Netpress 第2330号 訓練こそがBCPの要 中小企業で機能するBCP構築の進め方

Point
1.BCPの目的を明確にして、自社になじむBCPを作るよう意識することが大切です。
2.BCPの訓練は、仕組みと行動の差異検証であり、オブザーバーによる客観的評価も効果的です。
3.完璧なBCPを作り込んで実践するより、訓練からBCPを作り変える組織を実現しましょう。


一般社団法人 中部産業連盟
主任コンサルタント
小坂 智徳


BCP(Business Continuity Plan)とは、大地震等の自然災害、感染症のまん延、サプライチェーンの途絶、突発的な経営環境の変化など、不測の事態が発生しても重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り早く復旧させるための方針、体制、手順等を示した事業継続計画のことです。


VUCA(先行きが不透明で、予測が困難である)時代において、最も重要な要素の一つであるといえます。

1.自分たちが目指し、使えるBCPを策定するには

(1)目的(被災設定)を明確にする

「BCPなのだから、あらゆる緊急事態に対応する計画にしなければならない」と考えていると、とてつもなく壮大なBCPをイメージして、策定段階でつまずいてしまいます。まずは、1つの目的を持って始めましょう。たとえば、「大地震」が発生した時に慌てないようにしたいという目的を持ち、地震用のBCP策定から始めます。ポイントを絞ったBCPを策定した場合、物足りなさやお粗末さを感じるかもしれませんが、足りない部分は訓練を通じて補っていけばよいのです。


(2)目標復旧時間を設定する

BCP策定において、目標復旧時間の設定に悩むことがあります。ビジネスインパクト分析で深刻な影響が出る前に目標復旧時間を設定するのがセオリーですが、人的被害が想定以上であれば、その時点で目標達成が不可能になるかもしれません。したがって、目標復旧時間の追い込みよりも、復旧箇所の優先順位と限られた資源で対応する効率的な手順を設定することを重要視します。ただし、人命に直結するリスクの高い業務やIT依存が高い業務は、目標復旧時間を明確にすることが望ましいでしょう。


(3)既存のシステムを活用して足りない部分を補っていく

一からBCPを作ろうとすると、大変な作業になります。自社の仕組みに足りない部分はどこかを確認しながら、文書の新規作成や改定を進めていきましょう。つまり、現時点で組織に組み込まれている仕組みをできるだけ活用することで、BCP策定のハードルを下げるのです。

2.策定したBCPを使って訓練をしてみる(訓練こそがBCPの要)

(1)訓練の重要性

BCPは緊急事態発生時に初めて発動する内容なので、緊急事態を待っていては、いつまでたっても評価、改善することができません。そこで、緊急事態の発生を想定した“訓練”が必要になります。


(2)訓練の進め方

BCPの訓練においては、以下のポイントを押さえましょう。


①訓練の目的を明確にする


訓練を実施するにあたり、その訓練で何を見たいかを明確にします。たとえば、「対策本部が円滑に機能するか」「現場がBCPで規定した手順で復旧させるか」を確認することなどが挙げられます。


②訓練の事前準備


策定したBCPをあらかじめ全社員に周知するとともに、訓練用のシナリオを作成します。シナリオには開示型、非開示型がありますが、訓練の目的によって決めます。また、キーマン、事務局と協議を進めながら、行動記録表、行動観察表、確認項目のチェックシート(図1参照)を作成しましょう。


図1 BCP訓練チェックシート



③訓練の実施


訓練を実施する際は、行動観察表を使って行動を記録します。オブザーバーを設定して客観的に観察するのもよい方法です。訓練は大規模に行う必要はなく、訓練の目的を達成できる方法であれば小規模でも差し支えありません。


なお、実際の緊急時は、対応状況によって被災レベルや復旧進捗が刻々と変化するため、訓練時においても状況の変化への対応を時系列的に確認していくことが重要です。


(3)訓練後の評価と改善

訓練後は、行動記録表と行動観察表を見返して、どこができて、どこができなかったかをチェックシートを使って確認します。結果をまとめて、自己評価と他者評価を比較すると、新たな気付きを得られることもあります(図2参照)。関係者が集まり、できなかった点について仕組みに問題があればBCPを改定・改善します。


図2 訓練後の評価



実際には慣れや経験も影響するため、訓練は繰り返し行って、BCPの精度を高めるよう組織的に取り組みましょう。

3.「組織はBCPに従う」から「BCPは組織力に従う」へ

普段できないことは、当然ながら緊急時にも実践することができません。つまり、どんなに立派なBCPであっても、実践できないBCPでは意味がないということです。


完璧に仕上げたBCPを策定してからケイパビリティ(組織としての遂行能力)を整える時間的余裕はないため、先んじて組織の行動力を上げていく(つまり訓練を繰り返す)ことこそが、BCPそのものの質を上げていくことになります。


最終的には、自分たちが策定したBCPの要領で行動できる計画であることがBCPのあるべき姿なのです。



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