Netpress 第2336号 ファミリーガバナンス ファミリーで会社を支えるための仕組みづくり
1.自社株がファミリー内で分散していたり、会社の所有と経営が分離しているケースが増えてきました。
2.ここでは、「ファミリーで会社を支えるための仕組みづくり(ファミリーガバナンス)」について解説します。
税理士法人山田&パートナーズ
パートナー 清三津 裕三
1.「ファミリーガバナンス」とは
ファミリーガバナンスという言葉を、最近、耳にすることが増えてきたのではないでしょうか。
インターネットでファミリーガバナンスを検索すると、たくさんの情報が出てきます。ただ、漠然としていて、何のことかよくわからないと感じている方が多いのではないかと思います。
ファミリーガバナンスは比較的新しい概念で、正式な定義は定まっていません。
私は、ファミリーガバナンスを「ファミリー(一族)で会社を支えるための仕組みづくり」と定義しています。
最近、このファミリーガバナンスが注目されている背景を説明します。
会社経営者や、会社に株主や役員として関わる経営者ファミリーにとって、最も大切な共通の目的は「事業の永続」であり、会社を将来世代にわたって維持し、継続させることではないかと思います。
そのためには、次世代へ事業を承継すること、すなわち「経営面の承継」と「自社株(財産)の承継」を円滑に進める必要があります。
2.事業承継の方向性の変化
最近、事業承継の方向性が変わりつつあります。
従来型の事業承継の特徴は、会社の後継者は長男など一人で、その後継者である子息に自社株を単独で承継させ、その後継者は経営者(代表取締役)でもある「所有と経営の一致」が前提でした。
それが、最近は、子どもは平等に扱いたいので、自社株は後継者である長男だけでなく、会社には関与していない二男や長女にも承継させたいというようになってきています。
そうした価値観の変化に伴い、「自社株はファミリー内で分散」しているケースや、後継者不在などの理由で家族は株主であるものの、経営は親族外の役員に任せる「所有と経営の分離」のケースが増えてきました。
その結果、所有と経営の一致を前提とした従来型の事業承継は困難になりつつあります。
新たな事業承継の選択肢としては、次のようなニーズが増えています。
・株式は長男家・二男家・長女家などに分散した状態でも、経営の意思決定を円滑に行う仕組み
・経営は親族外に任せるものの、ファミリーは株主として会社に影響力を保持し、会社の発展と永続に関与し続ける仕組み
そのためには、「ファミリーで会社を支える仕組み」が必要であり、それがファミリーガバナンスです。
3.ファミリーガバナンスの構築の流れ
ファミリーガバナンスの構築は、以下の流れで進めます。
(1)大切にすべき価値観やルールの確認とファミリー憲章の作成
会社では、経営理念や各種ルールが定款や就業規則などにより文書化されていますが、ファミリー内の大切にすべきルールなどは言葉で伝えられ、文書化されていないケースが多いのではないでしょうか。
そこで、ファミリー内の当主などに「①守るべき価値観」「②経営者・社員・株主として会社への関与方針」などを確認し、その内容を兄弟家や次世代後継者候補など主要な関係者間で共有したうえで、合意が得られた内容を文書化し、一族内のルールとして「ファミリー憲章」を作成します。
(2)ファミリーで会社を支えるためのガバナンスの構築
ファミリー憲章で定めた内容のうち、特に重要な事項については、法的な効力のある仕組みであるガバナンスを構築します。
具体的な内容はさまざまですが、最も重要なのは「議決権を統一行使する」仕組みを作ることです。
ファミリーといっても、議決権をバラバラに行使していたのでは、少数株主の集まりでしかありません。ファミリーとして、同じ方向を向いて議決権を統一行使することで、経営が安定し企業価値が向上するとともに、事業の永続につながっていきます。
ファミリー内で株式を分散所有している状態で議決権を統一行使するための手法としては、たとえば次のようなものがあります。
①民事信託の活用 | 株主は、ファミリー内で設立した社団法人等の受託者に株式を集約し、株式の代わりに同じ価値の受益権を受け取る。信託後の配当金は、受託者を経由して受け取ることが可能。これにより、議決権は受託者が一括して行使するとともに、株式の分散を防止することができる。 |
②種類株式の活用 | 代表者以外の株式は、配当優先の無議決権株式に変更する。これにより、議決権があるのは代表者が所有する株式のみとなるので、株主総会は、代表者の意思決定のみで決議することが可能となる。 |
③株主間契約の活用 | 株主間の契約で自由に定めを置くことができるため、柔軟な設計が可能。たとえば、取締役の選任について一族内の代表者会議が定めたとおりに議決権行使を求めることができる。 |
(3)ファミリー内における継続的なコミュニケーションの実施
ファミリー憲章で定めたルールや価値観を共有し、事業の方針を議論・調整するために、定期的なコミュニケーションの場を設けることは重要です。
具体的には、次のようなコミュニケーションの実施を検討することになります。
・ファミリー全員が参加するファミリー総会の開催
・各家の代表者が集う代表者会議の開催
株式がファミリー内ですでに分散されていたり、今後、複数の子息などへの事業承継を考えている企業も少なくないと思われます。そうした場合には、「ファミリーで会社を支えるための仕組みづくり(ファミリーガバナンス)」を検討してみてはいかがでしょうか。
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