Netpress 第2307号 意思決定は早めに! 中国からの撤退・事業縮小 そのポイントと最新動向
1.コロナの影響による中国経済の悪化に伴い、中国事業の撤退・縮小を検討する企業が増加していますが、撤退の意思決定は早ければ早いほど選択肢が広がります。
2.撤退にあたっての主な課題は、①撤退資金、②従業員対応、③取引先対応の3点です。
税理士法人山田&パートナーズ
税理士・公認不正検査士
大井 高志
約3年間続いたゼロコロナ政策を2022年12月に撤廃し、厳しい行動制限の緩和・経済回復の方針へと大きく舵を切った中国ですが、足元の経済状況に鑑みると、中国国内の消費回復にはまだまだ時間を要すると予想されています。
コロナ禍の3年間において、工場や物流の停止、ゼロコロナ政策に係る行動制限などの影響を受けて業績が悪化した企業は多くあり、日系企業においても中国事業の見直しや撤退の検討を進めるケースが少なくありません。
本稿では、中国事業から撤退における直近の動向や留意点・ポイントについて解説します。
1.中国事業の見極め
中国事業の進退の見極めにあたっては、下図のプロセスで検討を行うのが一般的です。
まだ売却価値がある場合には、持分譲渡による撤退も検討することができますが、そうでない場合には、追加資金を注入してでも会社清算による撤退を選択せざるを得ないようなこともあります。
したがって、撤退の意思決定は早ければ早いほど選択肢が広がります。
2.撤退・事業縮小時の手法
中国事業の撤退・縮小にあたっては、下表に示した4つの手法が検討できます。
手 法 | 内 容 | メリット | デメリット | |||
① | 持分譲渡 | 事業・法人格・従業員は維持しつつ、自己の出資持分を合弁先または第三者に譲渡することにより撤退 | ・ | 他の撤退手法に比べて手続が容易で迅速 | ・ | 譲渡先探しや譲渡価格の交渉が困難 |
・ | 紛争や行政処罰などに発展する可能性が低い | |||||
② | 普通清算 | 事業の取りやめ・従業員の解雇・法人格の消滅を済ませ、中国から撤退 | ・ | 完全撤退が可能 | ・ | 手続が複雑 |
・ | 後の中国ビジネスに影響が出にくい | ・ | 時間がかかる | |||
③ | 破産 | 事業の取りやめ・従業員の解雇・法人格の消滅を済ませ、中国から撤退 裁判所の管理下で、清算処理を行う | ・ | 債務超過の場合においても債務の切り離しが可能 | ・ | 手続が複雑 |
・ | レピュテーションリスク | |||||
・ | 投下資本の回収不可 | |||||
④ | 機能変更による事業縮小 | 工場を閉鎖して販社化するなど、機能変更を行い、事業規模を縮小 | ・ | 中国事業を継続することができる | ・ | リストラなどに伴う費用が生じる |
近年では、人件費や生産コストの高騰のために採算が取れなくなった工場を閉鎖して販売会社化するなど、機能変更による事業縮小を図る事例も増えてきています。
3.撤退を行うにあたっての検討課題
(1)撤退資金
中国における会社清算の行政手続は、日本とは異なる規制があります。たとえば、清算手続開始後に資金繰りが悪化しても、それ以降は増資による資金注入ができなくなるなど、特に資金繰りには留意が必要です。
清算手続中に資金が不足すると破産手続に移行することになりますが、外資企業には破産が認められないケースも多いため、手続を進めることができないいわゆる「デッドロック」の状態に陥る懸念があります。
(2)従業員対応
業務に対する日頃の不満や残業代の未払い、過去にうやむやになっていた事象等が一気に噴出し、労働争議や情報漏洩などに発展するケースは少なくありません。
労働争議を回避するためには、いつ誰に通知をし、どのように味方に巻き込んでいくか、慎重な判断が必要です。
(3)取引先対応
取引先へ事業停止の告知を行うことにより、取引先担当者から自社の従業員に情報が洩れ、労働争議やストライキなどに発展する可能性があります。
工場などが業務停止に陥ってしまうと、取引先への損害賠償や違約金が発生することになるので、取引先等の外部ステークホルダーへの通知時期の見極めは重要です。
また、取引先に対して供給責任や瑕疵担保責任を負っている場合の対応も検討する必要があります。撤退に伴い供給責任が果たせない場合には、取引先から損害賠償請求を受けるリスクが生じるため、事前に対応策を検討のうえ、取引先と交渉を行う必要があります。
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