Netpress 第2337号 自社の税務リスクは? デジタル化の進展を踏まえた今後の「税務調査」対策

Point
1.税務調査においては、コロナ禍でリモートでの調査が広がったことに伴い、データによる資料提出等を求められる機会が増えています。
2.税務調査の傾向を確認したうえで、自社の税務リスクを軽減するためのポイントを解説します。


中央税務会計事務所
税理士・CFP
中島 由雅


法人税の実地調査の件数は、コロナ禍で大幅に減少していましたが、再び増加する傾向にあります。


調査対象となる法人の選定にあたって、国税庁は申告書や届出等の提出資料、調査履歴や収集した各種資料等のデータが保存されているシステムを活用しています。税務調査先の多くは、このシステムで一次選定が行われ、そのなかから所轄の統括官等がさらに選定するという流れになります。


近年は、海外データも含めてデータ量が特段に増加しており、また、調査選定漏れがないような技術対応もなされていることから、調査はより効率的になったといえます。

1.法改正の影響と注意すべき取引

(1)税務調査に関係する法改正

2023年1月1日以後に開始する事業年度から、仮装や隠蔽を行った悪質な事業者については、税務調査等で新たに簿外経費を持ち出して所得を減らそうとしても、当該経費は損金不算入とされました。


また、2024年1月1日以後に法定申告期限が到来する法人税等から、次の通り過少・無申告加算税が加重されます。


・売上に関する帳簿の提示等をしなかった場合……10%加重


・帳簿への売上金額の記載等が、本来記載等をすべき金額の2分の1未満の場合……10%加重


・同じく3分の2未満の場合……5%加重


こうした度重なる法改正からも、税務署の厳しい姿勢が窺えます。


(2)産廃業者との取引

金属価格の高騰もあって、産廃業者との取引は要注意です。


産廃業者に対する税務調査を実施し、取引先情報(金属くず等の仕入情報)を得て資料化した後に、取引先への税務調査を行うケースが増えています。産廃業者は現金取引が多いことから、現場作業で発生する金属くず等を産廃業者に売却したにもかかわらず、それらの現金収入の計上が漏れていないかを確認するためです。


経営者や経理担当者には産廃業者と取引をしたという認識がなくても、実は現場で取引が行われていて、税務調査で金属くず等の売却による現金収入の計上漏れが発覚するということもしばしばあります。


現場からすると、「数万円程度だったのでつい・・・」という気持ちだったのかもしれませんが、各現場で何年にもわたって行われた場合には多額に上る可能性もあるので、注意が必要です。

2.デジタル化の推進による税務調査の今後の傾向

税務調査の効率化を進める観点から、大規模法人を中心にWeb会議システム等を活用したリモート調査が実施されています。紙ベースの資料が多く、かつ、多様な資料がある中小企業の現状では、当面、従来どおりの対面と現物の書類調査が引き続き行われると思われますが、今後は中小企業においてもリモート調査が増えていくでしょう。


また、2022年1月から、税務調査等で求められた資料をe‐Taxにより提出できるようになりました。当初はPDFに限られていましたが、現在はCSV形式で提出することもできます。CSV形式ならデータの抽出や検索が行いやすいため、今後は会計データの提出も求められるようになるかもしれません。会計データの入力期日や修正履歴の確認により、改ざん等がされていないか一層チェックが厳しくなることも予想されますので、各処理について、誰がどのように行ったのかを説明できるようにしておく必要が出てきます。


さらに、電子帳簿保存法の改正により、インターネットによる取引、メールで受け取った請求書・領収書等は電子取引のデータに該当するため、2024年1月以降は電子データの保存をしなければなりません。このため、パソコン上の資料の管理状況が問われることや、データによる資料の提出要求が多くなると見込まれます。

3.自社の税務リスクを軽減するために

申告の誤り等の税務リスクは、企業が幅広い経済活動を行ううえで、完全には避けて通れないものです。しかし、何も準備しなければ経営に大きなダメージが生じますから、適切な管理を行う必要があります。


下表に、税務調査で指摘を受けやすい事項と主な対応のポイントをまとめましたので、参考にしてください。


①現金
まずは現金帳簿残高と実際の現金残高に差がないかが確認されます。帳簿と実残高の差額の説明がつかないと、収入の除外や使途不明な支出として役員貸付金と認定されるおそれがあります。役員貸付金と認定された場合、貸付利息の計上漏れを指摘されます。
②売掛金
売掛金の残高の確認も重要です。長期間変動のない売掛金に関しては、貸倒れ処理をするタイミングに注意する必要があります。しかるべきタイミング(回収不能時)で貸倒れ処理をしておかないと、処理が早くても遅くても、利益調整として損金算入が認められないおそれがあります。
③貯蔵品
期末時点での未使用の商品券や印紙等の貯蔵品計上漏れもよく指摘されています。営業等で使用している商品券も、その交付相手が特定できずに否認されている事案が見受けられます。
④給与
架空人件費の有無につき、タイムカードや座席表等の提示が求められます。役員給与に関し、同族企業で家族経営の場合、株主総会が形骸化して議事録の作成・保存を失念しているケースが散見されます。役員給与が前期と同額でも、毎年の議事録の作成と保存の徹底が必要です。
⑤外注費
個人事業主や常駐外注の場合は特に注意が必要です。仮に外注費が給与と認定されると源泉所得税の徴収漏れが生じ、消費税の課税仕入分(本則課税の場合)が企業の負担となります。対策としては、請負であり雇用契約ではないことを双方が確認し、外注先と契約書を取り交わす等したうえで、請求書と領収書を発行してもらい、外注先に確定申告を忘れずに行うよう促しましょう。
⑥消費税
カード取引による決済時に相手先から発行される領収書を破棄せず、保管することが大切です。インターネットでの購入は、領収書が発行されないケースもありますが、その場合はネット画面上の領収書を保存するようにしてください。


企業の税務リスクに対応するためには、これまで以上に、漏れのない帳簿の作成、請求書・領収書等の原始資料を速やかに提出できることを前提とした保存の徹底が求められます。また、罰則も強化されていることから、従業員も含めた全社的なコンプライアンスの遵守がさらに重要になります。収入の計上漏れや説明のできない経費処理等がないように、チェックリストの活用や社内規約の整備等にも努めてください。



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