Netpress 第2350号 考慮要素は? 考え方は? 中途採用者の「賃金」を決めるときの留意点

Point
1.中途採用者の賃金は、本人にも既存の従業員にも不満が出ないよう慎重に決定する必要があります。
2.賃金の決定にあたって、どのような考慮要素があり、どのような点に注意する必要があるのかを確認します。


社会保険労務士法人日本人事代表
特定社会保険労務士
山本 喜一


1.中途採用者の賃金決定時に考慮すべき要素

中途採用者の賃金を決定する方法には、大きく分けて2つのケースがあります。


1つは、賃金テーブルなどがない会社によくあるケースで、社長や採用担当の役員などが前職の年収などを参考に個別に賃金を決める方法です。


もう1つは、人事評価制度がしっかりと整っている会社のケースで、その会社の人事評価制度(「評価制度」「等級制度」「報酬制度」)に当てはめて賃金を決定する方法です。


いずれの方法を取るにしても、中途採用者の賃金を決める際には、その人が前職で培ったスキルや経験、役割、職種、居住する国や地域などがポイントになります。


では、どのような点を考慮する必要があるのか、それぞれ具体的に見ていきましょう。


(1)スキルや経験

スキルや経験については、それまでの職務経験や仕事の実績、資格などを考慮します。


職務経験や実績については、単にどんな仕事をしていたかを確認するだけでなく、一連の仕事のなかで、どのような経験を積んできたのかまで、突っ込んで確認することが大切です。


(2)役割

中途採用者が、前職でどのような役割を担っていたのかを確認することも重要です。たとえば、専門職として成果を出していたのか、部長や課長という立場でチームをまとめていたのか、といったことです。


会社がイメージする前職での役割と、中途採用者が実際に担っていた役割が異なると、後になって「話が違う(会社が期待する役割を果たせない)」ということになりかねません。


そうしたトラブルを避けるためにも、選考の早い段階でしっかりと認識のすり合わせをする必要があります。採用面接などの場で、その役割でどのような成果を出してきたのかを聞くこともポイントになるでしょう。


(3)職種

職種によっては、世間相場的な賃金水準がある場合もあります。ITエンジニアや看護師、トラック運転手など、提示する賃金がその職種における相場よりも大幅に低いと、入社を断られることになるでしょう。


また、新規の事業所の開設などで、特定の職種を短期間に多く採用する場合、賃金を高めに設定して求人をすることがあります。近隣にこうした動きがある場合、その職種の賃金相場が一時的に高騰することがあります。


(4)国や地域

リモートワークの普及で、都会に住んだまま地方の企業に就職することや、逆に地方に住んでいる人が都会にある企業で仕事をしたり、あるいは国外に居住しながら日本国内の企業で働いたりするケースも出てきました。


以前から、物価の高い地域に居住する従業員に対して「地域手当」を支給している会社は多くありますが、今後は、採用する従業員が居住する国や地域の物価や賃金水準も考慮する必要があります。


たとえば、物価の高い国や地域にある会社が、物価の安い国や地域に居住している人を雇う場合、その会社の賃金水準は、採用される側にとって魅力的に映るでしょう。逆に、物価の安い国や地域にある会社が一般的な賃金を提示しても、物価の高い国や地域に居住する人を採用することは難しくなります。


また、国を越えて従業員を雇用する場合は、その従業員が居住する国と日本の間の税金や社会保険のルールについても、しっかりと理解しておく必要があります。


(5)その他の考慮要素

中途採用者の賃金を決める際に、特に悩ましいのが「前職における年収」です。


中途採用者の生活を考えると、できるだけ前職の年収を考慮して決めたいところですが、単純に前職と同じ年収を確保することは、その人の持つスキルや会社で期待する役割との関係などから難しい面があるでしょう。


また、既存の従業員とのバランスをいかに取るかも悩ましいところです。会社が支払える人件費の総額も考慮しながら、慎重に検討する必要があるでしょう。

2.中途採用者の賃金決定時の留意点

(1)達成すべき成果を明確にしておく

中途採用者は、即戦力として、一定程度のスキルと能力があることを前提に雇用します。しかし、実際に仕事を任せてみたら、会社が期待していたようなスキルがなかったり、能力が劣っていたりということもあり得ます。


こうしたことに備えて大切になるのが、労働契約書に定める内容です。中途採用者が担当する業務について、できる限り詳細に記載し、その評価方法についてもわかりやすいものにしておく必要があります。そのうえで、内容に関して中途採用者と会社との認識をしっかり合わせておきましょう。


労働契約の内容を明確にしておけば、中途採用者がその職務に応じた能力を発揮していない場合に労働条件の変更がしやすくなります。中途採用者に期待する役割にもよりますが、達成すべき成果を明確にし、能力が不足していた場合や成果が達成できない場合は、減給や解雇もあることを明示しておくことも検討すべきでしょう。


(2)特別なスキル・能力を期待して労働契約を結ぶ場合

自社の従業員にはない特別なスキルや能力を期待して中途採用者を雇用する場合、就業規則のルールとは別に、個別の労働契約(労働契約書)で特別な契約内容を定めることがあります。


この場合に注意したいのが、就業規則と個別の労働契約(労働契約書)は、「就業規則>個別の労働契約」の関係にあることです。つまり、個別の労働契約で定めた内容よりも、就業規則の内容のほうが労働者にとって有利であれば、就業規則の内容が優先されることになります。逆に、個別の労働契約で定めた内容のほうが、就業規則の内容よりも労働者にとって有利であれば、個別の労働契約の内容が優先されます。


新規事業などにより、今後、特別な契約内容を定める従業員を雇用するのが常態となるのであれば、特別の定めをする従業員に関する就業規則が必要となります。


このとき、就業規則を別に定める方法もありますが、一般正社員の就業規則に、特別の定めをする従業員の就業規則を追記する方法もあります。


いずれの方法を取るにしても、トラブル防止のためには、就業規則の適用範囲を明確に定め、どのルールがどの労働者に適用されるのかをはっきりさせておく必要があります。



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