Netpress 第2351号 ありたい姿の実現に向けて 気候変動対応をきっかけにビジネスモデルを見直そう

Point
1.気候変動対応は、中小企業こそ避けて通ることができない重要な課題となっています。
2.気候問題や社会の変化を見据えて、自社のありたい姿(ビジネスモデル)を描きましょう。
3.目指すのは、さまざまな環境変化に対応できる「しなやかな組織」を作ることです。


山田コンサルティンググループ株式会社
シニアマネージャー
高橋 宏輝


御社は、「どのような気候変動対応に取り組んでいますか」と問われたら何と答えますか。


「省エネと温室効果ガスの削減に取り組んでいます」といった回答では残念ながら不十分です。


気候変動の影響はすべてのビジネスに及び、これに伴う事業環境の変化に備えて企業はビジネスモデルを根本から見直す必要があります。


このことは、中小企業にとっても例外ではないのです。

1.気候変動対応とは

そもそも、なぜ気候変動への対応が求められているのでしょうか。


それは、現在急速に進んでいる気候変動とこれに由来する社会の変化が、事業継続の大きな危機だからです。


これまでも企業は景気変動や自然災害などさまざまな危機にさらされてきましたが、そのなかには予見が難しいものもありました。


一方で、気候変動とそれに伴う社会の変化は、どのようなことが起きそうかを見通すことができる「予見可能な危機」なのです。


地球温暖化は、毎年の猛暑で実感を持つ方も多いでしょう。人為的な温室効果ガスの排出による温暖化は科学的に確実とされており、温室効果ガスの排出が続く限り、止まりません。


これに対して、各国政府は脱炭素社会の実現を目指した社会システムの見直しを進めています。


温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする脱炭素は、気候変動を緩和するために必要不可欠ですが、脱炭素を実現しても、温暖化した気候がすぐに戻るわけではありません。


私たちは、すでに温暖化した気候と、さらなる温暖化を食い止めるための社会の変化を受け入れて、それに適応しなければならないのです。


冒頭の回答は、この適応が抜け落ちているために不十分なのです。

2.変化に適応し、ビジネスモデルを見直す

それでは、企業は気候変動にどう対応すればよいのでしょうか。


最も使われているのは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が提言したフレームワークです。


このフレームワークは、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という要素ごとに企業が取り組むべき項目を示しています。


特徴的なのは、戦略を考える際のシナリオ分析という方法論です。


シナリオ分析とは、複数の未来予測(シナリオ)に基づいてバックキャスティングで戦略を考えるというものです。


気候変動における複数のシナリオとは、たとえば、全世界で脱炭素化が実現して温暖化が緩和される未来と、各国が自国経済優先で温室効果ガスを排出して温暖化が進む未来です。


バックキャスティングとは、まず目標像を描き、それに向かって取り組むべきことを決めていく手法です。


TCFDに取り組む企業は、脱炭素に向けて社会が激変する未来や、地球沸騰化と言われるような気候が激変する未来のいずれにも対応できるよう、それぞれの未来で自社がどんなリスクを回避し、どんな機会を獲得するか、そのために何をするかを考え、発信しています。


ただし、TCFDは気候変動対応を考える有効な手段ですが、上場企業が情報開示を行うために作られた枠組みであるため、中小企業が取り組むにはハードルが高いと言えます。


中小企業においては、シナリオ分析によるビジネスモデル見直しに的を絞って取り組むことをお勧めします。


ビジネスモデルの定義はさまざまですが、筆者は「どんな資源を使って、どんな価値を提供しているか」に尽きると考えます。


ここで言う資源とは、自社のヒト・モノ・カネや仕入れる資材、外注先、物流といったサプライチェーンそのものです。さらに、自社の製品がどのように処分され、リサイクルされているかも、広い意味で自社が利用する資源です。


利用する資源を、ゆりかごから墓場まで見渡した時、その資源は今後も利用可能でしょうか。農作物などの生物資源や猛暑下で働いてくれる人的資源など、気候や社会の変化で失われる要素はないでしょうか。


提供価値は、自社の製品やサービスが顧客のどんな悩み(ペインポイント)を解決しているかです。その価値は、気候や社会が変化しても持続するでしょうか。


たとえば、エアコンはJIS規格の影響で外気温43℃まで対応する機種が一般的でしたが、温暖化により外気温50℃まで対応する機種が増えています。また、ガソリン車から電気自動車への移行は、脱炭素に向けた社会の変化の顕著な例です。


このように、気候や社会の変化によって顧客の悩みや関心が変われば、自社の従来の提供価値は失われてしまうかもしれないのです。


まずは、自社のサプライチェーンと提供価値を詳細に書き出しましょう。


気候や社会が激変する未来で、失われる要素はないでしょうか。逆に魅力を増す強みはないでしょうか。


それらが気候変動に伴うリスクと機会です。環境省が発行する「民間企業の気候変動適応ガイド」や同業界企業のTCFD開示が参考になります。


リスクを回避して機会を獲得する、ありたい姿の実現が気候変動対応なのです。


中小企業は、活用する資源の選択肢が少なく、特定の事業への依存が高いことから、変化に弱い傾向にあります。そのため、中小企業こそ気候変動対応が必要なのです。

3.気候変動対応にとどまらず「しなやかな組織」へ

気候変動対応は、経営者が個人として進めるのではなく、現場を巻き込んだ全社プロジェクトとして取り組むことが重要になります。


組織としてビジネスモデルの見直しに取り組んだ経験は、その他の事業環境の変化(人口減少など)への対応にも応用が可能です。


気候変動対応を通して、危機に負けない「しなやかな組織」を目指していきましょう。



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