Netpress 第2293号 経営戦略シリーズ② 経営戦略策定のためにどのような情報を収集するか

Point
1.これからの企業経営者には、「外部のノウハウ」を取り入れる柔軟性と多様な情報を結合させる広い視野をもったマネジメントが求められます。
2.この連載では、計6回のシリーズで、経営戦略実行のための戦術等について説明していきます。


ABDアソシエ株式会社
代表取締役 栗原 浩夫



経営戦略シリーズの第2回目は、経営戦略立案の手順として、まず、経営環境の把握と成長の方向性を探るための基礎情報の収集と整理の手順について説明します。


中堅・中小企業の経営者から話を伺うと、経営者自身の過去の経験や将来の期待をもとに、合理的根拠のない「希望」や「気合」によって戦略や計画を掲げているケースが多いことに気が付きます。


もちろん、自社の事業を知り尽くした経営者の肌感覚は、あながち間違いとはいえないでしょう。しかし、不確実性、複雑性、曖昧性、変動性など、未来を予測しにくい不安が多い経営環境のなかでは、より柔軟かつ多面的な経営目標や企業戦略が求められることから、「何を?」「なぜ?」の判断基準をわかりやすくするためにも、客観的分析や外部の情報に基づく、根拠のある企業戦略や計画を策定することがますます重要となっています。


今回は、経営戦略立案を担う経営者から質問を受ける「経営戦略策定のための基礎的情報として、どのような情報を収集するべきなのか」について解説します。

1.情報収集のためのフレームワーク

(1)3C分析と自社分析の重要性

3C分析は、情報収集の対象を「Company(自社)」「Customer(市場)」「Competitor(競合)」とするものです。


そのなかでも優先的に必要となる情報は「自社」の現状把握です。


経営者は、経理担当者や外部税理士が作成する決算書や、営業、システム、人事等管理部門からの社内報告によって経営状態を把握しているとは思います。ここでいう自社の現状把握は、部門が管理する結果的な情報だけではなく、全社の細部まで企業活動の実態を再確認することを意味します。健康診断に例えるなら、定期的に行う健康診断ではなく、CT検査やMRI検査といった全身の精密検査のようなイメージです。


自社の現状把握をするうえで分析対象となるのは、過去の財務分析だけではありません。事業セグメント、取引先、製品別の販売実績や採算分析、取引先ごとの取引条件の再確認、事業や経理オペレーション全体把握とボトルネックならびに改善可能事項の抽出、人員や機械稼働の状況や残業の発生状況の確認、社内管理体制の確認、法令順守への対応など多岐にわたります。


自社診断の結果が明確になると、処置や処方、日々の健康管理もはっきりします。たとえば、以下に挙げたような課題はどの企業にも多く存在するでしょう。


・企業活動の慣習で看過されていること

・そもそも分析するためのデータが整備されていないこと

・現場担当者の手が回っていないこと

・客観的にみると合理性に欠けること

・良いと判断されていたことが実は課題を抱えていたこと

・在庫、投資等の資金が考えていた以上に必要となること


こういった社内に埋もれていた課題の見直しによって価格競争力等の差別化が実現し、戦略的に水平展開や垂直展開になる可能性をもった製品やサービスが発見されるケースがよくあります。


また、企業戦略というと市場での競合企業との戦い方をイメージしがちですが、自社を精査することで社内管理体制の整備やIT、DX化等の投資戦略といった生産性向上のための実現性の高い戦略を検討するきっかけにもなり得ます。


自社分析・調査では、他部署にまたがる情報の統合や社内利害の調整等の困難な作業が伴うため、経営者のリーダーシップが求められます。また、分析の客観性を担保するために外部専門家の知見を活用することも有効です。


(2)PEST分析

PEST分析は、市場環境について「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会価値観)」「Technology(技術)」の観点から情報収集を行い、俯瞰するものです。




各情報を収集する手段としては、政府公表のデータ、業界団体のデータ、業界誌のデータ、調査会社作成のデータ、金融機関等の調査部レポート等がありますが、マクロかつ遅行データであるため、あくまで業界環境の現状を推定するための情報と捉える必要があります。


これらのデータから、自社の製品やサービスの将来ポテンシャルやリスクを整理していきます。


(3)5F(ファイブフォース)分析

5F(ファイブフォース)分析は、自社が関わるステークホルダーの影響力を「新規参入の脅威」「仕入れ先の交渉力」「買い手の交渉力」「代替品の脅威」「競合企業との競争環境」の観点から整理するものです。




各情報を収集する手段としては、競合企業のホームページ、調査会社の調書、有価証券報告書、Bloomberg等のデータベース会社のデータ等があります。一方、競合企業の内部情報や製品評価等を知ることは困難なため、共通の取引先へのヒアリング等により日頃から情報を収集する工夫も求められます。分析をするうえでは、これらの情報を複合的に捉えることで競合企業の状況を推定します。


経営者は、これらの複合的な情報から自社の製品やサービスの差別化や競争優位性等を発揮し得る市場の検討等、実現可能な戦略の選択肢を整理していきます。

2.フレームワークの活用の注意点

経営情報の収集・整理にあたっては、いくつかの代表的なフレームワークが使われます。フレームワークは、どれか一つの手法を活用すれば十分ということではありません。各々のフレームワークの違いを理解し、目的に沿った情報活用と総合的な情報整理を行うことで、自社の状況を俯瞰的かつ客観的な目線から捉えることが重要です。


また、情報収集や戦略立案にあたっての実務は、社内の関係各部署を横断し、情報元が多岐にわたることから、企画担当者にはプロジェクトマネジメントやデータベース活用等の相応のノウハウが求められます。このため、経営戦略策定にあたっては経営企画等の専属担当を選任して実務を進めることが有効です。


次回(シリーズ第3回)は、収集した情報から事業戦略の選択肢を検討するためのフレームワークを説明します。



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