Netpress 第2326号 ビジネス利用で気になる 著作権の侵害など「生成AI」の法的留意点

Point
1.昨今、数々の生成AIが生み出され、急速に私たちの生活やビジネスに浸透するようになりました。
2.ここでは、生成AIの利用に関して留意するべき法的観点と、企業に求められる対応について解説します。


GVA法律事務所
パートナー弁護士 鈴木 景


1.「生成AI」利用の法的留意点

(1)生成AIによる成果物に対する著作権

一般的に生成AIでは、「プロンプト」と呼ばれる指示文を入力すると、これに呼応する形で成果物が生成されます。


生成AIの成果物に関する著作権については、AIにより成果物が生成される過程において、利用者に創作的意図があり、かつ、利用者に成果物を得るための「創作的な寄与」があれば、著作権の対象たる「著作物」になると考えられます(この場合の著作権者は、利用者になります)。


著作物性の要件である「創作的な寄与」がどのような場合に認められるかは、今後の検討課題であり、かつ、程度問題ではあります。しかし、生成AIを業務で利用しようとする場合には、少なくとも「AIによって生成された成果物について、著作権が発生するかもしれない」というアンテナは張っておいたほうがよいでしょう。


(2)生成された成果物が既存の著作物に類似していた場合

この場合、具体的には、著作権のうちの「複製権」や「翻案権」を侵害しているかどうかが問題となります。複製権・翻案権の侵害が成立するためには「依拠性」、すなわち既存の著作物を元に作成された事実が必要です。


この「依拠性」の判断も今後の検討課題であり、事例の蓄積が待たれるところですが、「プロンプトに特定の作品名を入れない」「特定の作品の一部または全部を入力しない」といったルールのもと、生成AIを利用することが必要でしょう。


(3)個人情報に関する留意点

生成AIの利用にあたり、第三者から取得した個人情報を入力する場合、次の2つの点を検討する必要があります。


①それが個人情報の利用目的の範囲内であるのか
②それが個人情報の第三者提供にあたらないか


①について、多くの企業では、プライバシーポリシーなどにより、取得した個人情報の利用目的をあらかじめ公表していますが、第三者から取得した個人情報の利用目的は、この公表している利用目的の範囲内に限られます。


そのため、仮に生成AIに個人情報を入力する場合、それがあらかじめ公表している利用目的の範囲内かどうかを確認する必要があります。利用目的の範囲を超えていれば、個人情報保護法違反となりますので、注意が必要です。


次に、②について、個人情報を第三者に提供する場合には、原則として本人の同意が必要です。


生成AIに個人情報を入力する場合、その個人情報は生成AIを提供している事業者の手に渡ることになりますので、この点で個人情報の第三者提供に該当する可能性があります。


一方、個人情報が第三者の手に渡る場合でも、利用目的の達成に必要な範囲内において個人情報の取り扱いを委託するものであれば、例外的に本人の同意は不要と考えられています。


しかし、生成AIへの個人情報の入力が、「個人情報の第三者提供」に該当するのか、それとも「個人情報の取り扱いの委託」に該当するのかは、個別の事情によるところが大きく、その判断は容易ではありません。


さらに注意が必要なのは、ここでいう「個人情報」とは、それ単体で個人を特定できる情報のみならず、他の情報と容易に照合して個人を特定できる情報を含む、ということです。単体で個人を特定できない情報であっても、それを入力することが個人情報の利用・個人情報の第三者提供に該当するかもしれない、という点には注意するべきです。


(4)秘密情報に関する留意点

取引先に関する情報を生成AIに入力した場合、その情報が取引先の秘密情報に該当し、かつ、その情報が生成AIのデータベースに学習用のデータとして組み込まれた場合には、取引先との間の秘密保持契約に基づく秘密保持義務に違反してしまう可能性があります。守秘義務契約上、「取引先から提供された情報は、幅広く秘密情報に該当する」とされていることも多々あり、その場合は秘密である旨の注記がなくても、秘密情報として保護されることになります。


したがって、取引先から受領したファイルの情報をプロンプトに利用する場合、知らないうちに秘密保持義務違反となる可能性もあるので、十分に注意が必要です。


(5)生成AI提供事業者の利用規約に関する留意点

各生成AIの提供事業者が規定する利用規約により、提供事業者の権利や利用者側の義務が規定されています。業務利用にあたっては、各サービス提供事業者の利用規約を確認し、生成AIによる成果物をどのように使えるのか、自分が入力した情報がどのように利用されるのかなどの点について、あらかじめ把握しておく必要があります。

2.企業に求められる対応

(1)成果物の利用法

生成AIによる成果物の権利関係は、現状では法的な解釈や考え方が固まっていないため、予測がしづらい状況にあります。著作権が発生するか否か、権利侵害にあたるか否かは、その成果物の出力に至る経緯や、成果物の生成に利用されたデータの内容などによるところもあるため、権利関係の整理には慎重な考慮が必要になります。


また、仮に権利侵害をしていなかったとしても、その成果物を見て不快に思う人もいるかもしれません。


たとえば、生成AIによって、あるキャラクター「風」のデザインの成果物を商品化した場合、画風自体は著作権の対象とはならないため、法律上は問題がないと考えることもできます。しかし、その元となるキャラクターの作者からすれば、自分が苦労して生み出したキャラクターについて、それ「風」の画像が何らの苦労もなくAIで生成され、しかもそれで収益を得ているとなれば、よい感情は抱かないでしょう。


このように、法律上は問題がないと解釈できる場合であっても、成果物の公表により負の影響が発生してしまう可能性があります。企業として生成AIによる成果物の商品化を検討する際は、慎重に判断していく必要があります。


(2)社内でのルール策定

企業が事業活動で生成AIの利用を許容する場合、これまで解説したさまざまな留意点について、社内ルールを策定する必要があります。一般社団法人日本ディープラーニング協会が、生成AIの利用ガイドラインの雛形を公開しています。これを参考に、弁護士等の専門家を交えながら、自社の実情に合った社内ルールを策定するとよいでしょう。


特に個人情報の入力や秘密情報の入力は、社内でも比較的起こりやすい問題であると考えられます。こういった問題は、発生してしまった場合の影響も大きいので、社内への啓蒙が重要だといえます。


今後、社会全体で生成AIに関するルールも整備されていくことになると思われます。情勢を見ながら、何度にもわたって社内ルールを改定していくことになるでしょう。加えて、社内ルールは、策定するだけではなく、実際に守ることが求められますので、モニタリングの体制も整えておくことが求められます。



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