Netpress 第2322号 DXのための指針 企業のDX推進を支援する「デジタルスキル標準」
1.企業のDX推進を人材のスキル面から支援するための指針として、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)より、「デジタルスキル標準」が示されています。
2.「デジタルスキル標準」の概要を確認するとともに、どのように活用していけばよいのかを解説します。
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1.「デジタルスキル標準」取りまとめの背景
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データとデジタル技術を用いて従来の業務フローを見直し、効率化・最適化を目指す取り組みです。
企業が差別化を図り、情報の優位性を確立するためには、DXの実現が不可欠といっても過言ではありません。しかしながら、多くの中小企業では、DXへ取り組むことの重要性は認識しているものの、実態としては大幅に出遅れてしまっている状況にあります。その要因として、DXの素養を備えた人材の不足が挙げられます。
こうした状況から、DX推進における人材の重要性を踏まえ、個人の学習や企業の人材確保・育成の指針となる「デジタルスキル標準」が取りまとめられたのです(2022年12月策定、2023年8月改訂)。
「デジタルスキル標準」は、次の2つの標準によって構成されています。
【DXリテラシー標準】……経営層を含むすべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルを定義
【DX推進スキル標準】……DXを推進する人材類型の役割や習得すべきスキルを定義
出典:経済産業省・IPA「デジタルスキル標準ver.1.1」
このうち「DXリテラシー標準」を構成する項目の概要と、項目間の関連性、さらには活用のポイントについてみていきます(上の全体像の図参照)。
2.「DXリテラシー標準」の概要
「リテラシー」とは、「適切に使いこなす能力」という意味です。「DXリテラシー」とは、すなわち「DXの特徴を理解しながら、DXを利用・活用する能力」を意味します。したがって、「DXリテラシー標準」は、「すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルを定義しているもの」といえます。
DXリテラシー標準は、大きく「Why」「What」「How」「マインド・スタンス」の4つのエリアに区分されます(上図参照)。
まず、「Why」では、我々を取り巻く環境の変化が取り上げられています。例示すると、日本と海外におけるDXの取り組みの差、デジタルサービスの普及・浸透・定着化、インターネットを前提とした商品の販売などです。つまり、DXリテラシー標準を理解すべき理由(Why)は、「我々を取り巻く環境の変化への対応力を高めるため」ということになります。
次に「マインド・スタンス」では、環境の変化に対する心構えを取り上げ、「抵抗」ではなく、「適応」するための心構え・考え方が説かれています。具体的には、同業他社や異業種とのコラボレーション、前例や常識に囚われず発想する、経験と勘だけではなく事実に基づいて判断するなどです。
「How」では、DXの活用法と並び、「セキュリティ」「モラル」「コンプライアンス」の3つが留意点として挙げられています。DXではインターネットが必須の存在であり、セキュリティ・リスクを念頭に置いて、モラルをわきまえるとともに、知的財産権や個人情報、諸外国のデータ保護規制にも留意する必要があります。
そして「What」は、データを扱う一連のプロセスが構成要素となっています。「What」は、「How(利用法)」の要素も多分に含んでいることから、「What」「How」では次のようなデータの利用方法などを説明しています。
・社会におけるデータから、収集するデータを明らかにする
・デジタル技術で、データを収集するための基盤を説明する
・データの蓄積と、蓄積したデータを分析するための抽出と加工
・データを読み、説明する
・データによって判断する
・データを収集する基盤や収集したデータの活用事例
DXは経験と勘によって進めるものではなく、「データに基づいて進めていくもの」と理解しておきましょう。
また、「DXリテラシー標準」の活用の仕方は、企業内でのポジションによっても変わってきます。下表にポジションごとの活用ポイントをまとめましたので、参考にしてください。
社内でのポジション | 活用ポイント | |
経営者層を含む全社員 | ・ | 自社を取り巻く環境の変化を理解する |
・ | DXに取り組む心構えを確認する | |
・ | インターネットの活用に必要なセキュリティ・モラル・コンプライアンスに留意する | |
経営者・経営企画部門 | ・ | 自社がDXに取り組むための環境を整備する |
・ | 自社の取り組みに関する方向性を検討し、方針を打ち出す | |
・ | 自社の業務の効率化を促進するために、データ・デジタル技術の活用事例を参考にする | |
営業部門 | ・ | 自社の顔として、変化を理解する |
・ | その変化とうまく付き合う術を身につける | |
・ | 入手できるデータを活用し、業務の効率化を図る | |
人事部門 | ・ | DX推進に必要な人材の条件を知るために、各種データや技術の知識を参考にする |
製造・開発部門 | ・ | 業務改善および新分野へチャレンジするために、保有するデータを活用する |
新入社員 | ・ | 担当する業務およびデジタルスキルを活用する場面における基礎知識を習得する |
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