Netpress 第2334号 12月末で宥恕期間が終了 電子帳簿保存について現場担当者に周知すべき知識

Point
1.「電子取引データの保存」の義務化に設けられていた2年間の宥恕期間が2023年12月末で終了します。
2.社内の関係各所の社員が適切に対応できるように、電子帳簿保存について必要な知識をまとめました。


税理士・中小企業診断士
田中 慎


電子帳簿保存制度は、税法上保存等が必要な「帳簿」や「領収書・請求書・決算書などの国税関係書類」を電子データで保存するもので、①電子帳簿等保存、②スキャナ保存、③電子取引データの保存の3つに区分されています。


この3つの区分は、それぞれ対象としている書類が異なることを理解するのがポイントです。電子帳簿保存の社内周知を進める前に、自社においてどのような帳簿書類があり、どの分類に該当するかを明確にしておきましょう。

1.「電子取引データの保存」への対応策の検討

義務化される電子取引データの保存では、「改ざん防止措置」と「検索機能の確保」の2つの要件が必要です。


(1)改ざん防止措置

電子取引データについて、改ざんがされない保存措置を求めるものです。タイムスタンプの付与などが考えられますが、すべての電子取引データに漏れなくタイムスタンプを付与するのは、運用面とコスト面から実務上難しいでしょう。


国税庁もその点は厳しく求めるわけではなく、まずは「正当な理由がない訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定め、当該規程に沿った運用を行う」という対応で、「改ざん防止措置」の要件を満たすとしています。


この事務処理規程の例示は、国税庁のホームページに掲載されています。自社に合わせて改定し、社内で周知をすれば実務的な対応はクリアできるので、この事務処理規程を定めることから始めましょう。


(2)検索機能の確保

保存している電子取引データは、最低限「取引年月日・取引金額・取引先」の3つで検索できることが求められます。


中小企業では、会計ソフトを併用して管理するのが現実的な対応でしょう。電子取引データを保存しているフォルダ内に「¥202312」といった年月で区分したフォルダを作成し、その中に保存する電子取引データのファイル名に「取引先名」を付けておけば、会計ソフトの検索機能と合わせて最低限の要件を満たすことができます。

2.新たな緩和措置・猶予措置の正しい理解

2024年1月より、新たな緩和措置・猶予措置が設けられます。具体的には、前々事業年度の売上高が5,000万円以下または紙で日付等ごとに整理して保存しており、税務職員から求められた場合に電子取引データを渡すことができる事業者は、上述した2つの要件のうち「検索機能の確保」は不要となります。


さらに、相当の理由によりシステム対応が間に合わなかったと税務署長が認める事業者等は、紙で日付等ごとに整理して保存しており、税務職員から求められた場合に電子取引データを渡すことができるようにしていれば、「改ざん防止措置」と「検索機能の確保」の両方が不要になります。


この点、「システム対応が間に合わなければ紙による保存でよい」と安易な捉え方をするのは禁物です。税務職員の求めに応じて電子取引データを渡すことは全事業者に求められるため、電子取引データの保存は必須です。


要件が緩和されたのは、電子取引データの保存における「改ざん防止措置」と「検索機能の確保」の対応です。その点をあらためて各担当者に理解してもらい、保有する電子取引データを保存するようにルール化しましょう。

3.自社における電子取引データの確認

法改正の内容と帳簿書類の分類を正しく理解したうえで、自社のすべての部署において、取引先や顧客等の相手先から電子的に受け取る書類を整理していきます。


対象となる電子取引データは、受信するものに加えて自社が送信するものも含まれるので、漏れなく確認しましょう。①やり取りしている書類の種類、②書類の発行や受け取りの方法、③PDF・画像などファイルの保存形式、④書類の保存場所、⑤1か月または1年当たりの件数、といったことを中心に整理していきます。


なお、電気料金や携帯電話料金の利用明細のように、提供事業者のマイページにログインして閲覧する書類は、閲覧期間が制限されている場合もあるので、自社が管理する保存場所にダウンロードして管理する運用にしましょう。

4.対応方法の決定・周知と注意点

自社が「改ざん防止措置」と「検索機能の確保」の両方に対応する必要があるのかを確認したうえで、保存方法やタイミング、保存場所、担当者、業務の流れなどを決定し、周知していきます。


「検索機能の確保」要件について、「エクセルで索引簿を作成して対応する」や「スキャンしたPDFに日付・金額・取引先名を付けて保存する」という国税庁が示している例示がありますが、これは会計ソフトを導入していない事業者でも要件を満たすことができるというメッセージです。


全事業者に影響を及ぼす以上、会計ソフトの導入を前提とすると、納税者の反発を生むのでこのような対応策を例示していますが、会計ソフトと合わせて検索機能を確保しているのであれば、当然このような対応は不要です。誤解して無駄な仕事をつくり出さないようにくれぐれも注意してください。

5.実務上の対応で意識すべきこと

(1)猶予措置に甘えないこと

義務化される電子取引データの保存について、多くの企業では従来どおり紙で整理して保存していれば、「改ざん防止措置」と「検索機能の確保」が当面の間は猶予されます。


しかし、いつまでも紙による保存でよいという状況に甘んじていては、デジタル化やDX化は進みません。


クラウド会計や請求書管理等のクラウドサービスでは、仕訳等に電子データを紐づけられるようになっているため、「改ざん防止措置」と「検索機能の確保」の両方に対応することができます。これを機に、そのようなサービスを活用することも検討してみてください。


電子帳簿保存法への対応に関するシステム導入では、IT導入補助金等の補助金も活用できるようになっています。システム導入を社内に提案する際は、こうした補助金の活用も合わせて提案することもポイントです。


(2)自社の業務のやり方にシステムを合わせないこと

「当社は特殊な業務の流れになっているので、多額のシステム改修費用がかかる」という企業も多いですが、「業務にシステムを合わせるのではなく、システムに業務を合わせる」ことが重要です。


業務において特殊な部分は、現場や経営者の要望に合わせてカスタマイズしてきた結果、複雑になり非効率になっていることがほとんどです。その複雑な部分に合わせてシステム化するのは多額の費用がかかります。そうした業務を整理して、標準的なシステムで大部分を回せるように現場のデータを改善しましょう。


デジタル化と共に標準化を進めることで、会社の固定費の質を変え、バックオフィス部門が大きく会社の利益に貢献できるようになります。



「Netpress」はPDF形式でもダウンロードできます

SMBCコンサルティング経営相談グループでは、税金や法律など経営に関するタイムリーで身近なトピックスを「Netpress」として毎週発信しています。過去の記事も含めて、A4サイズ1枚から2枚程度にまとめたPDF形式でもダウンロード可能です。

PDF一覧ページへ

プロフィール

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ

SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。

法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。

https://www.smbc-consulting.co.jp/company/mcs/basic/sodan/


受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート