす要因の一つとされています。
3.意見を言える環境づくりのためには、経営トップのコミットメントと組織に適した施策がキーポイント。


クロスメディア・コミュニケーションズ株式会社
美奈子・ブレッドスミス


まず、「わが社の社員は、自分の意見を率直に同僚や上司に言えているだろうか」ということについて、自問自答してみてください。そして、この自問に対するご自身の答えがYESであってもNOであっても、今日だけは「NO」と仮定して、この記事を読んでいただきたいと思います。


その理由は、自社の風土に問題がないと思うことこそがリスクにつながるからです。

1.なぜ意見を言いやすい環境が必要か

昨今、「多様性への取り組み」や「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」などの言葉が企業のウェブサイト等でよく見られるようになりました。


一部では女性活躍推進の代名詞のように使われるケースもありますが、経営者がこの取り組みを進める背景にはビジネスへの寄与があります。


2020年に日本経済団体連合会が行った「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ&インクルージョン推進」に関するアンケート結果では、「経営層がD&I推進により期待する経営効果」として多くの企業に選ばれた回答が「優秀な人材の維持・獲得」「プロダクト・イノベーション」「事業環境変化に対する感応度、危機対応力の向上」の順となっており、事業成長に貢献することへの期待がうかがえます。


多様性への期待は、言い換えれば「多様な意見やアイデアが出される」ということですが、仮に多様な人材が社内にいたとしても、その環境次第ではメリットが活かされないことがあります。


それは支配的なリーダーがいる場合です。仮に異なる意見を持っていたとしても、「リーダーと異なる意見を言ったら怒られるかもしれない」「以前、同僚が発言したときにそれを否定されていたので、私もそんな目に遭うのは嫌だ」などの感情を持ってしまう環境では多様性は発揮されません。


また、同調圧力がかかる組織においても同様に、何か有益な意見を持っていたとしても誰かに合わせてしまい、その意見は表に出ることなく消えてしまう可能性があります。


逆に、率直に意見を言える組織ではアイデアやチャレンジを提案することができ、新しい顧客ニーズやビジネス環境の変化に対して組織内で議論するきっかけになります。


つまり、そうでない企業に比べると価値創造に向けた初動が早いということです。

2.意見を言えない組織が直面するリスク

社内風土が語られる場面の一つとして挙げられるのが、不正や不祥事が起きたときです。


不正や不祥事を望む経営者は誰一人としていないはずですが、それでも後を絶たない現状があります。


2023年を振り返るだけでも、年末に発覚したダイハツ工業の認証不正問題があり、夏にはビッグモーターの自動車保険金の不正請求。春頃には旧ジャニーズ事務所の性加害問題があり、その前年にも日野自動車によるエンジン検査の不正やスシローの「おとり広告」に対する措置命令などもありました。


さらに遡れば、2011年に発覚したオリンパスの不正会計事件、2000年に発生した雪印の集団食中毒事件など、挙げればきりがないくらいです。


これらの事象は社内風土に端を発したものではなく、個々にさまざまな背景がありますが、ある事例では経営者自らが不正の当事者になり、取締役会でも隠ぺい工作に反対する声が上がらなかったという例もあります。


また、上司が良い報告しか歓迎せず、失敗や悪い知らせを報告することを躊躇した結果、被害が拡大してしまった例もあります。


このように「発言できない」「意見しない」などの状況が起きるのは、そう特別なことではないということです。


率直に意見を言える環境であれば、大きなリスクになる前の違和感や不安を社員が一人で抱えることなく、同僚や上司に共有しやすくなります。つまり、率直に意見を言える環境というのは、言い換えれば「心理的安全性が確保された環境」そのものということです。

3.具体的にどうすればよいのか

まず重要なことは、経営トップが「意見を言える環境」や「心理的に安全な環境」を実現したいという強い意志を持つことと、それに取り組む宣言です。社内に向けて、意思を言葉にして伝えるということです。


仮に従前の環境がそうでなかった組織の場合には、経営トップがメッセージを出したとしても、ベテランや中堅の社員がピンと来ず、行動や発言を変えられないこともあります。


そのため、組織の全方位に対して取り組んでいくことが鍵となります。たとえば、経営トップからのメッセージ発信は頻繁に行い、管理職には実現したい組織に向かうためのリーダーシップ研修を、若手社員や現場社員に対しては情報を気軽に共有できる場や機会の提供を行うなどです。


NG例としては、経営トップの意向により、社員に情報発信してもらおうと社内ソーシャルメディアを導入したものの、特定の人しか投稿せず、傍観する社員が多い。一部のベテランからは投稿に関して冷ややかな声が聞こえてくるといったようなケースです。


このような状況になると、「投稿すること=批判の対象になるリスク」と認識され、かえって発言を控えるような流れができてしまいます。


ここでお伝えしたいのは、社内ソーシャルメディアが悪いということではありません。不用意に施策を講じることは効果が出にくいのみならず、マイナスの作用をもたらす可能性があるということです。


そのため、情報を共有する機会や場の選定には、組織の状況や風土に適した進め方が重要になってきます。


ツールに頼らなくとも、役員が雑談のなかで社員の考えを聞いてまわったことで、新しい業態を生み出し成果を上げた企業事例もあります。


「風土は一日にしてならず」――しかし経営トップの想いを伝え続けることが、これまで根付いたものを変える呼び水になることは間違いありません。


本記事が社員の多様な意見を活かし、企業の価値を高める風土醸成の参考になれば幸いです。



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