Netpress 第2297号 新たな成長、変革のために ジョブ型雇用を踏まえた職務給の導入ステップ

Point
1.最近のインフレ、働き方の変化、高齢化は、ジョブ型雇用を踏まえた職務給制度への転換を促しています。
2.職務給型への転換は、自社内においても「5つのステップ」で進めることが可能です。
3.職務給型に移行できない本質は、不適切な管理職を許容したり、利益率を高めようとしてこなかったりした「経営のツケ」。だから変革のためには覚悟が必要です。


セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康 慶浩


1.ジョブ型雇用が必須となりつつある

「ジョブ型雇用」という人事用語が広まり始めて数年が経過しました。いつかは対応しなければいけないとしても、しばらく先ではないか、と傍観していた会社も多いように思います。


しかし、この数年の間に環境は激変しました。誰もが予想できていなかった急激なインフレ、コロナショックを経た働く人の意識の変化、そして、わかっていても手を打ってこなかった高齢化です。


それぞれについて詳しく見ていきましょう。


(1)急激なインフレ

急激なインフレに対応するためには、給与水準の引き上げが必要です。けれども、年功主義的な給与制度の会社では、成果と給与が連動していません。


仮にそんな仕組の状態でもインフレ対応としてベースアップをすると、単純に人件費を増やすことになります。結果として、その分だけ利益が減ってしまうので、ベースアップを躊躇する会社が多くなります。


(2)働く人の意識の変化

年功主義は、給与の後払いを想定した仕組みです。若いうちは下積みで、年齢を重ねるにつれて給与を増やしていこうという考え方で設計されています。


しかしコロナショックのなかで、若手を中心に、将来も同じ会社にいることが当たり前だとは考えなくなっています。後払いの年功給与の仕組みは、そんな若手の離職を促進してしまいます。


(3)高齢化

高齢化は、会社にしがみつく社員を増やします。若手が減って高齢者が残る会社では、好ましい変化や成長が起こらなくなります。


そうしたなかで、逆年功的に高齢層の給与を減らすことが当たり前だと思ってしまうと、会社にしがみつく高齢者のモチベーションを下げていきます。


結果として、職務給型ではない年功主義の会社では、やる気のない高齢者だけが目立つ状態になっていきます。その先に経営破綻があったとしても驚くべきことではないでしょう。

2.ジョブ型雇用への移行は今からでも遅くない

すべての変革がそうであるように、職務給型への転換は、今すぐ行うことが最適解です。先延ばししても得なことは何もありません。


職務給型への転換の道筋は、次の「5つのステップ」で示すことができます。


第1ステップ
第1ステップは、組織図に基づく各ポストの責任・権限の具体化です。職務記述書の作成という場合もありますが、あまりかっちりしたものでなくても大丈夫です。要は、どんな責任があるのかを明記すればよいのです。
第2ステップ
第2ステップは、それぞれのポストの職責の数値化です。こちらも厳密にいうなら職務測定基準に基づいて点数化することが望まれます。しかし、シンプルに行う場合には、序列法という手段もあります。ポストの職責の大きさを、社長の感覚で並べてしまうやり方です。
第3ステップ
第3ステップでは、数値化した職責を束ねて等級にします。職責に応じて細かく区分してもよいのですが、全社で5~10程度にまとめてしまうほうが使い勝手がよいでしょう。
第4ステップ
第4ステップでは、第3ステップで束ねた等級ごとの給与の上限と下限を決めます。その際には、その職責の人を中途採用すると、どれくらいの給与を示さなければいけないか、ということを参考にしましょう。
第5ステップ
第5ステップでは、それぞれの職責に応じて今いる社員を当て込みます。今支払っている給与が職責に比べて安すぎる場合には引き上げましょう。逆に高すぎる場合には、すぐに引き下げると不利益変更になるので、段階的に引き下げていくことになります。


これらの5つのステップは、人事コンサルタントに依頼するとスムーズに進みますが、社内でできないということはありません。

3.ジョブ型雇用に移行できない理由のつぶし方

とはいえ、年功型の会社がすぐに職務給型に転換しにくい事情もわかります。ここ数年で弊社が職務給型への転換を支援してきた会社の事情と、その対策を2つご紹介しましょう。


ジョブ型に転換できない事情として最も多いパターンは、仕事が個人に貼りついている場合です。それも、専門性がないままで、社内で顔が利くというだけのゼネラリストだらけの会社の場合です。だからジョブ型にしようとしても、職責と給与の乖離が大きすぎて、前述の第2ステップあたりで力尽きてしまうのです。


このような場合には、職務給の設計とともに、ポストに最適な人材を当て込むことを優先しましょう。人事制度改革の前に、職責にふさわしくない管理職を外すのです。もしそれができないようなら、それは会社として「情が厚すぎる」のかもしれません。


次に多いのは、給与が安すぎて対応できないパターンです。ただ、この場合はさらに2つのパターンに分かれます。


給与が安くても、賞与を含めたらそれなりの年収になる場合はまだ移行が可能です。その際には賞与支給月数を減らして、月給額を増やす取り組みを合わせて行えば、会社の魅力が大きく増すことになります。


一方で、年収も低いようであれば、そもそも提供するサービスや取り扱っている商品の価格が安すぎる可能性があります。インフレをきっかけに値上げすることから始めるべきでしょう。


このように、職務給型への転換は、単なる人事の仕組みの変革にとどまりません。不適切な管理職を見過ごしてきたり、しっかり利益を上げようとしてこなかったりした「経営のツケ」を解消し、あらためて成長を目指すためのきっかけとして捉えてください。



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テーマ:ジョブ型雇用を踏まえた職務給の導入ステップ(ライブ配信あり)
講師:セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 平康 慶浩氏
開催日時:2023年9月12日(火)15:00~16:30(受付開始 14:30)
開催場所:SMBCコンサルティング東京本社9階セミナーホールC
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