Netpress 第2349号 中小企業にもメリットが多い 「内部通報窓口」の設置のポイント

Point
1.内部通報制度を整備することにより、企業内で法令を守ることを促すとともに、不正など経営上のリスクを早期に発見し、是正することが期待できます。
2.中小企業の特徴を踏まえた内部通報窓口の設置について解説します。


咲くやこの花法律事務所
弁護士
木曽 綾汰


内部通報制度とは、企業で働いている従業員等が、勤務先で生じている法令違反行為などについて、勤務先の企業に設けられた窓口(社内窓口)や、勤務先が外部に委託して設置した窓口(社外窓口)などに対して通報できるように、各企業が通報先を設ける通報制度のことをいいます。


公益通報者保護法により、従業員数が300人を超える事業者については、内部通報制度の整備が義務付けられています(従業員数が300人以下の事業者については努力義務)。


内部通報制度の導入にあたっては、最低限、①内部通報窓口の設置、②公益通報対応業務従事者(以下、「従事者」といいます)の指定、③内部通報取扱規程の整備が必要となります。


中小企業の場合は、大企業と比べて、「従業員の数が少なく、通報窓口を担当する人員が足りない」「通報者が特定されるリスクが高い」「制度導入のためのコストが負担になる」という特徴があります。そのため、こうした特徴を考慮したうえで、内部通報制度を導入していく必要があります。

1.内部通報窓口の設置

内部通報窓口には、「社内窓口」と「社外窓口」があります。社内窓口とは、社内の部署・部門に置く窓口のことで、社外窓口とは、社外の法律事務所や民間の専門機関に委託して設置する窓口のことです。


(1)社内窓口の設置

消費者庁の「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査」によると、社内窓口は、総務部門や法務・コンプライアンス部門に設置していることが多いようです。


しかし、中小企業においては、従業員数が少なく、部門ごとに分かれていないことも少なくありません。このような場合には、社長自身が窓口となることも1つの選択肢となるでしょう。


ただし、消費者庁が公表している「公益通報者保護法に基づく指針の解説」では、「中小事業者においても、組織の長その他幹部からの影響力が不当に行使されることを防ぐためには、独立性を確保する仕組みを設ける必要性が高い」と指摘しています。社長自身を窓口とする場合には、社外取締役や監査機関にも報告を行う、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行うといった措置を講じるなどの配慮が必要です。


(2)社外窓口の設置

社外窓口は、会社の外部に窓口を設置することから、会社内部の従業員が公益通報対応業務を行う社内窓口と異なり、従業員が心理的に通報しやすく、匿名性も確保しやすいという点に特徴があります。


特に、中小企業は従業員数が少ないことから、通報者の特定をおそれて通報をためらう可能性があります。そのため、中小企業では、社内窓口よりも匿名性を確保しやすく、独立性も高い社外窓口のほうが望ましいと考えます。


一方で、社外窓口は、会社外部に委託して窓口を設置する性質上、委託費用が必要であり、中小企業にとっては負担が重い可能性があります。このような場合、自社のみで外部に委託するのではなく、複数で共同して外部に委託することも認められています。自社のみでは負担が重い場合は、同業の複数の事業者同士で共同して法律事務所や民間の専門機関に委託するなど、コストを削減する工夫も検討してみましょう。


(3)その他の設置上の注意点

従業員や役員が通報対象事実を知ったとしても、自らが通報したことが第三者に知られるおそれがある場合、通報を躊躇することが想定されます。このような事態を防ぐには、通報窓口に通報があった内容や通報者の情報について、第三者に共有されることをあらかじめ防止するための措置を講じることが必要です。


具体的には、内部通報を受け付ける際には、専用の電話番号や専用メールアドレスを設けることが考えられます。なぜなら、業務に使用する電話番号やメールアドレスを内部通報窓口に利用してしまうと、内部通報窓口の担当者以外の従業員が誤って対応し、それによって第三者に情報が漏洩してしまう危険があるからです。


また、電話やメールではなく、面談によって内部通報を受け付ける場合には、担当者と通報者との会話の内容が関係のない従業員に聞かれないように、勤務時間外に個室や事業所外で面談するなどの配慮が必要となります。

2.従事者の指定

公益通報者保護法により、従業員数が300人を超える事業者は、公益通報を受け付け、調査などの対応を行う「従事者」を定める義務を負います。従業員数が300人以下の事業者は努力義務ですが、内部通報窓口を設置する場合、公益通報対応業務に責任をもって対応してもらい、通報者の情報を守るためにも、従事者を定めることは必要です。


(1)従事者の指定方法

従事者を定める際には、書面により指定するなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法による必要があります。したがって、従事者に対して個別に書面を交付して通知する方法のほか、内部規程等において部署・部署内のチーム・役職等の特定の属性で指定することが考えられます。


(2)従事者への教育

従事者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者を特定させる情報を漏らしてはならない、という守秘義務を負います。この守秘義務に違反した場合の罰則も定められていることから、従事者は、法や内部公益通報対応体制について十分に理解しておく必要があります。


そのため、従事者に対しては、従事者が負う守秘義務の内容のほか、通報の受付、調査、是正に必要な措置等について、各局面における実践的なスキルを身に付ける教育を定期的に実施し、その実施状況の管理を行うなど、実効的な教育ができるような体制を整えることが必要です。


中小企業が社内窓口を設置する場合、窓口の担当者は他の通常業務と兼任することが多いと思われます。担当者が適切に通報に対応できるように、会社で詳細なマニュアルを準備して熟読してもらうことも有効でしょう。

3.内部通報取扱規程の整備

消費者庁の指針の解説では、「指針の内容を当該事業者において守るべきルールとして明確にし、担当者が交代することによって対応が変わることや、対応がルールに沿ったものか否かが不明確となる事態等が生じないようにすることが重要であり、その観点からはルールを規程として明確に定めることが必要」とされています。


そのため、内部通報制度の導入にあたっては、内部通報のルールを定めた内部通報取扱規程の整備が必要となります。消費者庁が内部通報に関する内部規程例を無料で公開していますので、これを参考にしてもよいでしょう。


なお、内部通報取扱規程は単に整備するだけではなく、従業員等が常時見られる状態にしておくことが重要です。



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