Netpress 第2306号 特例措置の計画提出期限が間近! 中小企業オーナーのための事業承継税制活用のアドバイス
1.事業承継には多額の贈与税・相続税が発生しますが、事業承継税制の活用ができれば、中小企業の税負担を大幅に軽減することが可能です。
2.2027年12月31日までの事業承継税制の特例措置では、自社株の贈与税・相続税が100%猶予されます。この特例措置の適用を受けるには、来年3月31日までに特例承継計画を提出しなければなりません。
AGS税理士法人
社員税理士
和田 博行
日本企業の99%を占める中小企業は、雇用や技術の担い手として日本を支える極めて重要な存在です。しかし、中小企業の廃業が増加しており、経営者の高齢化と後継者不足が要因の一つとして考えられています。
廃業により日本経済・社会を支える貴重な雇用や技術が失われることを懸念して、2008年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づき、事業承継税制が創設されました。
その後、制度の利用が思うように進まなかったことから、2018年に特例措置が導入され、10年間の時限措置として、適用要件が大きく緩和されました。親族内承継では、積極的に活用したい制度です。
1.事業承継税制の概要
事業承継税制は、中小企業の自社株承継に伴う多額の贈与税と相続税の支払いが猶予・免除される制度です。
贈与を前提にすると、先代経営者から後継者への自社株贈与により、後継者に贈与税が発生します。この贈与税は猶予され、先代経営者の相続時に免除されますが、同時にみなし相続課税により、相続税が課されます。これも猶予され、時を経て後継者が次世代後継者へ自社株を承継した際に猶予された相続税が免除される制度です。
2.事業承継税制の特例措置
従来(一般制度)の事業承継税制は、先代経営者の所有する株式に限られ、発行済株式総数の3分の2までの相続税の80%相当しか猶予・免除の対象とされませんでした。さらに申告後の5年間は、8割以上の従業員の雇用を確保する必要がありました。
特例措置では、先代経営者に加えて先代経営者以外の所有する株式も対象範囲となり、発行済株式総数のすべてに対して、相続税の100%相当が猶予・免除され、雇用確保要件は実質的に撤廃されました。
また、制度活用後に業績不振による解散やМ&Aによる株式譲渡があれば、その時点の株価に基づき再計算できるよう大きく緩和されました。
ただし、この特例措置の活用には期限が設けられています。具体的には、2024年3月31日までに都道府県知事へ特例承継計画を提出し、2027年12月31日までに先代経営者から後継者へ自社株式を贈与ないしは相続により承継させる必要があります。
3.事業承継税制の活用
自社株式の評価額が億円単位になるようなケースにおいては、事業承継税制の活用が極めて効果的です。事業が好調であれば評価額がますます高くなります。株価上昇が見込まれるケースでは、ぜひ贈与による事業承継税制の活用をご検討ください。
また、後継者が若過ぎるというケースでは、後継者が成長するまでの間、複数代表制を導入し、後継者の他に別途経営者を指名して、二者の協力体制による事業承継税制の活用も有効です。
4.贈与利用時の主な適用要件
贈与利用時における主な適用要件は次のとおりです。
先代経営者 | ・代表取締役であったこと ・親族を含めて議決権50%超の保有と筆頭株主であったこと |
後 継 者 | ・18歳以上、3年以上の役員経験と代表取締役であること ・親族を含めて議決権50%超の保有と筆頭株主になること |
会 社 | ・2024年3月末までに特例承継計画を提出していること ・中小企業基本法上の中小企業者であること ・経営承継円滑化法の認定を受けること |
5.特例承継計画の概要
特例承認計画とは、後継者が株式等を取得するまでの期間における計画、株式等を承継した後の5年間の計画等を記載した書類で、認定経営革新等支援機関の指導と助言を受けたものをいいます。
会社が記載すべき分量はA4用紙2枚で、添付書類についても原則として履歴事項全部証明書のみの比較的簡易なものです。
提出期限が近いことから、すでに提出済みなのか、一度確認をしておきましょう。
6.事業承継税制の手続
事業承継税制の手続の流れを図示すると、以下のようになります。
「円滑化法」の認定以降の手続きについては煩雑となることから、早めに顧問税理士等へ相談していただくことをおすすめします。
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