Netpress 第2341号 漏れなく、効率的に 社名変更に伴う検討事項と届出・社内外の事務

Point
1.社名変更は頻繁に発生するものではありませんが、ひとたび生じれば会社の一大プロジェクトとなります。
2.登記から税金や社会保険関係の手続、関係各所への届出や連絡など多岐にわたる実務を確認します。


行政書士事務所アイディペンデント
特定行政書士 篠原 あかね


社名変更(法的には商号変更)の理由は、①自社のブランド名の認知度が高くなり、社名よりもブランド名で呼ばれることが増えた、②会社の合併や分社化、③新規事業への注力(新ブランドのサービス開始)など、企業の実情に応じてさまざまですが、以下では株式会社を前提に社名変更をする際の検討事項や実務手続を確認します。

1.新社名の決定まで

新社名の決定に際しては、注意すべきリスクがいろいろとあります。国内のみで活動する中小企業が特に気をつけたいリスクとしては、次の3つが挙げられます(海外でも新社名を使用する場合には、調査の難易度が格段に上がりますので、専門家に依頼するのが得策です)。


①新社名がライバル企業と紛らわしい


②同一または類似の名称について他社がすでに商標を取得している


③第三者がウェブサイトのドメインをすでに取得している


これらのリスク回避対策については、特許事務所等の外部の専門家に依頼するのが理想ですが、諸事情から難しいこともあるでしょう。その場合でもインターネットやAIを活用すれば、無償または低コストでリスクを下げられます。


まず①については、国税庁の「法人番号公表サイト」(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/)で、新社名やその一部分を検索してみましょう。少なくとも本社のある都道府県に同一または類似で、かつ同業の法人がある場合は、再考の余地があります。


②については、特許庁の「J-PlatPat」(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で同じように検索します。同一または類似の名称が、自社と同一または類似の事業内容で商標登録されている場合、その名称は避けましょう。他にもAIを活用した商標検索サイトが登場しています。100パーセントの精度ではありませんが、「J-PlatPat」と合わせて活用することで、よりリスクを下げられます。


③については、「ドメイン 取得 検索」などと検索して出てきたサイトでチェックしてみましょう。信用力の高い「co.jp」ドメインが取得できない場合は、再考の余地があります。また、「co.jp」ドメイン以外でも好ましくないサイトが第三者によりすでに開設されている場合は同様です。


なお、社名変更に伴う新しいロゴについては、以前はデザイン会社に依頼し、コンペを行うことが主流でした。最近は、AIによる低価格のロゴ作成サービスも選択肢になってきています。ただし、利用規約については念入りなチェックが必要です。また、ロゴが他社の商標を侵害していないかのチェックも忘れずに行いましょう。

2.社名変更に伴う実務手続

以下、社名変更にあたって必要となる基本的な手続を一覧表にまとめました。


①新社名の実印、銀行印などの更新(作り直し)
デジタル化が進み、押印の機会は減っていますが、法務局へ届出をしている印鑑を変更する場合のほか、今後の事務手続で押印を求められるケースはあります。時間に余裕をもって用意しましょう。
②株主総会の開催と定款変更
社名変更には定款変更が必須で、そのための株主総会を開催する必要があります。株主総会で定款変更を決議したら株主総会議事録を作成します。この株主総会議事録は、変更登記申請の際に必要となりますので、忘れずに作成しましょう。
③変更登記
株主総会での変更決議から2週間以内に、株主総会議事録、株主リスト、委任状(専門家に委任した場合)を添えて、法務局に変更登記申請書を提出します。登記手続が完了するまで、原則として、登記事項証明書や印鑑証明書は発行されません。登記事項証明書は、今後の各種手続に必要となりますので、変更登記にかかる時間を考慮して、その後のスケジュールを決めるようにしましょう。
④登記事項証明書の取得
変更登記が完了したら、登記事項証明書を取得します。各機関での変更手続には原本を提示します。コピーの提示で受け付けをしてくれることもありますが、提出先数プラス予備数を取得しておくと安心です。
⑤税務署等への届出
管轄の税務署には、変更後速やかに異動届出書を提出します。都道府県税事務所には、地方税に関する法人等異動届出書を提出します。届出書の様式や期限は都道府県により異なりますので、事前に都道府県税事務所に確認しておきましょう。
⑥市区町村への届出
従業員の給与から住民税の特別徴収(天引き)をしている場合、従業員の納税地である市区町村への届出が必要です。
⑦社会保険・労働保険関係の届出
年金事務所・健康保険組合等に対しては、変更から5日以内に変更届を提出します。労働基準監督署やハローワーク(公共職業安定所)に対しては、変更から10日以内に変更届を提出します。
⑧金融機関等への届出
金融機関、クレジットカード会社、保険会社に対して変更の届出を行います。
⑨公共料金等関係の届出
電気、ガス、水道などの公共料金のほか、携帯電話会社へも変更手続が必要です。
⑩許認可業種の場合
許認可を得ている業種の場合は、許認可元への変更手続も忘れずに行いましょう。
⑪通信・ネット関係の届出
クラウドサービスで利用しているID、ネット通販などの変更手続は忘れがちです。
⑫賃貸契約がある場合
事務所が賃貸の場合、賃貸人に連絡して賃貸借契約書の再締結を確認します。
⑬取引先との契約書の確認と見直し
企業の多くは書面による契約により日々の業務を行っていますから、取引先とのすべての契約書について、内容の確認・見直しを実施する必要があります。契約書の内容を確認して、必要があれば各社に連絡して契約の再締結を行います。
⑭看板、名刺、パンフレット、ホームページなどの作り直し
社名変更というと、真っ先にこれらの作業を思い浮かべるかもしれません。しかし、まずは税金、社会保険、金融関係など、公共性の高いものを優先する必要があります。いずれも早急に手続をしないと、企業の信用に傷がついてしまうおそれがあるからです。社名変更が決まったら、チェックリストを作成するなどして漏れなく、効率的に手続を進めるようにしましょう。


社名変更は、短期決戦の一大プロジェクトです。総務部門など一部の部門だけで対応するのではなく、各部門からプロジェクトメンバーを選任して、チームとして協力しながら進めていく必要があります。


なお、社名変更に伴う手続自体はすべて自社(社内)で行うこともできますが、手続にかかる手間を省きたい場合や確実に手続を終えたいという場合は、費用はかかりますが専門家に依頼するとよいでしょう。



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