Netpress 第2295号 取引上の留意点など 「フリーランス新法」に関して押さえておくべきこと

Point
1.フリーランス取引の適正化を図るため、先の通常国会で「フリーランス新法」が成立し、取引条件の明示、支払規制のほか、禁止される行為が定められました。
2.仕事を発注する立場にある事業者は、フリーランス従事者の就業環境を整備することが求められます。


岡村綜合法律事務所
弁護士 米田 龍玄
弁護士 久保諒太郎


1.はじめに

(1)フリーランス新法とは

デザイナー、イラストレーター、原稿執筆者(ライター)、入力作業者等、1人で仕事を請け負って収入を得る形態は、昔からありましたが、昨今、働き方の多様化とインターネットの発達も相俟って、その職種は増加しています。


そして、企業がフリーランスに発注する際、情報や交渉力の格差によって、フリーランス側に不利な取引条件が押しつけられる事例があるとの声を受け、2023年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆる「フリーランス新法」(以下「新法」といいます)が成立し、5月12日に公布されました。2024年11月までに施行される予定です。


(2)これまでと何が変わるのか

フリーランスへの発注は業務委託契約が通常であり、その取引条件については、当事者間の自主的な判断に委ねられます。この点について、従前も、独占禁止法に基づく優越的地位の濫用の禁止や、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の適用がありましたが、適用範囲が限定的であるなど不十分であると指摘されていました。


新法では、フリーランス取引の適正化を図るとともに、フリーランス従事者の就業環境を整備するための規制が設けられました。そのため、今後の企業活動に及ぼす影響は少なくないと考えられます。

2.適用対象

(1)フリーランスとは

新法で保護の対象となるのは、①従業員がいない自営業の個人と、②他の役員や従業員がいない1人社長の法人です(法2条1項「特定受託事業者」)。


フリーランスとして保護を受けるのは、「従業員」を雇っていないことが必要ですが、短時間・短期間(週労働20時間未満・30日以下)のアルバイトは、ここでいう「従業員」には含まれず、フリーランスとして保護を受けられます(衆議院内閣委員会での答弁による)。この点は、ガイドラインが示される予定です。


(2)新法が適用される範囲

従業員を雇っている自営業者や、社長以外の役員や従業員がいる法人が発注者である場合には、新法の規制を受けます。個人の消費者が発注する場合は適用されません。


対象となる業務は、業務委託の大半が広くカバーされます。具体的には、物品の製造・加工、プログラムや映画・放送番組、文字や図形・記号と色彩の組み合わせによるデザインといった情報成果物の作成のほか、役務の提供であり、追って政令が定められます。

3.フリーランス新法による規制内容

(1)取引条件の明示

発注後直ちに、発注業務の内容、報酬額、支払期日などの契約条件を明示しなければなりません(法3条1項本文)。明示の方法は、契約書や発注書等の作成のほかメールでも構いません。記載事項の詳細や明示方法等は、今後、公正取引委員会規則で定められる予定です。なお、この規制は、フリーランス同士の場合にも適用があります。


(2)支払規制

報酬の支払いは、給付受領日または役務提供日から60日以内でなければなりません(法4条1項本文)。月単位の締切日を設ける場合は、翌月の応当日に支払う必要があります(例:末日締め、翌月末日払い)。


フリーランスの仲介会社の場合は、元発注者の支払期日から30日以内に支払う必要があります(法4条3項)。


(3)一定期間以上の業務委託である場合の禁止事項

今後、政令で定められる一定期間以上の業務委託では、以下の行為が禁止されます(法5条)。


・ 一方的な受領拒否

・ 一方的な報酬減額

・ 一方的な返品

・ 著しく低い報酬での買いたたき

・ 自己指定物の購入やサービス利用の強制


また、金銭や役務等の経済的利益を不当に提供させたり、不当な変更・やり直しをさせたりして、フリーランスの利益を害することも禁じられます。


(4)フリーランスの環境整備

フリーランス従事者の就業環境の整備として、以下の規制が設けられました。



募集に当たり、虚偽表示や誤解を招く表示は禁止されます。また、掲載内容は正確かつ最新に保つ必要があります(法12条)。

フリーランスが、妊娠、出産、育児または介護と、業務とを両立できるよう、申し出があった場合に必要な配慮をすることが求められます(法13条)。

フリーランスに対するセクハラ・マタハラ・パワハラに係る必要な措置を講じなければなりません(法14条1項各号)。また、これらの相談等に関連して、契約解除等の不利益な取扱いをすることが禁じられます(同条2項)。

フリーランスとの契約を解除する場合や、契約期間の満了後に更新しない場合は、少なくとも30日前までの事前予告が必要になる場合があります(法16条1項本文)。また、解除等の理由開示義務を負います(同条2項)。これらの詳細は、今後、厚生労働省令で定められる予定です。


4.最後に

各規制の違反を疑われると、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省による調査が行われ、必要に応じて、指導、助言、勧告、命令、公表が行われる可能性があります。


フリーランスとの取引の適正化と就業環境の整備のため、新法を機に改めて発注の仕方や社内体制の整備状況を確認するようにしてください。



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