Netpress 第2308号 多方面に強烈なインパクト! 「ChatGPT」の登場で何がどう変わるのか?
1.いま話題のチャットボット「ChatGPT」ですが、インターネット登場以来のインパクトとみる専門家もいます。
2.ChatGPTの基本を確認したうえで、企業の実務に及ぼす影響や活用時の留意点などを概観します。
株式会社エル・カミノ・リアル代表
一般社団法人ITキャリア推進協会
アドバイザー
木寺 祥友
サンフランシスコのOpenAI社が生み出したChatGPTは、いま一番注目されているテクノロジーです。
ChatGPTとは、一言でいえば、対話形式で、質問に対してまるで人間のように自然に答える技術を備えた「AIチャットボット(人工知能を搭載した自動会話プログラム)」です。
もちろん、さまざまな制限や利用する際のコツ、注意点は多く存在しますが、実務でも十分に使えるものです。以下では、ChatGPTの登場により、何がどう変わるのかをみていきましょう。
1.ChatGPTの能力
ChatGPTの登場まで、AIは高度な知識を持つ専門家のものだと思われていました。それを誰にでも簡単に使えるようにしたことが、ChatGPTが驚異的なスピードで普及した要因です。
人工知能ですので、いままでのコンピューターのようにプログラミングに従って動く「定型的な単純作業」だけではなく、専門的知識の習得が必要な作業までAI自らが学習して担うことが可能となります。
特にChatGPTは、旧バージョンのGPT-3.5から、ことし3月にGPT-4に大幅バージョンアップしたことにより、投げかけた質問に対する回答の精度が格段に上がりました。
短期間で急速に進化しているので、今後は人類の考えが及ばないほど賢くなっていくでしょう。人類に対する驚異と捉え、開発を中断するよう求める人もいるほどです。
2.ChatGPTが与える影響
OpenAI社とペンシルバニア大学の共同論文によれば、ChatGPTなどの進化により影響を受けそうな職業として、税理士、会計士、秘書、コンピュータープログラマー、データ入力業者などが挙げられています。
これからは、肉体労働は機械(ロボット)、思考はChatGPTなど(AI)、それらに上手く指示を出す仕事と感情に関わる仕事は人間、という図式が成り立っていきます。ChatGPTなら、無料(有料版でも月に20ドル)でいくらでも働いてくれるので、給与の面で対抗できる労働力はないでしょう。
日本では、仕事を単価の安い企業へと流していく、多重下請けの構造になる傾向があります。今後はAIの進化により、アウトソーシングやオフショアといったビジネスは衰退し、安く請け負うことだけがメリットという職業が成り立たなくなるでしょう。AIは特定の業種だけではなく、あらゆる産業に影響を与えるのです。ホワイトカラーの仕事内容を一変させるほどのインパクトがあるのではないでしょうか。
3.ChatGPTの実務における使い方
企業の実務で必要とされる能力の多くは、クリエイティブなものよりもルールに基づいた定型的な作業の能力ですが、それはChatGPTが最も得意とするところです。時間や手間がかかり、人間がやりたがらない、あるいは間違えやすいような定型的な作業は、ChatGPTに任せることがスタートラインとなるでしょう。
ChatGPTの画面には、テキスト入力用スペースがあるので、そこに質問やコマンドを入力すると「回答」として、文書やコードを作成してくれます(ChatGPTが出力できるものは、テキストデータに限られます)。
ChatGPTは、指示を出さなければ何もしてくれません。そのアクション=プロンプト(AIに指示を出す言葉)こそ、人間の役目です。プロンプトは、「指示」「内容」「条件」などをわかりやすくすることがコツです。
そして、答えの確実性を検証して、修正しなくても回答を得られるようにChatGPT=AIを訓練します。利用者の癖を認識することで精度が上がるのです。これは人工知能の特徴といってもよいでしょう。
なお、最初は自分が知らない事項、確認できないことは質問しないようにします。うろ覚えでもよいので、知っていることに限定したほうがよいでしょう。自分でチェックできないことは、ChatGPTに回答させないということです。
また、実作業のプロセスはChatGPTがやってくれるとしても、入口と出口がとても大事なので、効果的なプロンプトを覚えましょう。ある企業では、ChatGPTの用途ごとにプロンプトのテンプレートを用意したそうです。こうすることには、効果的なプロンプトが初めから使える、「情報漏洩」の危険性が低減する、といった利点があります。
4.ChatGPT活用時の留意点
ChatGPTはまだまだ万能とはいえません。利用する際に留意すべき点がいくつかあります。
(1)間違った答えを出すことがある
ChatGPTは、間違った答えを堂々と出力することがあります。ダメ押しで確認すると、「申し訳ありませんが、私が以前述べた情報は誤りでした」と訂正してきます。
ChatGPTの出す誤った回答を指摘して、悲観的、嘲笑的に捉える人もいます。しかし、ChatGPTを使いこなせない人は、人間のマネジメントを行うこともできないのではないでしょうか。
人を使う場合には、その人の持っている能力を最大限に引き出すよう指示を与え、進捗を確認することが重要ですが、これはChatGPTを使う際も同じです。つまり、自分自身の「プロンプト」の能力を上げることが必要なのです。
(2)情報漏洩のリスクがある
たとえば、ChatGPTに、自社商品の製造工程をより効率的にする方法を尋ねたとしましょう。
その際、製造工程の詳細をプロンプトとしてChatGPTに入力してしまうと、その情報が蓄積され、場合によっては他者の質問に対する回答に流用される危険性があります。ChatGPTの開発元であるOpenAI社は、入力内容を学習内容に使うことをユーザーに明らかにしています。データを利用されたくない場合のために、「オプトアウト措置(第三者への情報提供を本人の希望に応じて停止する措置)」も可能ですが、便利で有能だからといって、自社の経営に関わる情報、顧客や従業員に関する個人情報、機密とされる情報をChatGPTに入力することは控えましょう。
そのほかにも、ChatGPTの回答が他者の著作であることに気付かず、著作権を侵害する危険性や、子供の思考力の低下を危惧する声などもあります。現在、各企業では、社員のChatGPT利用を黙認している場合が多いようですが、今後は危険性の周知などの対策や関連規程も必要になるでしょう。
今後、AIは電力と同じように誰でも利用できるインフラになります。最初は、簡単で定型的な仕事に利用するくらいだとしても、AIの進化のスピードから考えると、すぐに新たな利用法が生まれ、付加価値の高い仕事ができるようになるでしょう。企業においても使い方のルールが整い、さらに利用できるシチュエーションは増えていくはずです。AIを「道具」ではなく、「相棒」として生産性を上げていく時代はすぐそこまで来ています。
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