Netpress 第2318号 従業員のパフォーマンスを最大化! 中小企業が実践すべき「人的資本経営」の取り組み

Point
1.人的資本経営においては、従業員のパフォーマンスを向上させるために、人への投資を積極的に行うことが求められます。
2.リソースが限られる中小企業が目指すべき人的資本経営のあり方、具体的な取り組みを紹介します。


中小企業診断士
組織人事コンサルタント
平井 彩子


ここ数年、日本においても「人的資本経営」という言葉を耳にするようになりました。「人的資本」とは、人材を「価値を生み出す源泉である資本」と捉える考え方です。そして「人的資本経営」とは、人材を資本と捉えて投資をすることによって、中長期的に企業価値の向上につなげていこうとする考え方です。


人的資本経営の取り組みは、これまで 「人的資源」であった人を「人的資本」へと変化させ、「管理」であった人事を「戦略」に昇華させようとするものです。

1.人的資本経営のメリット

人的資本経営を実践することは、組織に対して大きな成果をもたらします。直接的・間接的な効果、社外・社内への影響は次のとおりです。


(1)プロセスのイノベーション

人材のスキルアップ、デジタルスキルの獲得などにより、業務プロセスのイノベーションが期待できます。


時間短縮のような単なる効率化だけでなく、業務そのものを整理したり、集計作業を機械化したりするなど、業務プロセスを抜本的に見直して生産性を向上させることが可能です。


(2)製品・サービスのイノベーション

私たちを取り巻く環境は、刻々と、そしてこれまでよりも速く変化しています。そうした環境の変化に合わせて、製品やサービスのイノベーション、新たな価値を創出しなければ、企業は衰退してしまいます。


人材への投資により、そこで働く人たちの考え方や価値観、スキル、知識も時代に合わせてアップデートし、事業環境の変化に対応していくことで、企業の持続的成長が期待できます。


(3)健全な組織風土の醸成

人的資本経営では、価値向上に向けた育成面の取り組みだけでなく、エンゲージメントを高める意味でも、良好な労働環境の構築が重要です。これにより、「働きやすさ」と「働きがい」の双方の向上が期待できます。


(4)対外的評価の向上

対外的評価とは、顧客や株主だけでなく、地域や家族、求職者などあらゆるステークホルダーからの評価を指します。


人的資本経営に取り組み、非財務的価値に着目してマネジメントを行っていることを対外的に示すことで、ステークホルダーからの評価が向上します。


また、これらの取り組みが企業価値を高め、人材確保へも好影響をもたらします。取引先に対して信頼感を与えることも期待でき、事業運営のうえでさらなる安定化につながるでしょう。

2.中小企業における具体的な取り組み

人的資本経営を実現していくために、中小企業がどのような取り組みを行えばよいかをみていきましょう。


(1)人材戦略の立案(採用・評価・育成・報酬の連動)
人的資本への投資というと、単なる研修の実施と考える人がいるかもしれませんが、場当たり的な投資では人的資本経営を実践しているとはいえません。経営戦略や経営理念と結びつけて、戦略的にどのような人材が必要なのか、どのようなスキルが求められているのか、眼前の組織や人材の問題を解決するだけでなく、将来をイメージしながら、経営も人事も一体となって人材戦略を検討する必要があります。



この戦略を価値あるものとするためにも、人材育成基本方針を定めるとよいでしょう。ミッションや経営理念から目指す社員像・人物像を定め、人材育成における重点施策とその目的や役割を示すことで、企業としての育成の力点がわかることに加えて、社員が取り組みの意味を理解する助けにもなります。


人材育成の取り組みは、採用・評価・育成・報酬と局所的な対処となりがちですが、それぞれは密接に結びついているため、全体観をもって取り組むことが大切です。


(2)育成プランの立案と自律的なキャリア構築

求める社員像・人物像を決めたら、そのイメージに成長していくための具体的なステップを示す必要があります。


いわゆるキャリアパス(成長の道筋)と呼ばれるもので、いくつかの階層ごとに、業務遂行にあたって求められる行動や意識などを定義づけます。そのうえで、必要な能力や知識、それを身につけるための能力開発の手段などが定義されていると、目指す方向性が明確になり、従業員も取り組みやすいでしょう。


リカレント(学び直し)、リスキリング(新たなスキルの獲得)に代表されるように、画一的な学びだけでなく、自律的に学ぶことも重要になります。


(3)ダイバーシティ&インクルージョンの推進

ダイバーシティとは「多様化」「相違点」という意味で、組織のなかに性別・世代・障がいの有無・国籍などの違いをもった人たちが集まっていることを指します。インクルージョンとは「包含」 「一体感」という意味で、多様な人材がお互いを認め合い、一体感をもって組織運営を行っていることを指します。


多様化の反対は同質化であり、同質化した組織では考え方や価値観も同質化します。集団思考や同調圧力などが働くことで偏った基準になりがちなため、変化に対する対応力が弱くなります。


一方、多様化した組織では、属性だけでなく考え方や価値観の多様化も進んでいます。日頃から変化に晒されており、異なる考え方やスキル、知識をぶつけ合いながら対話をもとに行動していることから、変化に対しても多様な解決策を生み出すことができます。


人的資本経営を実践するうえでは、育成面だけを強化するのではなく、組織のダイバーシティ推進も必要です。


(4)人事評価制度の構築・見直し

多様な人材を活用し、育成するだけでは、対策としては不十分です。その成長に見合った評価があってこそ、従業員のモチベーションの維持・向上につながります。


人事評価制度は、給料やボーナスを決めるためのものという認識が強いようですが、本質的には異なります。人事評価制度は、自身の強みや弱みを上司と部下で確認し合うことで、さらなる成長へと結びつけるためのツールであり、本来の目的は人材育成です。給料やボーナスへの反映は、あくまでも結果の活用という捉え方をするとよいでしょう。


人的資本経営で新たな人材戦略や求める人物像を定めた場合は、人事評価制度もそこに合わせた形で、求める能力や知識などを整理し直す必要があります。



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