Netpress 第2343号 経営戦略シリーズ⑤ 経営戦略の策定手順「計数計画の策定」

Point
1.これからの企業経営者には、「外部のノウハウ」を取り入れる柔軟性と多様な情報を結合させる広い視野をもったマネジメントが求められます。
2.この連載では、計6回のシリーズで、経営戦略実行のための戦術等について説明していきます。


ABDアソシエ株式会社
代表取締役 栗原 浩夫


経営戦略シリーズ第5回目は、第1回~4回で解説した事業戦略を具体化するのにあたって事業成長の目標を設定します。目標(計数計画)を策定するうえでのポイントを解説します。

1.事業戦略の計数計画への落とし込み

事業戦略の方向性が明確になった時点で、戦略事業の売上や利益の目標を設定し、具体的な数値目標を会社全体に展開していく必要があります。


目標数値というと、売上や利益といった損益に関するイメージをお持ちの経営者が多いと思います。しかし、重要なのは事業に要する資金(事業投資額)を予測し、「投資額に見合った利益が得られるのか?」といった投資効果を検証することです。


たとえば、手元の資金(現金)を何で運用すれば投資効果が高いのかということでは、銀行預金だと現在の金利は1%にも遠く及びませんし、不動産投資利回りだと平均的には3~4%程度となります。


事業投資ともなれば当然のことですが、預金や不動産より高いリターンが求められ、日本企業の一般的な投資リターン(ROA)は5%といわれています。

2.計数目標の設定の手順

計数目標の設定の手順としては、まずは利益目標を立案し、次に事業に必要な投資額の推計とリターンの検証を行うことになります。


【利益目標の立案】

(1)売上高


事業戦略の立案をする過程で、市場、競業企業、外部環境等の情報を収集していることから、これらから企業が目指す目標市場シェア、自社ポジションを想定し、達成するべき期間(3年~10年)から計画1年目~計画期間内の売上目標を設定します。


売上目標が設定されると、市場分析や想定原価から製品や商品等の単価が想定されるので、市場へ投入する想定数量が計算されます。


価格戦略について、市場価格を考慮することは重要ですが、事業戦略の立案をするうえでの製品市場ポジションの設定によって価格戦略は異なります。


(2)売上総利益


売上計画の前提となる製品や商品の価格を、市場価格や製造原価見積もりから想定します。原価は、主に人件費、材料仕入れ、外注費、製造経費(水光熱費、副資材等)や廃棄率から計算されます。また、市場投入想定数量によっては、生産キャパシティや設備投資の考慮も必要です。


売上計画から原価を差し引くと、「売上総利益」が算出されます。


(3)営業利益


事業計画を実行していくうえでの販売管理費を推計します。販売管理費は、主に間接部門の人件費、物流費、広告宣伝費等の事業展開に必要な経費で、想定人数、物流単価、広告戦略の想定によってコストを見積もります。


売上総利益から販売管理費を差し引くと「営業利益」が算出され、一般的な事業目標利益は営業利益となります。


特に新規参入時期は販売管理費をかける戦略となるため、広告費の予算化は重要なテーマです。


【投資額の推計とリターンの検証】

(4)事業投資額の推計


事業に必要な資金は、主に運転資金、機械や店舗、ITの設備投資です。


運転資金は、売上代金を回収するまでの立替期間を考慮した売掛金と必要な在庫となります。


事業を円滑に運営するためには、取引先から売上代金を回収し、早期に現金化を図ることが求められます。実務的には製品や商品を納品した後、検証を行い、経理に支払いを指示するとなると、売上を計上してから30日~60日の回収期間が生じます。また、在庫についても製造途上の仕掛品や販売をするためのストックが必要となります。


たとえば、売上12億円の事業を想定すると、売掛金60日で立替資金2億円、必要在庫(売上総利益率50%と仮定)3か月として、「12億円×50%÷12か月×3か月=1.5億円」となります。


これに加えて、事業に必要な設備投資(機械、店舗、IT等)を見積もる必要があります。


(5)事業投資リターン(return on asset)の検証


「営業利益÷事業投資額」により計算される投資リターン率です。


日本の平均的リターン率は5%とされていますが、欧米では7%程度と高いのが現状です。


事業戦略を検討する場合、目標売上、目標シェア、利益の設定に合わせて、「当該事業投資が有効なリターンを実現しうるのか?」の検証は重要です。どんなに優れた企画でも、十分なリターンが得られない事業ということであれば、事業投資を再検討する必要も生じます。




ただ、昨今ではSDGsに代表されるサステナビリティへの取り組み、コンプライアンス、コーポレートガバナンスへの対応、ならびに経営を取り巻くステークホルダーや社会に対してインテグリティ(誠実さ)を示すことを目的とした数値効果の検証しにくい会社全体の横断的な投資も求められています。こうしたことから、短期的な投資リターンだけでは事業投資の可否を判断できない面もあり、戦略立案はより高度化しています。



次回(シリーズ第6回)は、経営戦略の実現に向けた組織設計の検討についてご説明します。



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