Netpress 第2081号 共通仕様の電子インボイスなど 「請求書のデジタル化」で経理業務はこう変わる!
1.2023年10月からの消費税のインボイス制度を見据えて共通仕様の電子インボイスが検討されています。
2.デジタル化により経理業務は大きな変化が見込まれるので、その動きと対応のポイントを確認します。
税理士 栗原 洋介
1.請求書のデジタル化とは
請求書のデジタル化では、紙ではない電子データの請求書を相手に送付することが一般的です。
中小企業で導入しやすい請求書のデジタル化の一例としては、クラウド型の請求書作成ソフトの活用が挙げられます。従来の請求管理でも、PDF形式のデータをメールに添付して送付していることがありますが、クラウド型の請求書作成ソフトは、外部からでもアクセス可能な環境が構築しやすく、インターネット経由で相手先のメールアドレスに直接、請求書を送る機能が標準化されている点でも利便性が高いといえます。
ただし、請求業務は会社間における相互のやりとりですので、自社が請求方法を効率化したいと考えていても、相手先の対応状況も考えなければなりません。
また、請求までの業務の流れでは、担当者や責任者による押印での承認を前提としている場合もあるかもしれません。この承認の流れも、会社ごとに適切な方法で見直しをしていく必要があります。
2.PDFの請求書と情報の互換性
請求書のやりとりをインターネット経由のPDFに置き換えれば万全かというと、それでも物足りない部分があります。PDF形式の請求書を受け取ったとしても、そのPDFに含まれている請求情報(事業者名、金額、締め日、支払期限)を請求管理ソフトや会計ソフトに転記するためには、発注情報と一致しているかを確認したうえで、手入力をする必要があるからです。
経理業務を担当していれば、幾度となく、この請求書の内容がそのままソフトに自動で取り込まれたらよいのに…、と思ったことがあるのではないでしょうか。
こうした問題が起こるのは、請求元と請求先のソフトに情報の互換性がないためです。請求元も請求先も、業務管理はデジタル化されていても、相互にやりとりするシステムを導入していなければ、情報の伝達はできません。単なるPDFのやりとりでは、こうしたことができないわけです。
このように、紙であってもPDFであっても、受領した後の作業はあまり変わらないという点も、デジタル化に向けた改善の動きが鈍かった一因と考えられます。
3.「電子インボイス」とは
「電子インボイス」という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれません。PDF形式の請求書も電子データですから、電子インボイスの範囲には含まれますが、ここで述べるのは「共通仕様」の電子インボイスのことです。
共通仕様の電子インボイスを利用すれば、請求元と請求先で請求情報を相互にやりとりすることが可能になり、これまでのような請求情報を手入力する手間も大幅に軽減されることが見込めます。
共通仕様の電子インボイスの導入機運が高まっているのは、2023年10月に始まる消費税の「インボイス制度」とも関係があります。
消費税のインボイス制度は、正式には「適格請求書等保存方式」といいます。消費税の課税事業者は、税務署にインボイスの登録事業者になるための申請をすることで、適格請求書(インボイス)を発行することができます。
この消費税のしくみでいう「インボイス」とは、制度上認められた請求書や領収書を指します。インボイスがこれまでと異なるのは、税率や税額を確実に記載するほかに、インボイス発行事業者の登録番号も記載する点です。請求書・領収書を発行するインボイス発行事業者には、これらへの対応が求められます。
一方、請求書等を受け取った事業者は、2023年10月以降、このインボイスを保存します。消費税の仕入税額控除は、インボイスの保存が要件とされているからです。とはいえ、これまでも請求書等の保存は当然にしているでしょうから、特段の違和感はないかもしれません。
「インボイス制度で請求書等の発行のしくみが変わる」というと、新しいシステムの導入が必要であるように聞こえます。しかし、実際のところは、請求書等に記載する項目を追加修正すればよいだけですから、大がかりな対応が求められることは少ないでしょう。
ここまで消費税のインボイス制度を紹介したのは、同制度で保存対象となる書類の1つに「電子インボイス」が含まれているからです。インボイス制度による保存義務と、請求業務の効率化などの潮流が合わさって、電子インボイスの「日本標準仕様」を策定する動きがあります。
会計や経理に関係するソフト会社が集まって設立された「電子インボイス推進協議会」は、日本標準仕様の電子インボイスを策定し、事業者が対応ソフトを利用できる状態を目指すとしています。
4.請求書のデジタル化と経理業務の今後
請求業務については、今後、大きな変化が見込まれます。特に、共通仕様の電子インボイスが導入される影響は大きく、請求元と請求先で分断されていた請求情報のやりとりがスムーズになり、効率化が期待できます。
では、ここまでの内容を踏まえて、今後の実務上の留意点を整理してみましょう。
共通仕様の電子インボイスの導入については、特別なシステムは必要ないといわれています。電子インボイス推進協議会には、多くの経理ソフトメーカーが参加しており、これまで利用しているソフトでも電子インボイスに対応する機能が追加されるものと期待されます。取引先と相互で電子インボイスへの対応環境が整えば、導入も進めやすくなるといえます。
自社が請求元である場合には、取引先から電子インボイスへの対応を打診される可能性もあります。請求書を受け取っている請求先からすれば、データが利用しやすい電子インボイスのほうがメリットも大きいからです。請求書を受け取る側としても、自社のシステムが電子インボイスに対応できるかを確認する必要があります。
消費税のインボイス制度は、紙やPDFの請求書であっても適格請求書等保存方式の要件を満たせば問題はありませんが、電子インボイスの利便性の高さが理解されることで、電子請求への移行が進むことが予想されます。経理に携わる担当者は、今後の動向に注意する必要があるでしょう。
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