Netpress 第2332号 責任者・担当部署は? 通報窓口は? 内部通報制度の整備のポイント
1.内部通報制度は、不祥事を早期に発見して対応するというだけでなく、内部告発によるダメージを防ぐためにも重要なものです。
2.内部通報制度の整備にあたっては、人員体制を整えることに加えて、通報窓口や匿名性の保障など制度の内容を文書化し、従業員に周知する必要があります。
岩田合同法律事務所
弁護士 北川 弘樹
1.内部通報制度の意義
内部通報制度とは、従業員などの関係者から社内の法令やコンプライアンスの違反に関する情報提供を受け付け、当該情報を受けた事項について社内で調査するとともに、その是正や再発防止策を講じることを内容とする制度をいいます。
内部通報制度の整備は、複数の法令によって要請されています。
たとえば、公益通報者保護法11条2項は、従業員などからなされた犯罪行為や過料の対象となる事実に関する通報(公益通報)に対応するための制度を整備することを義務付けています(ただし、従業員数が300人以下の事業主については努力義務です。同条3項)。
また、ハラスメントの防止の観点からも、必要な体制の整備が義務付けられています。
男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)11条は、セクシュアルハラスメントに関する相談に対応するための体制の整備を義務付けています。
パワーハラスメントに関しては、労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)30条の2が、同様の体制の整備を義務付けています。
こうしたハラスメントに対応するための体制の整備は、大企業だけでなく、中小企業に対しても同様に義務付けられています。
法令上の義務を負うかどうかを別にしても、企業内部の不祥事を未然にあるいは早期に発見し、適切に対応できる体制を整えることは、企業の安定的な成長という観点からも重要です。
社内に通報窓口が設置されていれば、内部告発(外部通報)により不祥事が白日の下にさらされることによるダメージを防ぐことにもつながります。
2016年に発覚した富士ゼロックスの海外法人における不正会計事件は、内部通報に適切に対応できず、メディアの報道によって問題が発覚した事例として知られています。
中小企業の経営者であっても、自社の内部通報制度を整備し、これを定着させるために真剣に取り組むことが求められます。
2.内部通報制度を整備するうえでの留意点
具体的にいかなる内容の内部通報制度を整備すべきかを一概に言うことは困難ですが、社内の実情に応じて、以下に述べる点に留意して検討するとよいでしょう。
なお、公益通報者保護法に対応する場合はもちろん、そうでない場合でも、公益通報者保護法に基づき内閣府が定めた指針(令和3年内閣府告示第118号)やその解説(令和3年10月消費者庁)は参考になりますので、あわせてご参照ください。
(1)内部通報制度の責任者、担当部署
内部通報制度の責任者としては、社長など最上位の職制が就任するのが適当と考えられます。会社が内部通報制度を重視していることを示すよいメッセージとなりますし、現場の管理職が調査に抵抗した場合に、調査を貫徹するためにも必要です。
内部通報制度を担当する部署としては、圧力を受けずに業務を遂行できるよう、社内において独立したコンプライアンス部や法務部などが望ましいと考えられます(「指針」第4・1)。適当な部署がない小規模な企業では、社長の直轄とすることも考えられます。
公益通報者保護法に対応した制度としては、法令上の守秘義務を負う従事者としての指定が求められることに留意が必要です(「指針」第3)。
(2)内部通報制度の窓口
内部通報窓口を社内に置くことも考えられますが、通報者としては、通報によって不利益な取り扱いを受けるのを心配することも多いでしょう。社外に窓口を設置して、通報者を特定できる情報を社外窓口で遮断すれば、より積極的な通報を促すことができます。
社外窓口を設置する場合の具体的な担い手としては、社外の顧問弁護士が考えられますが、より中立性を確保するためには、顧問関係のない弁護士に委託することも一案です。
(3)通報者の保護
通報者の匿名性が厳重に保護され、通報の事実を上司や同僚に知られないことが保障されていることは、内部通報制度としての大前提です(「指針」第4・2(2))。担当者に対しては、職務の過程で知った情報について守秘義務を課すことが必要です。
当然のことながら、通報者に対して内部通報をしたことを理由に解雇その他の不利益な取り扱いがなされることがあってはなりません(「指針」第4・2(1))。
(4)是正措置の実行
内部通報に対しては、通報者を保護しつつ必要な調査を実施し、不適切な事実が認められた場合には、その状態を是正することが必要です。また、必要に応じて、当該事実に関与した者に対する懲戒処分等の措置を講じることも考えられます。
通報者に対して、プライバシー保護等に支障がない範囲で結果の通知をすることも考えられるでしょう(「指針」第4・3(2))。
(5)文書化、従業員への制度の周知
以上に述べた内部通報制度の骨子を含む制度の内容は、客観的に規程などの形に文書化され、従業員に周知されている必要があります。
そもそも制度の存在が知られていなければ従業員に利用されることもありませんし、不文のルールではなく、通報者の保護など制度の内容が客観的に文書化されていることで、安心して制度を利用することができます。
「指針」においても、内部通報制度を実効的に機能させるための教育・周知が求められています(「指針」第4・3(1))。
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