Netpress 第2324号 2年間の宥恕期間が終了 「電子帳簿保存制度」への対応の確認が必要です!

Point
1.電子メールやホームページ、EDIシステム、クラウドサービスなどを使った電子取引の割合が年々増加するなか、2021年度税制改正において、これらの電子取引を電子的に保存することが義務化されました。
2.ここでは、電子帳簿保存制度の改正に関して企業に求められる対応をあらためて確認します。


チェンジチェアコンサルティング合同会社
公認会計士 木村 智宏


帳簿や書類は、税法により原則として紙の原本で7年間保存することが定められています。この税法の特例として、電子データでの保存を認めたのが「電子帳簿保存法」です。


電子取引のデータ保存の義務化については、2021年12月に2年間の宥恕措置(ゆうじょそち)が設けられ、2023年度税制改正では電子帳簿についてさらなる見直しと緩和措置が追加されるなど、企業に求められる対応は二転三転しています。


そこで、2年間の宥恕措置が終わる2024年を前に求められる対応をあらためて確認します。

1.電子データでやり取りする場合の実務上の留意点

(1)現状の電子取引の内容の整理

まず、自社でどのような取引を行っているかを把握し、電子データでやり取りしているものをリストアップします。


そのうえで、取引関係書類ごとに、その授受方法(PDF、EDI、クラウドサービス、FAX等)や保存方法(取引先ごとに、どこに、どう保存しているか)を整理しておく必要があります。


(2)電子取引データの保存方法の決定

電子取引データの保存方法は、電子取引の保存要件のなかから自社に適した保存方法を選択する必要があります。


具体的には、「訂正・削除の履歴が残るか、訂正・削除のできないシステムを導入する」「取引先か自社でタイムスタンプを付与する」「訂正・削除の防止に関する事務処理規程によって運用する」からの選択です。システム導入やタイムスタンプ付与ができないような場合には、事務処理規程の運用を選択することになります。


事務処理規程を作成する場合には、国税庁が公開しているサンプルが参考になります。保存方法は取引ごとに異なっても問題ありませんので、取引ごとに自社に適した保存方法を選択しましょう。


(3)電子取引データの保存場所の決定

電子取引データの保存場所は、自社のサーバ内のフォルダ等へ保存するか、電子データ保存に対応した証憑管理システムに保存するかを選択する必要があります。


そのうえで、自社のサーバ内のフォルダ等へ保存する場合は、原則的には電子データの保存に係る検索機能の確保の要件を満たすようにするため、規則的なファイル名を付すか、もしくはExcelなどの表計算ソフト等で検索簿を作成することが求められます。証憑管理システムを利用する場合には、自動で検索要件を満たすことから、ファイル名の整備や索引簿の作成を行う必要がありません。


なお、システムを利用する際には、十分な保存領域があること、一括ダウンロード機能があること、バックアップ体制が十分に構築されていること等を確認しておきましょう。


(4) 関係者への周知

電子帳簿保存の要件に沿った運用を進めるためには、社内だけでなく取引先に対しても周知が必要です。


従業員には、事務処理規程を用いて電子取引に関する取り扱いのルールを説明します。とくに社内の業務フローが書面の回覧を前提に設計されている場合には、電子データのまま回覧するように業務フローを見直す必要があります。


また、この機会に電子取引へ切り替える取引先が増えてくるような場合には、授受方法などを取り決めます。データとは別に紙の原本もやり取りしている取引先とは、今後は紙の原本でのやり取りはしないことを確認しておきましょう。

2.紙でやり取りする場合の実務上の留意点

(1)スキャナ保存の対象とする書類の決定

まず、自社でどのような取引を行っているかを把握し、紙のみでやり取りしているものをリストアップします。そのうえで、どの書類を紙のまま保存するのか、新たにスキャナ保存するのかについて、対象書類を決定しておく必要があります。


スキャナ保存の対象範囲は任意に決めることができますが、取引関係書類は、資金や物の移動に直接連動するかどうかの重要度に応じて重要書類と一般書類に区分されるので、この区分によりスキャナ保存の要件が異なる点に注意する必要があります。


(2)制度に対応したスキャナ

スキャナ保存制度では、画像の解像度が明確に規定されていることから、条件を満たすスキャナ機器を用意する必要があります。


解像度が200dpi以上、赤緑青色の階調が256階調以上(24ビットカラー)の条件を満たすスキャナを準備しましょう。


(3)スキャナ保存後の書類の取り扱い

スキャナ保存制度を活用することで、取引先から受領した紙の請求書・領収書等の原本をスキャンして電子データとして保存することが可能です。要件を満たしたスキャンデータの保存ができれば、紙の原本を廃棄しても構わないことになりますが、スキャンしたつもりでも、画像のピントがあっていなかったり、一部が切れていたりすると不備となります。紙の原本の廃棄のタイミングには十分に注意しましょう。


また、スキャナ保存制度では、定められた入力期間内に書類をスキャナ保存する必要があります。


入力期間は、国税関係書類の処理に関する規程がある場合は、書類受領等から最長2か月とおおむね7営業日以内とされています。この入力期間を過ぎると、スキャナ保存した書類が要件を満たさない電磁的記録となり、紙のまま保存することになってしまうことに注意が必要です。


(4)システム導入の検討

スキャナ保存の要件を満たすためには、書類を入力期間内にスキャンするだけではなく、変更履歴を完全に確認できるようにするため、タイムスタンプの付与が必要となります。


タイムスタンプは、電子取引データの保存の場合はいくつかの選択要件の1つになりますが、スキャナ保存の場合は基本的に必須となるので注意しましょう。


例外として、訂正・削除の履歴がわかるシステムの使用により入力期間内にスキャナ保存したことを確認できる場合には、タイムスタンプの付与要件に代えることができます。


また、検索機能の確保の要件が不要となる売上高5,000万円以下の事業者以外の場合は、原則として、取引等の日付・金額・取引先で検索ができるように規則的なファイル名を付すか、Excelなどの表計算ソフト等で検索簿を作成することが求められます。


さらに、訂正・削除を行った際は、その履歴と操作内容を確認できるようにバージョン管理も求められます。



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