Netpress 第2299号 見えないSOSをどうサポートするか? 職場における「内部障がい者」支援

Point
1.企業は、見た目でわからない「内部障がい者」に対してサポートし、就労環境を整備する必要があります。
2.従業員は、自分もなる可能性がある「内部障がい」について、理解を深めることが求められます。


株式会社自分楽 代表取締役 﨑山みゆき
(両立支援コーディネーター)


1.「内部障がい」とは?

ダイバーシティの一環として「障がい者理解研修」に取り組む企業が、ずいぶんと増えました。その実施内容と感想を、受講した方々にたずねると、大半が次のようなものです。


「車いすに乗りましたが、段差は大変ですね」


「全盲の人の体験だと言われ、目隠しをして白い杖を持ちながら歩きました。怖かったです……」


ここで懸念されることがあります。障がい者=車いす・白杖のような福祉器具を使う、外から見て不自由さがわかる人たち、というステレオタイプな理解を生むことです。


実はもう一つ、外から見てもわからない「内部障がい」があります。内臓の機能や免疫機能が弱まるなど、体の内部に起こる障害です。私もこの内部障がい者の一人で、ペースメーカー埋め込みの障がい者1級。左の胸の上が、機器でポッコリ盛り上がっていますが、洋服を着ると外からはまったくわかりません。


内部障がい者は、人生の途中でなる「中途障がい」が多いと言われています。例えば、大腸がんのためにオストメイトになった、糖尿病が悪化して人工透析になったなどです。今まで、できたことができなくなるだけではなく、治ることがない「障がい者」という自分を受け入れなくてはいけないという、非常に大きな心のダメージを受けます。


日本の身体障害者福祉法では、内部障害(内部機能障害)の規定は以下の7つとなっています。


①心臓機能障害、②腎臓機能障害、③呼吸器機能障害、④膀胱・直腸機能障害
⑤小腸機能障害、⑥ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害、⑦肝臓機能障害


耳慣れない専門用語ですが、ペースメーカー埋め込み者や、人工透析を受けている方、オストメイトの方、HIVの方、と言うと、イメージがわくのではないのでしょうか。一般就労が可能な方が多いので、皆さんの職場にもいるかもしれません。以下に、内部障がい(ハート・プラスマーク)とオストメイトのマークをご紹介します。


ヘルプマークとの違いは、障がいの種類が明確に提示されているので、どのような支援が必要なのかがわかりやすいということです。



「ハート・プラスマーク」 特定非営利活動法人 ハート・プラスの会 https://www.normanet.ne.jp/~h-plus/



「オストメイトマーク」 公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団 https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/picto_009%E3%80%802021.html

2.職場において、どのような配慮をすればよいのか?

「見た目ではわからないので、障がいのあることが周囲の人に理解されない」、「自分から、障がい者ですと主張することに疲れ果てた」――内部障がい者の抱える大きな悩みです。


そこで、職場における配慮の仕方のポイントを6つご紹介します。


(1)休憩できる場所をつくる

体力面で健常者とは大きな差があり、1日中同じ姿勢でいることや、長時間勤務ができません。横になる、座るなど休憩できる場所を設けてあげます。パーテーションなどを利用して、音や光を避けることができるようにし、長椅子を置くだけでも構いません。


(2)本人の「つらい」「しんどい」を信用する

外からわからないという理由から、仮病や怠けていると言われることが多いのも、内部障がい者の特徴です。本人が「つらい」「しんどい」と言ったら、それを信用して、否定せずに受け入れてあげましょう。「休憩を取ってもいいよ」という声掛けも必要です。「疲れていない?」という問いは好ましくありません。「疲れています」と本音を出しにくいものです。


(3)医療機器に対する安全性の確保

ペースメーカーを使用している場合には、高電磁波の機器を避けるようにしなくてはいけません。万が一、業務中の事故で病院に搬送された場合、MRIなどの電磁波を使用する機器は使用できないことも知っておきましょう。


【参考】 総務省 『知っていますか? 「植込み型医療機器」をより安心して使用するためにできること』

https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/zentai.pdf


(4)オストメイトの人は、トイレにアクセスのよい座席にする

長時間の会議などの際には、途中で席を立つことも、許可します。最近はオンラインミーティングが増えましたが、座りっぱなしで席を外しにくくて困っているという声も聞かれます。トイレ休憩を想定し、45分程度で休憩を入れる、途中でビデオをオフにして離席してもよいという許可をあらかじめ出しておくなどの配慮をしましょう。


(5)冷暖房の調整

自分で体温調節をすることができない、という方が多くいます。冷暖房が直接当たる場所は、身体的な負担が多いため避けるようにします。また、扇風機や電気ストーブなども活用し、スポット的に温度調節ができるようにしましょう。


(6)感染症・受動喫煙対策

免疫力が低下している人が多いので、感染症に対する配慮は必須です。風邪をひいている従業員とは距離を置く、喫煙所から遠い座席にする、マスクを両者に着用させるなどの工夫をしましょう。

3.内部障がい者理解と、そこから生まれる企業価値

「内部障がい者」は、誰もがなりうる可能性があります。ただし、働き方の工夫さえすれば、職場復帰後に一般就労が可能なケースも多くあります。よって、企業としては心理的・物理的サポートにより離職しなくて済むよう人的資源を確保すべきです。従業員も、自分事としてとらえ、まずは、両立できる職場について話し合ってみることから始めてはいかがでしょうか。


まだまだ新しい分野の「内部障がい者」に対する支援。だからこそ、その取り組みを通じて「自社の価値創造」ができるかもしれません。



最後になりましたが、仕事と内部障がいの両立について、内閣府の令和4年度障害者週間における「心の輪を広げる体験作文」コンクールで佳作をいただいた、筆者の作文をご紹介させていただきます(下記URL)。現場とは…というご参考になりましたら幸いです。

https://jibungaku.com/news/171789/



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