Netpress 第2088号 学び直しの動きが加速 注目の「リカレント教育」!企業ができる支援策

Point
1.コロナ禍にあって、「学び続けないと仕事がなくなる」という危機感が高まるなか、リカレント教育で仕事を続けながら学び直すビジネスパーソンが増えています。
2.リカレント教育の現状を確認したうえで、企業としてできる支援策や留意点について解説します。


株式会社リカレント 松田 航


最近、「リカレント教育」という言葉に触れる機会が増えています。「recurrent」という単語は、「re:再び」、「current:流れ」から、「循環する」「周期的に起こる」という意味です。そこから派生し、リカレント教育は、社会人の再教育を意味しています。一度、就労を始めたら学習をやめるのではなく、就労と学習を繰り返すことで、時代に合ったスキルを身につけ、仕事の場で発揮するという考え方です。以下では、日本のリカレント教育の現状や学習する内容、企業としてどのような支援ができるのかについてみていきます。


1.日本のリカレント教育の現状


状況は変わってきていますが、他国に比べて、日本はリカレント教育の進みが遅いのが現状です。


日本のように終身雇用制度が前提となっている社会では、リカレント教育に邁進するだけのインセンティブがないのは事実です。終身雇用制度は、リカレント教育の推進という点ではネガティブな制度でしょう。


雇用が守られている場合、突然市場に放り出され、職を探さなくてはいけない状況になることは少なくなります。自分のスキルセット(職種や地位に必要とされる知識や能力群)を磨くだけのインセンティブがない限り、学習を進めるのは、本当に意欲が高い人に限られてしまいます。


逆にいうと、雇用消失や雇用不安を感じる現状は、リカレント教育を推進するのに適した環境です。そのため、コロナ禍は企業内学習を進める機会となるでしょう。


2.どのような学習が行われているのか


現在、リカレント教育で行われている学習には、2つの方向性があります。1つは現在の能力を活かすもの、もう1つはまったく別のスキルを身につけるものです。


(1) 現在の能力を活かす学習


キャリアアップやセカンドキャリアのためのリカレント教育では、現在の能力を活かす学習が選ばれます。具体的には、次の3つの学習です。


・大学院に通い、MBAを取得して経営的な視点を強化する
・通信講座によって社会保険労務士や中小企業診断士の資格を取る
・オンライン動画によりビジネススキルを強化する


(2) 別のスキルを身につける学習


当然ながら、さまざまなスキルがありますが、特に関心が高まっているのがIT関連のスキルです。


コロナ禍で影響を受けなかった業界の代表例は、IT業界です。IT事業者は、コロナ禍でも業績を落とすことなく、むしろ追い風として大きく成長しているケースもあります。IT事業者以外の事業者の多くは、採用などの投資を減らしていますが、自社のIT投資への意欲は継続的です。


企業内で活躍の場を広げる意味でも、新しいキャリアを歩むためにも、ITは有益なツールになり得ます。今後数年間は、IT学習のニーズが高まることはあっても、低くなることはないでしょう。


3.企業ができる支援策


多くの社会人が、自分の専門的スキル向上のために教育機関で再教育を受けたいと考えています。しかしながら、障害が多数あるのが現状です。「勤務時間などの関係で職場の理解が得られない」「金銭面の負担が大きい」といった理由でリカレント教育を断念する傾向にあります。


これに対して、企業はどのような支援をすることができるでしょうか。


(1) 時間的な支援


学習時間に対する職場(社員全体)の理解が求められます。たとえば、夜間の学習者の残業は、朝に行うことを周知するなどして、時間的なサポートをします。


また、理工系などの教育機関への再入学は、昼間がメインとなります。そのため、学び直しのために休業しやすい状況をつくることも企業の支援となります。


(2) 費用の支援


自己負担で学習する社会人学生が大半で、所属企業が負担するケースは多くありません。企業の未来像と合っている学習であれば、企業が負担することも早い段階で考慮すべきです。


ただ、学び直し後に転職してしまうケースが多くあるのも事実です。費用負担をする場合には、学び直し後も会社に継続して勤務する最低限の年数を規定することは求められます。


(3) 支援する際の注意点


企業がリカレント教育を支援する場合、「自社で活躍してもらうために育成する」ということが前提となります。企業が支援する目的は、あくまでも自社を成長させるためであり、自社に貢献してもらうためです。


支援する人材に対しては、企業としての意思を明確に伝え、関係性を構築する必要があります。


4.社内でのリカレント教育の方向性


教育機関に戻っての学習よりも、企業内学習によるリカレント教育の推進のほうが実施しやすい手段です。


福利厚生という意味で、個々人が自由に学習できる環境を提供することも考えられますが、企業の業績や価値創造への貢献という方向性に合ったリカレント教育を提供すべきでしょう。


企業の方向性に合った教育内容を構築するためには、次の5つのステップを踏む必要があります。


①経営戦略を再確認する
②戦略を実行するために必要な人材のスキル・人数を考える
③現状とあるべき姿との差を明確化する
④スキルを習得するために必要なトレーニングを計画する
⑤トレーニングを実行する


今後、リカレント教育は、社会において必要不可欠なものになっていくと考えられます。それは企業においても同様であり、リカレント教育を推進することが企業の発展にもつながるでしょう。


企業の方向性に合った人材育成プランを策定し、社内のリカレント教育を進めていくことが求められます。



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