Netpress 第2320号 便利なものだがリスクもある 「フリー素材」を商用利用する際の留意点

Point
1.会社のHPやSNS等に「フリー素材」のイラストや写真等を掲載することも多いと思われますが、不用意に利用すると、賠償金の支払い等が発生したり、会社の評判を落としたりすることもあり得ます。
2.フリー素材の利用によるリスクがないかを確認したうえで、信用のおけるサイトからの入手を心がけましょう。


弁護士法人直法律事務所
代表弁護士
澤田 直彦


1.フリー素材とは?

「フリー素材」には、明確な法令上の定義はありません。一般には、「無料」で「自由」に使える素材というイメージでしょう。しかし、多くのフリー素材を提供するサイトでは、利用規約などで利用方法を制限しています。これに反すれば素材に関する「著作権」等を侵害し、損害賠償請求や素材の利用差止請求を受けてしまう可能性もあるのです。


フリー素材とは、「利用規約の範囲内ならば(無料もしくは一度の購入で複数用途に)利用可能な素材」であると、本稿では定義します。


フリー素材を利用するメリットは、なんといってもほぼ無料であることですが、フリー素材は独占的な利用ができないことがほとんどです。競合他社が同じ素材を利用すれば、自社の独自性が失われてしまいます。競合他社ではなくても、企業や個人が同じ素材をよくない方法で利用した場合などは、自社のイメージの低下をまねく可能性もあります。

2.「著作権フリー」「ロイヤリティフリー」とは?

「フリー素材」と似た言葉で、「著作権フリー」「ロイヤリティフリー」という言葉が用いられていることもあります。以下、それぞれについて解説します。


(1)著作権フリーとは?

本当に著作権者がすべての著作権を放棄していれば、利用者は、著作権者の許諾を得ることなく、素材を自由に複製して利用できますが、多くの場合は完全に著作権を放棄しているわけではなく、利用方法が制限されています。


たとえば、作者の名前や出典の記載を条件とする、利用の報告を求める、改変や二次配布(複製して有償無償を問わず第三者に渡すこと)、または商用利用(後述します)は不可とするなどです。


また、著作権法では、著作権とは別に、著作物の公表、改変および著作者の氏名表示について、著作者の意思を尊重するために著作者に認められた「著作者人格権」があります。


この権利は、「放棄」や「譲渡」ができないものですから、利用が許諾されている素材を利用する場合でも、無用な改変をしないなど、著作者人格権に配慮する必要があります。


著作者人格権は行使しない旨(不行使特約)が記載されていることもありますが、想定の範囲を超える利用については特約が無効とされる場合もあり、一般的に想定される範囲を超える利用をしないように注意が必要です。


(2)ロイヤリティフリーとは?

ロイヤリティフリーとは、利用許諾された範囲内での利用について、追加の使用料が免除されるものをいいます。


たとえば、1度利用料を支払えば、利用規約等にある利用方法の範囲内で、何度でも自由に利用できるというような場合です。あくまで1度は利用料を支払うことが前提です。最初から無料で利用できるわけではありません。

3.フリー素材を「商用利用」する際のポイント

ここで「商用利用」とは、営利目的でフリー素材を利用する場合をいいます。具体的には、フリー素材のイラストを利用して広告やパンフレットを制作・頒布する、Tシャツやマグカップを制作・販売する等の利用の仕方をいいます。


多くのフリー素材サイトでは、商用利用に何らかの制限を課しています。商用利用自体を禁止している場合もあれば、商用利用について利用回数を制限している場合や、配布等の数量を制限している場合もあります。また、商品等のメインデザインとなるような利用方法を禁止するといった制限があることもあります。


会社で利用しようとする態様が制限された利用方法ではないか、しっかりと確認する必要があります。大抵は利用規約や利用方法について記載されたページがあるので、必ず確認のうえ不明点があればサイトに問い合わせましょう。


(1)フリー素材の編集・加工

著作権には、その著作物を変更する権利も含まれているため、改変(編集・加工)する場合には著作権者の許諾が必要です。素材を提供するサイトの利用規約で、どのような変更や編集が許諾されているのかを確認しましょう。


多くのサイトでは、ある程度の改変自体は容認していますが、公序良俗に反するような利用などは禁止されていることが多く、このような制限も意識する必要があります。また、前述の著作者人格権を侵害しない配慮も必要です。


(2)真の著作権者の確認

素材の出所が怪しいサイトからは、素材を入手しないようにしましょう。何ら利用権限を有しない者が提供していた素材を利用した場合、真の著作権者から損害賠償請求などを受けるリスクがあります。


また、業務の委託先などが入手した素材についても、入手元を確認したほうが安全です。


(3)肖像権、パブリシティ権、プロパティリリース等

特に「写真」のフリー素材は、著作権や著作者人格権以外にも注意点があります。なかでも次の2点は要注意です。



写っている人の許諾は得られているのか(肖像権や、経済的な価値を有する有名人の氏名・肖像を本人が独占できるパブリシティ権等)

被写体に、特定できる建物や店舗などの施設、車、ペット、デザイン性のある商品、アート作品など第三者が権利を保有しているものがある場合、その権利者に撮影や写真使用の許諾(プロパティリリース・プロパティ使用許諾)を得る必要があるか否か


②について、テーマパークなどでは、商用利用の撮影が制限されていることが多いものです。その他の施設等についても、どの範囲の利用で許可が必要になるのか、個々に確認が必要となります。


手間はかかりますが、あとからクレームを受けて素材利用の差止請求を受けたり、損害賠償請求をされたりするリスクを考えると、事前に所有者等に確認を済ませておくのがよいでしょう。


最後に、ここまで解説してきたフリー素材を商用利用する際のポイントをまとめると、次のとおりです。




著作権者は誰なのか(素材はどのように収集されたものなのか、サイト運営者が作成したものか)

利用の対価(どこまで無料なのか)

予定している利用方法が禁止されていないか

利用する数量・期間の制限がないか

肖像権、パブリシティ権、その他の第三者の権利についてどのような処理をしているのか



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