Netpress 第2294号 法律上の義務など 男性育休の取得促進 企業に求められる対応は

Point
1.出生時育児休業(産後パパ育休)は、職場の空気を読んだ「控えめな制度」といえます。
2.「個別の周知・意向確認」「育休を取得しやすい雇用環境の整備」が法律上の義務となっています。
3.男性の育休取得を「責任感がない」と評価すると、パタニティ・ハラスメントとなるリスクがあります。


石嵜・山中総合法律事務所
弁護士 橘 大樹


1.出生時育児休業(産後パパ育休)の正しい理解

出生時育児休業は、2022年10月施行の法改正により新たに導入された制度です。


施行から1年近くが経過し、社内で男性社員から「この制度を使いたい」との申請があったというケースも増えていると思います。


経営層や管理職のよくある反応として、「男性育休が時代の流れなのはわかるが、法律でこんな権利を作られたら、会社の事業活動に支障が出てしまう」というものがあります。


しかし、この反応は、今回の法改正を正確に理解していない可能性があります。


「昔から、男性には、女性と同じように育児休業を取る権利が保障されてきたし、法改正で導入された出生時育児休業は、権利としてはむしろ今までの育児休業より弱い」というのが正しい認識です。男性が育児休業を取る権利を拡充・強化したという話ではないのです。


出生時育児休業は、子供が生まれてから8週間の期間中に、日数は4週間(28日間)まで、回数は2回までの休業を取るという制度です(下図は取得の一例)。




ママの出産直後という一番大変な時期に、パパも休みを取って少しだけ育児に参加するという話です。通常の育児休業のように、1年も2年も仕事を離れるわけではありません。


従来、仕事への責任感や職場の雰囲気から、実際上、男性社員が通常の育児休業を取って1年も2年も休むというのは現実的ではありませんでした。


そこで、あえて控えめな制度(通常の育児休業よりも弱い権利)を作り、職場の理解を得つつ、男性社員が妻の出産直後に少しだけ休んで家事・育児に参加することを促そうとしているのです。


労使協定を締結すれば、社員本人が合意した範囲で休業中に就業できる仕組みも整えられています(特に中小企業でこの仕組みが多くとられています)。事業活動に与える支障は、十分に調整できると思われます。


「男性育休」という言葉にアレルギー反応を起こさず、控えめな制度だという認識で運用していくのが適切です。

2.育休を取りやすい「空気」を作る義務

職場には、はっきりと口に出さないとはいえ、「男性が育休を取るなんて」「仕事を放り出して休むなんて」という空気が漂っているものです。


育休を取る側も、そうした職場の雰囲気や仕事への責任感から、育休取得を差し控えてしまいがちです。


そこで、2022年4月施行の法改正は、次の2つの義務を企業に課しています。




個別の周知・意向確認

育休を取得しやすい雇用環境の整備


これらは、今後とも企業が講じなければならない義務であり、実務上も重要です。


①は、社員またはその配偶者が妊娠・出産等した事実を申し出てきたときに、育休に関する制度内容を個別に知らせ、育休を取るかどうかの意向を確認しなければならないというものです。本人からは言い出しにくいので、会社の側から「こういう制度があるが取りますか?」と聞くようにしなさいという話です。


②は、次の4つの中から、いずれか1つの措置を講じなければならないというものです。職場に育休を取りにくい空気が流れぬよう、法が企業に何らかの措置を講じることを義務付けています。


・研修:育休に関する研修の実施
・相談窓口:育休に関する相談体制の整備
・事例収集:自社における育休取得事例の収集・社内共有
・方針周知:自社における育休制度と取得促進に関する方針周知


①も②も、隣人(部下や同僚)が休んで得をするのは許さないという職場の「空気」に着目して、企業にそうした空気を緩和する措置を義務付けたものです。大企業・中小企業問わず課された法律上の義務ですので、義務違反にならないよう、引き続き、選択した措置をしっかりと実施してください。

3.パタニティ・ハラスメントは許されない

育児・介護休業法10条は、育児休業・出生時育児休業の申出を理由とする不利益取り扱いを禁止しています。


出生時育児休業を取得した男性社員について、「出生時育児休業を取って仕事から離脱したから責任感がない」というマイナスの情意・態度評価をすることは、上記の不利益取り扱い(パタニティ・ハラスメント)に該当し、同法10条違反=違法となります。


当然のことですが、このような出生時育児休業を理由とする不利益取り扱いはしないようにしましょう。


他方で、育児休業や出生時育児休業が「不就業」であることもまた事実です。休みを取った分、他の社員とは労働量やパフォーマンスに差が生じることもあるでしょう。この「労働量」「パフォーマンス」の部分を適正に評価し、他の社員とは評価に差をつけても問題はありません。


あくまで「労働量」「パフォーマンス」で差のついた部分を比例的に評価するのは可ですが、それでは説明のつかないような、権利行使したことそれ自体を問題とするような評価はNGということです。



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執筆者:石嵜・山中総合法律事務所 弁護士 橘 大樹
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