Netpress 第2314号 税務調査でも問題になりやすい! いつが正しいのか?売上の計上ルールを確認する

Point
1.売上計上基準は1つに限られるものではなく、どの基準を採用するかは販売状況によります。
2.請求書の発行や売上計上について社内ルールを定め、一度採用した基準を継続して適用し、正しい時期に売上を計上するようにしましょう。


税理士 脇田 弥輝


1.中小企業に適用される売上計上のルール

売上をいつ、どのタイミングで計上するかを定めたものを「売上計上基準」といいます。


実は、法人税法には売上計上基準の規定がありません。「益金の額および損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と定めているのみです。


では、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、どのようなものでしょうか。


まずは会計処理における「発生主義」「現金主義」「実現主義」という3つの考え方についてみていきましょう。


(1)発生主義と現金主義

「発生主義」とは、現金が入ってきたり出ていったりすることに関係なく、商品の販売やサービスの役務の提供などが行われた時点で、収益または費用を計上するルールです。


これに対して、現金の受け渡しがあった時点で、収益または費用を計上するルールを「現金主義」といいます。


現金主義には、帳簿付けが簡単というメリットはありますが、当期に商品を販売して翌期に代金が入金された場合は、翌期に売上が計上されることになります。当期に販売したものが当期の売上にならないのでは、正しい期間損益を計算することができません。費用に関しても同様です。


そのため特別な場合を除き、企業会計原則(企業会計における実務上の慣習から、一般に公正妥当と認められるところを要約してまとめたもの)では、現金主義での計上は認められません。


(2)実現主義

「実現主義」とは、収益が実現した時点で、売上を計上するルールです。


「実現した時点」については後述しますが、収益の実現には、次の2つの要件を満たす必要があります。


・第三者への商品の販売や役務の提供


・対価(現金や売掛金、受取手形など)の取得


(3)売上は実現主義、費用は発生主義で計上

企業会計原則では、「すべての費用および収益は、その支出および収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない」とされています。


しかし、売上については、その「発生した時点」を正確に把握することは困難です。開発、営業、製造等を経て、徐々に売上が発生するため、いつの時点でいくらの売上が発生しているのか、正確な金額がわからないからです。


そこで売上は、より具体的な基準である「実現主義」で計上します。企業会計原則でも、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売または役務の給付によって実現したものに限る」とされています。


以上をまとめると、「売上は実現主義で計上、費用は発生主義で計上」ということになります。


なお、2021年4月から、「収益認識に関する会計基準」(以下、「新収益認識基準」といいます)の適用が開始されています。


新収益認識基準は、実現主義よりもさらに具体的に、収益を「契約の識別、履行義務の識別、取引価格の算定、履行義務の取引価格への配分、履行義務の充足による収益の認識」という5ステップで認識していくものです。


新収益認識基準は、上場企業や大会社では強制適用となりますが、中小企業は任意適用であるため、これまでどおりの考え方で問題ありません。

2.実現主義における「実現した時点」とは

売上は実現主義に基づき、「収益が実現した時点で計上する」ルールですが、「実現した時点」とはどの時点をいうのでしょうか。商品の販売を例に考えてみましょう。


一般的な商品の販売の流れは、次のようになります。


1.商品の売買契約が成立する

2.商品を発送する

3.相手が商品を受け取る

4.相手が検収する

5.代金を受け取る


スーパーやコンビニでの買い物では、1から5が同時に行われますが、一般の会社では、入金の後に商品を渡したり、発送したりと、商品の受け渡し方法はさまざまです。


企業会計原則では、こうした商品受け渡しのさまざまなパターンについて、次のような基準が考えられています。



発送基準…商品を送った時点で売上を計上する

引渡基準…商品が相手に届いた時点で売上を計上する

検収基準…相手が商品の検収を終えた時点で売上を計上する

船積基準…輸出品に多く用いられる基準で、B/L(船荷証券)の日付で売上を計上する

使用収益開始基準…土地・建物を販売する不動産業等で用いられる基準で、相手が商品を使用し、収益を上げることが可能になった時点で売上を計上する


法人税法でも、通達によって益金(売上)の算入は企業会計原則と同様に扱われ、複数の基準が認められています。


したがって、いずれかの基準で売上を計上する時点を決めることになります。


ただし、一度決めた売上計上基準は、販売状況や契約条件等が変わったなどの正当な理由がない限り、恣意的に変更することは認められていません。企業会計原則でも、「その処理の原則および手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」とされています。


逆にいえば、毎期継続して同じ基準によって売上を計上するのであれば、いずれの処理も「実現主義」に沿った処理となります。継続適用を前提として、事業の種類ごと、取引先ごと、商品の種類ごとなど、それぞれに基準を選択することもできます。



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